山形公平。探査者さ(キリッ)
なんかいろいろいる。
率直に抱いたのはそんな感想だ。
「くけけけけけけけけ」
「ニンゲン、ニンゲン……! 食いてぇ〜」
「一枚足りなーい」
「恨めしや〜」
正直、妖怪についてはあんまり詳しくないんだよね。
だからこう、ぬりかべ? とか一反木綿? とか、雪女みたいなメジャーどころくらいしか分からないし、何もかもうろ覚えだしで個別にどういう連中が来ているのかは判別できなかったりする。
ただまあ、それでも今、まさしく百鬼夜行って感じでやってきたモノ達が妖怪と呼ばれるカテゴリーの概念存在だということは疑う余地もなく。
目の前に山のように押し寄せてきている大軍勢に対して、とりあえず権能を行使するのは俺の立場上、当たり前のことではあった。
「この領域にいる妖怪達よ。お前達はみな、《動かないから動けない》ぞ」
「────!?」
蠢くモノどもが、俺の一言で完全に静止する。因果操作──結構な負担がのしかかってくるが、神魔終焉結界の機能により軽減。
転移させるでもなく足止めするくらいなら、たとえ津波のような軍勢であってもこのくらいはなんとかできる。
動きの一切を封じられた妖怪達がざわつくのを尻目に、俺は今しがた話しかけてきたリーダーらしきモノ、軍勢より数歩前に出たところにいる老爺へと言葉を投げかけた。
「理解してもらえるとありがたいけど、あなた達に俺をどうにかすることはできない。これは思い上がりでも増長でも傲慢でもなく、厳然たる事実だ」
「……どうやらそのようだ。かつてないことだ、我々がこうまで即座に、かつ完膚なきまでに封殺されるなど」
「な……何者だ、キサマ……ッ!!」
理解の早い老爺が、深刻な面持ちで俺を見据える。何者か、見定めようとしているんだろう。赤鬼も同様に睨みつけてきて誰何を問う。
なるほど。よっぽど俺のことが気になるみたいだな、概念存在的には。先日の織田もそうだけど、いきなりどこかから現れて好き放題やってる俺やヴァールは、このモノ達からしたら目の上のたんこぶどころでない。明確な障害物というわけか。
ともあれ、ほぼ脅迫みたいな形ではあるものの対話の場はできた。いや本当、ここまで強引なことをしたいわけじゃなかったんだけどね。
もうこの時点ですでに気疲れするものを覚えつつも、俺は老爺と赤鬼へと答えた。
「探査者、山形公平。それ以上のことはあなた方が知る必要のないことだし、知ったところでろくなことにならないモノでもある」
「権能を使いこなす、それもこの範囲、規模の集団をまとめて封じる力強さ……よもや名のある神か? まさか、存在の可能性だけは論じられている、我ら概念存在の始祖たるモノとでもいうのか」
「うん? ……いや、あなたの言うモノは知っているけどそれとはまた別口だよ。そもそも俺は概念存在ではない」
始原の4体、もしかしたらいるかも? くらいには論じられているんだな。
あるいは哲学的な議論の中で至ったのかもしれない。今いる概念存在より前に、何かがいたのではないか? 的なね。
創造神を創造したのは何者か、というある種のパラドックスを孕む命題。そこまで辿り着いているなら概念存在達も早晩、システム領域の存在を議論し始めるのかもしれないな。
それを考えるとこの時点で織田に、ほぼ答えに等しいヒントを渡したのは割と正解だったかもしれない。最高神クラスまで一緒になって追求しはじめたら割と厄介なことになるし。
思わずしてのファインプレーに俺ちゃん、グッジョブだ。
「俺はただ、あなた方よりは少し多くのことを知っているだけのモノにすぎない。本来ならこうして出しゃばるような立場でもないんだけど……そこな赤鬼が現世で暗躍しすぎているため、今回介入させてもらった。とはいえ話し合いで、できる限り穏便に済ませたいと思っていることはご承知いただければ幸いだよ」
「…………ここまでのモノが現世にいるなど。やはり大ダンジョン時代は異質極まりない、我らの懸念はまさしく正鵠を射ていた」
「おのれ、バケモノ……!! 現世を過剰なまでに強化して、一体何を企んでいる!!」
努めて対話でお帰り願いたい旨を伝えたところ、老爺の姿をした妖怪も、赤鬼も、ひどく焦燥した様子で呻く。
これは、大ダンジョン時代そのものに絡む話なのか? 先程もたしか、現世の変化をたしかめていただの言っていたけど。彼らがここまで現世に介入している理由とは、つまるところ大ダンジョン時代における変化が根本にあるのか。そしてその変化に、彼らは大きな懸念を抱いている。
となると、その懸念とは何か。
これまでの会話の中から、俺は推測できるところを述べた。
「……探査者の存在か? 上位層にもなれば神々をも凌ぐ力を持つ彼らを、あなた達は恐れているとでも言うのか」
「御名答。そしてその調査と対策を行うために今回、彼ら妖怪は倶楽部なる組織に協力したわけです」
口にすれば、不意に背後に現れる気配。そして乾いた拍手とともに、俺の言葉を肯定してくる。
振り返るとそこにいるのは────
「いやはや、まさかこのようなところでまた出くわすとは。死んだわけでもないのでしょう? つくづく、規格外の存在ですねあなたは」
「織田……」
スーツ姿に、両腕いっぱいにお土産袋を抱えたサラリーマン風の紳士。
概念存在・織田の現世での姿がそこにあった。
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