三途の川にて─山形vs鬼島─
掴んだナニモノかとともに転移する──現世ではなく、概念存在の座する領域へ。
神魔終焉結界の力により、人間の体でもなんら問題なく進入できるようにはなっているのだ。いずれこの姿のまま、システム領域ほか別次元にまで顔を出すかもしれないかな? って考えて織り込んだ機能だったんだけど、まさか真っ先にこんな形で使うことになるとはなあ。
概念領域の一番外側、あらゆるモノの出入りするまさしく三途の川のような、彼岸と此岸を隔てる河原に現出する。
各人の宗教観にもよるけど、死んだ人は概ねこんな感じのところにたどり着く。花畑だったり、河原だったり。そして現世から概念領域へと渡り、そこから輪廻へとまた還っていくのだ。
この辺、モンスター達に宿る異世界の魂とは別の処理が行われているね、当然だけど。
「さて、と。ほら、懐かしの故郷の玄関口だぞ、鬼島……でいいんだよな? お前が」
「────っ!? キサマ!」
この領域に出るなり姿を見せた、ヒップホップでラッパーって感じのダボッとしたファッションの男。件の鬼島は間違いなくこいつなのだろう、魂からして異質である。
神でなく、悪魔でもない色合い。妖怪だな、こいつ……それこそ名は体を表す。さしずめ鬼ってところか。
無造作に河原に投げ捨てると、男はあからさまに狼狽した様子で俺を睨みつけた。困惑と混乱、そしてたしかな恐怖がそこには浮かんでいる。
奇襲を仕掛けたと思ったら反撃とばかりに古巣に連れ戻されたのだ。目の一つ二つは白黒してもおかしくないか。
それでもすぐにこちらに殺気を飛ばし、立ち上がってやつは力を解放した。
「転移までするのか! キサマ、山形公平ッ! ──ウォアアアアアアッ!!」
その身体が変わる。現世用の肉体が弾けて破れ、中から真の姿を浮かび上がらせていく。端末に同期させる形で本体を呼び寄せたか。
3mを超える巨大な鬼の姿へと変貌を遂げる暫定鬼島。イメージ通りの赤鬼、っていうかこいつやこいつの同種がイメージ元なのだ。人々に広く浸透している"赤鬼"の姿こそは、彼らの魂が彼岸に赴く際に見た赤鬼の姿なのだろうから。
そんな超大物と言っていい鬼は、権能を使ってか現出された巨大な金棒を手に取り俺に向けて構えた。
うーん、おとぎ話チックな光景だ。こんな状況でなきゃ、桃太郎の逸話とか泣いた赤鬼のエピソードについてお聞きしてみたいこととかあるかもだけどね。今は敵だし、仕方ない。
俺は神魔終焉結界の機能で中空に浮き上がりながら、鬼へと問うた。
「倶楽部幹部の鬼島として、現世にて暗躍していたのはお前だな? 答えろ、何を目的としてそんなことをしていた」
「答えると、思っているのかァァァッ!!」
「答えなければ何もできんからな──《動くな》」
問答無用とばかりに俺へ、金棒を振ってくる鬼。見た目の力強さに恥じない一撃が、力任せゆえのとてつもない威圧感を伴って迫る。
まともに食らえばさすがに痛そうな攻撃だ。結界のバリアすらぶち抜きかねないだけのど迫力が、そこにはあった。
──だが、なんの問題もなくコマンドプロンプトとして対応する。青樹さんや織田へも使った、世界の最上位プログラムの魂による威圧だ。
雄壮そのものな鬼であっても、さすがに為す術もない。振り下ろさんとしていた体の一切が停止し、やつは身悶えすることさえ叶わずに呻くしかできなくなった。
「ッ!? こ、これは、馬鹿な……俺が、こんな、気圧されてッ」
「《質問に偽りなく答えろ》、お前は鬼島という名前で、倶楽部の幹部として現世で活動していたな?」
「そ、うだ────!?」
少々の威圧も、ここまで魂の次元が違うとそれは絶対命令権さながらの強権へと至る。あまり使いたくないんだけどな、こういうの。
とはいえ使わなければそれこそこいつを血祭りにあげなければいけなくなる。平和的解決と思って大目に見てもらいたいと思いつつも問いかければ、やつは自身が鬼島であることを認めた。
愕然と、答えさせられたことに戦慄する鬼島。驚きのところ悪いが、ここで洗い浚い喋ってもらおうか。
お前の、お前達の目的が何かをな。
「そうか、では鬼島。お前は現世で何を企んでいた? 倶楽部……サークルや委員会もそうだが、一連の組織は現世の大ダンジョン時代において何を目的に動いている?」
一息に核心について問いかける。つまるところこいつらは、何かを成すために現世で暗躍していたのだ。
であればその目的さえ明らかになれば、こちらとしてもどうとでもできる。もうすでにシステム領域もガッツリめに介入してるわけなので、やらかしてる概念存在のみピックアップして対処することさえ可能だ。
「そ、それは……っ! お、俺は、俺達は……っ!!」
さすがにこの問いかけには抗おうとするか。本気で言えない、言いたくないことのようだな。
だが関係ない。現世であれだけ好き放題しておいて、いざ自分達が好き放題されるとなったらそんな風に抵抗するなど、誰が許そうが私が許さない。
そう考えて、さらに威圧を強めようとした瞬間だった。
「──我々はたしかめていた、現世の変化を。そして試していたのだ。我々にできることは何かを」
「…………お出ましか。ずいぶんとまた、団体様のようで」
彼岸の川の向こうから、新たに無数の魑魅魍魎。
概念存在は妖怪の軍勢が、大挙して押し寄せてきたのだ。
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