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"初代聖女"エリス・モリガナ

 葵さんが伝えたのは、火野の頭部に乗る女性。半透明の精霊知能・シャーリヒッタを伴い、優しい眼差しで葵さんを見て微笑んでいる。

 同時に葵さんの落下速度が弱まった。緩く、優しいペースで地上へと。怪我をしないようにと優しく下ろされていく。スキル《念動力》による、弟子への介抱だ。

 

 弟子が地上に無事、降着したのを見てから。

 彼女──エリス・モリガナは不意に空を飛び、火野の眼前へと姿を見せた。《念動力》で、己を浮かせている。

 ついに視界に収まった求める者の姿に、火野が歓喜の呻きを漏らす。

 

「お、おおおおお……もり、がなぁ」

「因縁に、終わりを告げる時が来ました」

 

 喜びとともに名を呼ぶ火野とは裏腹に、エリスさんの表情は凪いでいてなんの感情もない。

 ただ、いつにない厳かな口調と言葉遣いでやつに淡々と告げていくばかりだ。

 

「二度に亘るモンスターハザードの実行。能力者犯罪組織・倶楽部における実質的な指導者としての活動。何より今、こうしてモンスターと化し世に混乱と破壊を招いている。加えてその他諸々の犯罪行為」

「もりがな、もりがな……!! もりがなぁぁぁ、おぉまぁえぇをぉおおおおおっ!!」

「────かつて聖女と呼ばれた者として。あなたを78年前に止められなかった者として。そして何より能力者犯罪捜査官として。火野源一、あなたを逮捕します」

 

 怒りでも憎しみでもない、使命感や義務感でもない。

 ただあるがまま、息をするのと同じくらいに当たり前のことをする、そんな感じの落ち着きぶりで続けて言う、エリスさん。

 これは……困惑する俺に、ヴァールの小さなつぶやきが聞こえた。

 

「懐かしい……そうか、あの頃のお前はそんなだったな、エリス」

「ヴァール?」

「あれもエリスだ、山形公平。いやあれこそがエリスだったのだ。78年前たまたま聖女という称号に選ばれ、巻き込まれつつも自分の意志で戦い続けた果てに、人間としての営みを放棄せざるを得なくなった……けれど笑ってそれを選んだ、一人ぼっちの少女」

 

 懐かしむように、悔いるように目を細めてエリスさんを見る。ヴァールの目には今、この時でなく78年前の昔日が見えているかのように俺には思えた。

 はるか昔、そんな少女がいたんだ。誰かのためにと戦い続けて、その末に本来あるべき人生を失ってしまった永遠の少女。

 今はもう、気にしてないようだけれど……それでもたしかに、その子は今もあの人の中に息づいているんだな。

 

 ナイフを逆手に持ち、彼女はバグモンスターを厳かに見る。

 ヴァールが同時に、どこか寂寞とした声音で言った。

 

「──初代聖女エリス・モリガナ。あれこそは78年という時を経る前の、懐かしき原初の姿だ」

「今この時に限っては永遠の少女としてでなく、初代聖女としてお相手しましょう……あなたがそう成り果ててまで求めた者として。エリス・モリガナ、参ります」

「もり、がな──!?」

 

 空洞の両眼を、それでも動揺したように震わせて火野が叫ぶ。

 と、同時にエリスさんが動いた。すさまじい速度で肉薄してナイフを振るい、やつの眉間に鋭い切っ先を突き立てたのだ。

 

「がっ──!?」

「私は、あなたの想いには応えない!!」

 

 叫び、そのまま真下に掻き切る。モンスターの顔面が、ぱっくりと真ん中から裂けて中身の肉を露出させた。

 グロテスクな光景だ。再生能力が完全に機能不全に陥った今、あの傷は早々治らないだろう。すなわち火野の顔面は事実上破壊されたことになる。

 

 すさまじい斬れ味。エリスさんが普段遣いしているナイフの一本が、S級モンスターを両断できるほどの威力を秘めているなど思いも寄らないことだ。

 察するに《念動力》でナイフに何かしているな。超微細に振動させて威力の向上を図っているのかもしれない。78年前のあの人は、そんな技を使ってモンスターと戦っていたんだ……!

