もりがなー!も、もーっ、モアアーッ!!モアーッ!!
拘束され、あまつさえ誓いを破ったことで人間同然かそれ未満にまで弱体化した鬼島をヴァールに任せ、俺はバグモンスターへと視線を向けた。
未だ大きな穴の空いた巨大な化け物が、山間に立ちすくんでいる。傷口が徐々に、本当に微細ながら少しずつ回復しているのを見るに、自己再生能力はあるようだな。
「えーっと、戦況のほうはどんな感じだったりしますか? 戻ってきた途端迫ってこられたんで、つい咄嗟で反撃しちゃいましたけど」
「咄嗟であんな風穴空けるんだね……ハッハッハー。ぶっちゃけ一進一退っていうか、徐々に押してたかな? くらいだよー」
「なんという神々しく、それでいて力強い一条の光芒……救世主様のお力は果てしなく、それこそ宇宙にあまねくあらゆる星にまで届いてしまうものなのですね。伝道師としてまた一つ、蒙を啓くことができました……!!」
エリスさんがどこか苦笑を浮かべつつ、しかし視線を鋭くしたまま答える。油断ない佇まいで、バグモンスターを見据えているね。
その隣で香苗さんがなんか、謎な感動でハラハラ涙を零しているけど怖すぎるのでスルーするね……
そして聞けば、バグモンスターに対してはヴァールとエリスさんが拘束しつつサウダーデさんとベナウィさん、葵さんが攻撃を行っていたみたいだ。
しかし相手も再生能力が活発ゆえ、攻め立てても一息で責めきれない状況だったとのこと。
「《極限極光魔法》、チャージを経ての連続攻撃で一時はいい線いったのですがね、ミスター・公平。かなりの再生能力らしくその後、それなりに回復を許してしまいました」
「青樹の時より格段に再生能力が高い。とはいえそれにも限界はあるようで、当初に比べて明らかに回復量が少なくなっているのが見ていても分かる」
『父様が大穴空けてくれたから、ほぼ野郎の再生能力も打ち止めだろうよ。ま、それがなくともこのメンツなら、そう遠くないうちに追い詰めてはいたろうけどな。さすが父様の仲間達だぜ、大したもんさ』
ベナウィさん、サウダーデさん、そしてシャーリヒッタの三者から簡単に説明を受ける。
どうやら一気に押し切るのは無理でも、じっくり戦えば普通に勝てそうな状態のようだ。
《極限極光魔法》の特性、チャージすることで本来連発ができないはずの技を連発できるというチート火力をお持ちのベナウィさん。
ただ、連発後はクールタイムがありしばらく動けなくなるから、その間に再生されてしまったか。サウダーデさんや葵さんの攻撃も威力は抜群だけれど、そもそもサイズが違うからなあ。
手数が減ったことも受け、差し引きしてそこそこダメージを与えたところが今さっきまで。そんな折に俺が文字通り風穴を開け、やつの再生能力を完全に潰したってわけか。
今も佇む巨体は、間違いなく俺による負傷を癒やすためにすべてのリソースを割いているからな。咄嗟の行いでも役に立てたんならよかったよ。
あとうっかりでバグモンスター内のオペレータごと吹き飛ばさなくてよかった。
一応気配も何もない部位を狙って叩き込んだけど、万一ってこともあり得たからね。安心、安心。
胸を撫で下ろす俺に、ヴァールが提案する。
「再生能力もようやく枯渇した、叩くなら今だな。ベナウィ、《極限極光魔法》の再チャージは?」
「今しがたできました。いつでも行なえますよ」
「よし。再度攻撃を行う……今度はワタシや御堂香苗、後釜も加わっての一斉攻撃だ。ナビゲートはシャーリヒッタに任せる。いつまでもあのような化物をのさばらせておけない、次で決めるぞ」
拘束やサポートに回っていたメンバーまで攻撃に加わっての、バグモンスター退治のクライマックス。勝負時と頃合いを見ての指示に、探査者達は力強く頷く。
俺も参加するべきなんだけど、ヴァールから一旦は待機して後詰めに回るよう指示された。バグモンスターが隠し玉を持っていた場合などに対する対処役だな。
バグモンスターそのものは因果がないためどうにもできないけど、やつが引き起こす事象についてはどうにか因果操作もできるはずだ。
シャーリヒッタも攻撃方向のナビゲートを行いつつ、警戒は怠らないようでいる。第三種異分子処断権限をもつ彼女こそ今回の戦いのメイン、バグモンスターに対しての切り札というわけだね。
「……そういえば。あのバグモンスターの中身、やっぱり火野なんですかね」
「おそらく。いえ、間違いないですね。鳴き声が火野としか言いようがありませんので」
「鳴き声?」
スレイブコアを接種して、モンスターと成り果てた者は一体誰なのか。たぶん火野だろうけど何かしら、俺がいない間に判明したことがあるかもしれない。
そう思って質問を投げたところ、香苗さんが確信に近い断定を下した。鳴き声って何? と率直な疑問を抱いていると、ちょうどタイミングがいい話でバグモンスターが唸り声をあげた。
「くかげげげげげげげげ………もりがなぁぁあああああっ! もりがなぁぁあああああっ!!」
「…………え? モリガナ?」
「もりがなぁーっ! もりがなぁぁあああああっ!!」
「えぇ……?」
山どころか周辺地域一帯に響くその呻き、叫び。
もりがな────モリガナ。エリス・モリガナ。
そうだね、エリスさんをずっと呼んでるね。なるほど間違いなく火野だわ、あの中身。
うん。
「怖ぁ……」
「気持ち悪い。キモいとかキショいとかじゃなくて気持ち悪い。いやもうホントあいつ死なないかなマジで。ヴァールさん、もう殺しませんあいつ? 本当ムリなんですけどなんなのあいつ」
「怖ぁ……」
執拗に天下にモリガナと叫ぶ火野も、それに対して鳥肌を立たせながら純粋に殺意を抱いているエリスさんもどっちも怖い。
エリスさんが大好きなのはわかるけどライン越え過ぎである。やってきたこともそうだし現在進行系でやってることも、当の彼女本人から好かれる理由が微塵もなさすぎる。
いや何これ。マジ怖い。
「気持ちは分かるが堪えろ、エリス。私も一応女性性の精霊知能だ、アレが大変気色が悪いのは同感だが堪えるのだ」
『現世ってこえーなあ、あんな変なのがいてよォ。父様、いつでもシステム領域に帰ってきてもいいぜ? あとリーベも』
「ついでみたく言うのやめてもらえますー? いやーしかし、アレは酷いですよねー。普通にないですよアレはー」
追随しての精霊知能三人娘のセリフも辛辣だ。
いやまあ、さすがにアレは酷すぎるけど。何かを拗らせた末としてもあまりに酷いよ。
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