師匠と弟子と─私はあなたを誇りに思う─
「穿てっ! プリズムコール・アークキャリバーッ!!」
炎、雷、光。三者三様の魔導系スキルが発動し、バグモンスター・火野へと迫る。
初撃は香苗さん。空に架かる巨大な虹、右腕から放つ巨大な虹色の剣──プリズムコール・アークキャリバーが、すさまじい勢いでバグモンスターの右腕に突き刺さる!
「まずは右腕!」
「ぐげががかかかかかっ!? ──もり、もりがなああああああっ!!」
深々と突き刺さる香苗さんの技。モンスターを強制的に消滅させてしまうほどの超絶的な威力を秘めたそれは、かつてはランレイさんやアンジェさんと潜ったダンジョンにおいて披露されたものだ。
香苗さんだけが習得している、極めて繊細な出力調整技術によって無駄をなくし、その分のすべてを威力に上乗せしたまさしくS級探査者に相応しい技である。
それを受けて火野は苦悶に叫びつつ、けれど即座に反撃行動に出た。ぽっかり空いた口らしき空洞から、毒々しい色合いの光線をこちらに向けてはなってきたのだ。
まっすぐに来る! このままだと直撃だ!
「させませんよー! 《防御結界》!!」
だが、当然こちらも防御や回避を行うわけで。精霊知能リーベ渾身の絶対防御スキル《防御結界》が即座に発動していた。
俺達のいる地点を中心に半径30mほどに、ドーム状の結界が張られる。邪悪なる思念クラスでなければ破ることのできない特別製のバリアだ、いかなバグモンスターとて突破などできるものか!
「隙ありだ! 油断大敵だぞ倶楽部幹部!」
やつの攻撃をこちらに引き付けている間に、迫るはもう二人の魔導スキルの担い手。
《炎魔導》にて全身を炎に包んだサウダーデさんと、《雷魔導》にて稲妻を纏う葵さんが、これを好機と一気にやつへ肉薄していた!
「火野源一! 永きに亘り重ねた罪を今、問われる時だ!!」
「もりがな、もりがなああああああっ!!」
「求め叫ぶは、愛か憎悪か……! いずれにせよキサマの望みなど叶いはしない!!」
サウダーデさんの、雄々しくも力強い宣告。火野を断罪し、身勝手に任せてのこれまでをすべて否定する、熱血漢の正義の雄叫び。
モンスターハザードによって御家族を失ったと聞いている彼は、だからこそ今回、このような事件を引き起こした元凶とも言えるあの男を決して赦しはしない。
しかして憎悪でなく、果てしない使命と正義の信念によって……サウダーデ・風間の、必殺奥義は発動される。
「その野望、郷愁をもって破壊する──サウダァァァァァァデッ!! ファイナルボンバァァァァァァッ!!」
身に纏う炎を一層激しくし、彼は飛び上がりバグモンスターの身体、俺が空けた風穴へと飛び移り暴れ始めた。
遠くからでも感じる圧倒的力の波動。空手、ムエタイ、カポエイラ、合気、テコンドー、躰道、柔道、中国拳法、ボクシング──俺が分かるだけでもとんでもない数の流派の動きを思わせる技が次々、繰り出されていく。
《格闘術マスタリー》によって数倍にまで高められたそれら技術の精度と威力は、弟子であるベナウィさんのフルパワーにもあるいは匹敵するかもしれない。
そんな破壊そのものと化した彼の攻撃に、バグモンスターはさらなる叫びをあげて苦しんだ。
「あぎゃああああああっ!? もりがな、もりがなああああああっ!!」
「しつこく、人の師匠の名前を呼んで──!」
激しく暴れ出し、アークキャリバーの刺さった右腕はともかく左腕を、めちゃくちゃに振るいだした火野のモンスター体。その合間を縫って流星がごとく、今度は稲妻を纏う葵さんが急接近するのを見る。
実力的には先の二人にまだ届かないからか、暴れる火野の腕を何発か受けて傷を負っている。血に染まっていく身体でそれでも、彼女はなお前進を続けた。
「くっ、う──!! お前、なんか……! お前なんか!!」
「もりがな、もりがなぁっ!! もりがな!!」
「お前なんかが気安くあの人の名前をっ、呼ぶなあっ!!」
振るわれる左腕にAMWフーロイータを突き刺し、葵さんは叫んだ。
頭から血を流し、鼻血や口から吐血までしているかなりの重傷だ。それでも、彼女は一切怯むことなく火野へと吼える。
「師匠は、エリス・モリガナはお前が安っぽく求めていい人じゃないっ!! 100年近くも世界を護ろうとしたあの人を、同じだけの期間世界を破壊しようとしたお前が欲するなっ!!」
「ごががががああああああっ!!」
「未だ至らない私だけれど……! あの人に届かない私だけれど! それでもお前だけは否定してみせるっ!! 火野源一、お前に師匠は渡せないっ!!」
突き刺したフーロイータに力を込める……スキルブーストジェネレータ、システム領域の思惑さえ超えた人間側の超技術が真価を発揮する。
未熟でも、届かなくてもその想いは紛れもなく本物だ。穢れない愛と友情は、欲望と罪に塗れた妄執など容易く超えていくだろう。
能力者犯罪捜査官、早瀬葵。
飄々とした態度の裏に、誰にも負けない使命感と優しさを持った素晴らしい探査者である彼女の全身全霊の一撃が今、発動する!
「プラズマチャージッ────アクセルライトニングッ!!」
「ぐぎぎぎががががががががががががっ!?」
左腕から左肩へ、一気に突き抜ける雷槍。
まさしくすべてを込めた彼女の必殺技が、香苗さんのアークキャリバーに続いて火野源一の腕を機能不全へと至らしめる。
だが、そこで葵さんにも限界が訪れたらしい。力なく突き刺さったフーロイータから手を離し、地上へと落ちていく彼女。
最後の力を振り絞り、細く、けれどたしかに声を上げるのが俺達にも聞こえた。
「後は任せます……! どうか因縁に、決着を……師匠」
「────ありがとう、葵。私はあなたを、誇りに思います」
そして、それに頷く彼女の声も。
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