 

「も、ぎあはぁっ──!?」 

『火野源一の本体は胴体は心臓部にあるぜ、エリス! そのままザックリぶち抜いちまえ!』

「────私は、あなたの所業を赦さない!!」

 

 火野の気配は胴体部の中央、今やサウダーデさんが掘削している場所に近いところにある。

 シャーリヒッタが誘導しつつも発破をかければ、エリスさんはさらに叫び、異常な斬れ味のナイフをさらに突き立てて胴体まで切り抜けていく。

 サウダーデさんが内部から、エリスさんが外部から火野の本体を炙り出す形だ。両面からの破壊に、香苗さん、葵さん両名によって左右の腕を破壊された今の火野ではなすすべなどない。

 

「火野源一!! 愚かな妄執にすべてを焼かれた者よ!」

「が、ぐが……っ!?」

「あなたに踏みにじられたすべての命に代わって今、私が鉄槌を下します!」

『そこだっ! その地点、あとはまっすぐ貫き進めっ!!』

 

 人間で言う、心臓のあるあたりまでナイフを突き刺したまま下降してシャーリヒッタの叫びが響いた。火野はたしかにその奥にいる。たしかな命の気配を感じる。

 エリスさんは一度、ナイフを抜いて大きく振りかぶった。同時に《念動力》を一点集中させて、目に見えるほどのエネルギーがナイフの切っ先から飛び出す。

 

「犯した罪に、等しき罰を!!」

 

 そしてその、伸びた刀身を縦横無尽に振るい──火野本体へと向かうべく、邪魔なモンスター体をひたすらに切り刻み内部へと侵入し始めたのだ。

 《念動力》による、武器の強化。

 少なくともシステム側は想定してない使い方だ。そも可視化するほどに凝縮された思念エネルギーなんてものが、想定の埒外だ。

 

 現世の物理作用にすら影響する、生命エネルギーの具現化──まさか、バグスキル《不老》の原因はあれか?

 スキルを用いて己の生体エネルギーを物質化させたことで、肉体年齢停止バグが発動するなんらかの要件を満たしたのか。

 

 真実は、今は分からない。戦いの中で編み出した技術が彼女を永遠の闘争に追いやったなんて、考えたくもない悲劇だ。

 だから今はただ、決着を見届ける。78年前に起きた戦いの最後の結末を。初代聖女と、それに魅せられた外道の一つの終わりを。

 

「見つけました、火野源一ッ!!」

「っ、モリガナ! ついに会えたな、モリガナーッ!!」

 

 俺の目にももはや見えるか見えないか、というくらいモンスターの内部まで潜り込んだエリスさんの声が微かに響いて聞こえた。

 同時に老爺の嗄れた声──火野老人の声も。

 

「まだ終われぬ! ここからが儂の真の戦いじゃ、モリガナァァァ!!」

『いいや、もう終わりだね──火野源一、お前さんの状態を半日前まで強制的にロールバックする!』

 

 シャーリヒッタが鋭く叫んだ。瞬間、バグモンスターの全身が淡く、白く光っていく。

 俺が青樹さんに行ったロールバックスキル《風浄祓魔/邪業断滅》と同様の、ロールバック処置だ──これでバグモンスター化をなかったことにして、火野の因果を復活させる。

 

「な────っ!? な、んじゃこれはッ!? こ、これは、青樹の時と、同じッ!?」

 

 モンスター体となった火野の巨体はやがて粒子となって消え去り、地上には半日前の姿をした火野が露わになる。

 まるで予想できなかったのだろう。青樹さんが同様にして人間に戻されたところを見ていたらしいが、あの時は体内に潜った俺によるものだったからな。シャーリヒッタの存在も、そもそも何が行われたのかも知らない以上は、狼狽するのも無理はない。

 

 それでもとっさの判断をするのはさすがの悪辣さというべきか。

 やつはすぐさま、己の持つ無敵の能力を発動せんとする。

 

「ッ、《玄武──」

『続けて第三種異分子処断権限発動、対象火野源一! バグスキル《玄武結界》を今より剥奪する!!』

「────ぬぅっ!?」

 

 バグスキル《玄武結界》。任意の対象に無敵状態を付与する結界を張るその能力を使用せんとして、しかしそれはシャーリヒッタによって妨害された。

 第三種異分子処断権限……対象:火野源一。オペレータに対するあらゆる権利を持つ今の彼女には、火野限定でだが俺以上の干渉が可能だ。

 

 そう。バグスキル封印のみならず、剥奪さえも。

 ステータスの改ざんも、ロールバックも、封印でさえも。

 

『火野源一、もう詰みだ──続けてステータスロールバックの実行。スキル、称号、レベルを78年前に戻し、固定化して凍結封印する』

 

 火野源一という探査者を構成する、ありとあらゆるすべてのステータスが今、78年前に戻されて凍結された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今迄やってきたことを考えれば78年前までのステータスロールバックは必要でしょうね~ ただ、ステータス弱体化の影響による『ボケ老人化』を装いそうなんでそこら辺の対処も必要かと思います。 (『初…
[一言] 78年前で応前線レベルだったジジイである…封印されてれば問題ないか。
[一言] これがエリス・モリガナのリージョンフォーム、「しょだいせいじょのすがた」か……
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