恋するあの子は精霊知能
そこはかとなくバカップルの馴れ初めを聞かされそうな気がして、独り身の俺ちゃんとしてはなんとも戦慄が走る思いでいるわけなのだけど。
珍しくも完全に面白がっているヴァールの姿も新鮮だし、何より俺自身が気になる。精霊知能ステラ、何がどうしてそんな面白そうなことになってるんだ?
「聞かせてくださいー! え、めっちゃ楽しそうじゃないですかー! なーんでもっと早く教えてくれなったのかリーベちゃん、不満、不満ー!」
「少なくとも一年前の時点では後釜、お前はアドミニストレータ計画遂行のために多忙極める身の上だったろう。それに先程も言ったがサブプランに関わる話だ。ワタシとて、ステラが神奈川と行動をともにするようになってから初めて知らされたのだぞ」
何よりこの場にいる誰よりもテンション高くはしゃいでいるのがリーベだ。こいつ、完全に人の恋バナを聞く女子モードに入っていらっしゃる……
見れば香苗さん、エリスさん、葵さんといった女性陣はみんな聞き耳を立てて息を殺している。なんならマリーさんに神谷さんまで興味津々って感じだ。
年齢問わずやはり、そういう話って気になるものなのかもね。
反面、精霊知能について知識も少なければ恋バナにもあまり食いつけないんだろうサウダーデさんとベナウィさん師弟がちょっと苦笑いして一歩引いた感を出している。
二人してダンディズムの極みみたいな雰囲気だけど、ぶっちゃけ唐突に始まった女子会に困り果てているだけなんだからおつらい。
なんなら俺だってぶっちゃけ、女性陣ほど齧り付きで聞きたい話とも思ってないし。そっちに行きたい気分ですらあるね。
地味な温度差を感じる中、シャーリヒッタがはしゃぐリーベに苦笑いして答えた。
『その辺、完全にステラの独断だからなー。経緯についてさえあいつ、話すのを渋ってやがったよ。"あの人と出会えた大切な思い出を、できればこのまま独り占めにしたかった"なんて聞いてるこっちがむず痒くなりそうな台詞吐いて、あのワールドプロセッサまで動揺してたからな』
「う、うっひゃー!! あのステラちゃんが、あのステラちゃんがそんなコッテコテな台詞言ったんですって公平さんー!!」
「人間と精霊知能のラブラブカップル……だってさー、葵」
「はっはっはー! あるものなんですねーそう言うの。異類婚姻譚って言うんですかね」
なんとまあ。女性陣がキャーキャー言うのを横目に、俺は少なからず驚きを抱いていた。
精霊知能が、本気で人間に想いを寄せているっぽいのか。ステラ……俺は直接話したことはもちろんないし見たことすらない、名前だけ知っている子だけれど、そんな風になれるほどの出逢いが、現世の人間との間にあったのか。
それはとても、素敵なことだと率直に感じる。人格を得た彼女が、そうして誰かを愛し恋することを知ったのならば、それは紛れもなく祝福に値することだ。
コマンドプロンプトとして、心から祝いたいと思うよ。まあそれはそれとして今の話を聞いただけですでに、口から砂糖をダッバーってしそうな俺は砂糖量産機の才能があるとも思う。
さておき、ステラがそんな風になるに至った出会いがヴァールの口から語られていく。
彼女自身も後から知った話のようで、細かいところは私にも測りかねるが、と前置きをしてから言う。
「一年前。ステラが聖剣を管理していた山奥に偶然、迷い込んだ非能力者の男がいた。後から聞いたことだが死んだ親の借金の取り立てで殺されそうになり、山を経由して逃亡したところ遭難した挙げ句、たまたま件の遺跡に避難してきたのだ」
「え。いきなり何それハードで怖ぁ……」
さっきまでの砂糖はどこへ? と言いたくなるくらい闇の深い話から始まったぞ。親の借金で子が取り立てられるのもキッツいけど、その上殺されそうになって山に逃げるしかなかったってのがなおのこと辛い。
その男の人、マジで偶然ステラのいる山に登ってなかったら早晩、人生が終わっていたかもしれないってことじゃないか。ステラにとっての運命の出会いだったんだろうそれは、男の人にとっては救いとの出会いと呼べるものだったのかもしれないね。
「遺跡の奥で男はステラを見つけ、ステラは男を見つけた。そして幾ばくかのやり取りを経て、大変な事態が起きた」
『へへへ! それがまたすげえ話でさ、父様! ステラのやつ、その人間──神奈川千尋に聖剣使用権限を付与しちまったんだよ。非オペレータなそいつに、ステラ自身のステータスを貸し与えることで一時的にオペレータに仕立てたんだ!』
「…………なんで!? っていうか神奈川さん非能力者なの!?」
何がどうなってそうなったんだ!? 過程がすっぽり抜けてるよ!?
運命的な流れで出逢ったステラと男の人──神奈川さんの馴れ初めはともかくとして。そこからどうして自分の持つオペレータとしての能力を神奈川さんに貸し与えるなんてことになるんだ。まるで意味がわからないぞ。
思わずツッコんじゃった俺に、ヴァールは苦笑いしてさらに続けて説明した。
「端折りすぎたな……平たく言えば敵襲があり、そうせざるを得なかった。借金取りという名の犯罪能力者が、神奈川千尋を追って遺跡にまで踏み込んできたのだ、山形公平」
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