システム領域一家の家庭内凸凹事情
なんか急に俺にも、首都圏に来て犯罪組織と戦えという無茶振りが来てしまった。
なんでも連中の、とりわけダンジョン聖教過激派の目的が私達、すなわちシステム側にも関係していることだからとヴァールが言う。
先日、概念存在である赤鬼・鬼島から聞き出した話ではたしかに倶楽部やサークル、ダンジョン聖教過激派の目的が、システム側にも決して無視できない匂いのするものだったのはたしかだ。
中でも過激派の掲げているらしい"神の召喚"……召喚系スキル保持者を大量に集め、神の本体を呼び出すという無謀な目的については、最初に神谷さんから話を聞いた時点でもすでに無理じゃない? 仮にできたとしてそれヤバくない? なんてことを即座に思い至ったものである。
「──だからって、俺を名指しで呼ぶのは何かあったりするのか? 別に嫌ってわけでもないんだけど、そこは気になるんだよな」
会議も終わり、新川さんや郷田さんなど、各組織の主要人物が帰っていって残されたのはいつものメンツと神谷さん。
システム側の話をするにあたり、明確に関わりがありそうにない方々には先に話を済ませてお帰りいただいた形になるね。本来この部屋の持ち主である広瀬さんさえ、今は休憩室で待機というのだから申しわけない話だ。
そんな状況を作り出したWSO統括理事、ヴァールは俺の言葉に頷き、腕組みをして難しそうに言った。
「そうだ。サークルと過激派の拠点を調査していたアンジェリーナ達からの報告で浮かび上がってきたのだがな……ダンジョン聖教過激派の目的の仔細が判明するに従い、大変な事態が起きていることが明らかになった」
「おいおい……穏やかじゃないな。リーベにシャーリヒッタは何か、知ってたりするか?」
深刻極まる様子で嘯くヴァールに、嫌な予感がひしひしとする。
いつものメンバーと事情をご存知の方だけなので遠慮なく呼び出した、精霊知能シャーリヒッタにも含めて知っているのかと問い質すと、リーベと並んで二人、首を左右に振って困惑した様子でつぶやく。
「いえー、まだ把握してませんねー」
『こっちもだぜ、父様。ヴァールとホットラインを結んでるワールドプロセッサはなんぞ知ってると思うが、あの方はあの方で秘密主義っつーか、必要最低限のメンバーにしか話さねえからなあ』
「えぇ……? お前だって必要最低限のメンバーだろうに。自分の補佐役にまで秘密にしてあいつ、大丈夫なのかよ……」
シャーリヒッタの苦笑いに、さすがにちょっと待ってと頭を抱える。いくらなんでもワールドプロセッサ、抱え込みすぎじゃない?
500年もの間、全部丸投げしてきた俺が言えた義理ではないんだろうけど……それでもあまりに情報を独占し過ぎだって。方々の案件について、担当者と自分しか知らないというのは何かあった時にリカバリーが利かないと思うんだけど。
単純に負担が大きいことが心配になるし、補佐役としてずっと支えてきてくれた子に対してももうちょっと、信じてあげてほしいって思うよね。
少しばかりのそんな不安を、見せない程度に努めつつ軽くため息を吐く。それでもそんな俺に気付いてか、慌ててシャーリヒッタとヴァールが執り成してきた。
『まー、ワールドプロセッサにも考えがあるんだろうし。割と毎度のことなんで気にしてませんよ、父様』
「その、たしかにワールドプロセッサには話を通している。だが不確定情報も多かったため、ワタシのほうからも口止めしていた部分もあるのだ。まさかシャーリヒッタにすら話してないなどとは思っていなかったが……」
「あー……まあ、いつも通りといえばいつも通りなのかぁ」
「報連相に不備があるのが常態化してるって、わりと怖いねーハッハッハー」
慣れっこだぜ! と胸を張るシャーリヒッタにそれはそれでどうなんだとエリスさんが苦笑いを浮かべる。俺も同感です。
これまでの、邪悪なる思念との戦いにおいてはそれで良かったのかもしれないけれど……もうその辺の事柄が解決した今、いつまでもそのスタンスじゃ間違いなくいずれ大問題が起きるだろう。
たぶん聞いてるだろうから言うけど、もうちょっと考えてみてもいいと思うよ、ワールドプロセッサ。新しい時代が拓かれた今、考え方やスタンスもそれに合わせていったほうが良いんじゃないかなあ。
心の中で語りかける。どうせみんなが集まっているこの場面をあいつも見ているだろうし、ちょっぴりでも考えるきっかけにしてくれると嬉しいんだけどね。
「とはいえまさか、自分の補佐役にすら隠していたのは想定外だった……すまないシャーリヒッタ、不快にさせてしまったならばワタシからも謝罪する」
『気にすんなってヴァール! お父様がオレを想ってくださってるのを知れて、むしろ感謝したいくらいだぜ! サンキューな、妹よ! 愛してるぜ、父様ー!』
「お、おう」
「それとこれとは話が別だ、ワタシは断じて末妹などではない! ……後釜、何を笑っている」
結果的に補佐役であるはずのシャーリヒッタをおざなりにしてしまった形となったヴァールが、申しわけないと謝罪を口にした。
生真面目な彼女らしい言葉を受けて、豪快に笑うシャーリヒッタ。やはり俺は父でヴァールは妹なのね。疑似家族が着々と形成されていっているな、彼女の中で……
そしてそんなやり取りにニヤニヤと、いやニタニタと笑みを浮かべるリーベちゃん。
推定長女らしいもんな、そりゃそんな顔するよね。
「えへへー、リーベちゃんが長女ちゃんおねーちゃん!! えへー、甘えてきてもいいんですよーヴァールぅ。お姉ちゃんがなんでも聞いてあげちゃいましょー!」
「さて、そろそろ話を戻すか。ええと、ダンジョン聖教過激派の呼び出そうとしている神の正体についてだな」
「あれー?」
ドヤ顔で長女アピールをするけど華麗にスルーされ、ふえ? みたいな顔で首を傾げる我らがリーベ。
うん……まあ、話を続けようか!
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