バグモンスターは ヤマガタたちが みがまえるまえに おそってきた!
シャーリヒッタの健気なスタンスに、ついつい父娘認定してしまった俺ちゃんだったが、いよいよ感知している気配に近づいてきたということでその辺のお話は一旦中止にした。
このまま行くとワールドプロセッサを嫁としなければならない話のイカれっぷりについて語りたいところではあったんだけど、ぶっちゃけ今はそれどころじゃないからね。仕方ないね。
「そろそろ何か、施設とか人が見えてきてもおかしくないですが……どうですかね皆さん」
「今のところは何も……ただ、もう少し進めばあるいは。ちょうど登りですからね、今は」
気配の上ではもう近くまで来てるんだけど、いかんせん山中につき樹々が立ち並んでいるから視界が確保しにくい。
俺の他にも何人か目を凝らしてくれたけど、そもそも今が登り斜面の途中ということもあり、もう少し高い位置に出たほうが分かりやすいのではないかと香苗さんが言ってきた。
たしかにそうだ。俺は頷く。
「それなら、もう少し進行しましょう。本当、気配的にはもう100mもない────!?」
「公平殿、どうした?」
「何か見えた? それか、感知してる気配に動きが?」
不意に言葉を途切れさせる俺に、サウダーデさんとエリスさんが続けて声をかけてくる。けれとそのどちらにも対応できないまま、俺は、近くにいるはずのオペレータの気配を探っていた。
──小刻みに振動している。この手の感知系は概ね、脳内マップに薄ぼんやりした光が配置されているようなイメージで俺は認識しているんだけど、その光が細かく振動しているのだ。
この動き、明らかに異変だ。
俺はすぐさまみんなに大声で告げた。
「オペレータの気配に異常あり! 細かく振動している……膨らんでいく! 青樹さんの時と同じだ、モンスターの気配が、重なるように現出してきている!!」
「──バグモンスター!? 先手を打ったのか、やつらは!」
振動していくだけでなく、膨らみ、オペレータだけでないモンスターの気配をも増大させていく光。同時に山が震え始め、次第に地震とも言うべき振動へと変化していく。
間違いない、青樹さんの時と同じだ。やつら、包囲に勘付いて先にこんな真似をしたのか!?
危機感を顕に叫べば、全員、すぐさま臨戦態勢を取って俺とともに気配の先を見た。木々によって視界を遮られがちな山中に、今、2体目のバグモンスターが現れる──!!
振動が一際強く、そして少し先の山の高いところが、ピカリと一度だけまばゆく光った。
来る。気配はもはやモンスターそのものに成り果てている。その最奥に辛うじて、オペレータの気配を残すのみ。
この世にいてはならない存在。人間が、スレイブコアを喰らうことで成立してしまった因果の外の存在。
二体目のバグモンスターが今、俺達の前に姿を表す!
「来るぞ!」
「────グクククカカカカカカカカカカカカァァァッ!!」
そして、ソレは現れた。木々を薙ぎ倒し、巨大化していくその、ケモノ。
白い肉質。人間の柔肌のようなもので全身が包まれた、二足歩行のダンゴムシのような怪物。背中の部分が真っ赤な装甲に覆われていて、決して人間のフォルムはしていない。
ただ、人間のような手脚があちこちから飛び出ている様がひどく、グロテスクだ。どうあがいてもこんな生物はこの世にいないだろうと断言できる、悍ましい姿だった。
「こ、こいつは……!! 青樹の時とはフォルムが違うのか!」
「見るからに移動しやすい姿をしている……!」
青樹さんのバグモンスターと化した姿とはまるで異なる、明らかに動き回ることを前提とした見た目。無数に生えた手足を今は中空にて蠢かせているけれど、これは動くとなれば横たわり、それこそムカデやダンゴムシのように這いずり回るのかもしれない。
生理的嫌悪感を感じる他ないイメージに鳥肌を立てる間もない。こんなモノが、世を徘徊したらそれこそ大惨事だ。
「グクッ──クカ、クケカカカカカカカカッ!!」
人間の顔──なのだろうか? 頭部に当たるだろう位置に薄っすらとだけ光を放つ目が2つ、口らしい排気口のような穴が1つ。そしてそこから不気味な声を上げる、虫ともヒトともつかない異質な存在。
このモノの、元になったのが火野なのかどうか、俺達には判別がつかない。つける必要もない。今必要なのはたった一つ、やつを倒して止めることだ。
サウダーデさんが気炎を吐いた。
「敵が動き出す前に、一気呵成に攻撃を仕掛ける! 絶対にやつをこの山から出すな、みんな!!」
「御堂香苗、エリス! ワタシとお前達で先手を仕掛ける! 意識をこちらに向けて、少なくともこの場で足止めするのだ!」
「了解!」
「火野だか鬼島だか知らんが、この期に及んで加減なんて期待するなよ、バケモノ……!!」
状況がどうであれ、今ここで俺達は戦いを仕掛けなければならない。絶対に移動させないために、町にあんなバケモノを雪崩込ませないために。
即時判断。それに応対するヴァールや香苗さん、エリスさんの判断はさすがの一言だ。彼女らはそれぞれ、敵をその場に縫い留めるのに適したスキルを持っている……牽制と足止め役を担うには打ってつけだ。
「私は《極限極光魔法》のチャージに入ります! ミス・葵は足止めされたバグモンスターに攻撃をしかけてみてください」
「はい!」
「ミス・リーベは周囲に《防御結界》の発動をお願いします! こちらの身を守るためでなく、やつを範囲から出さないために」
「分かりましたー! 怪我人が出ないように次第を見ては《医療光粉》も使いますよー!」
続けてベナウィさんが葵さん、リーベに指示を投げる。こちらも基本的には牽制や陽動、あるいはサポートとしての役目だ。
一方でベナウィさん本人はスキルのチャージに入る。《極限極光魔法》、その真髄はチャージを経ての超連続広範囲攻撃なのだ。それをもって一息に、バグモンスターを弱らせるつもりなのだろう。
となれば、残るは俺とシャーリヒッタだ。
俺は彼女を見、指示を与える。
「シャーリヒッタ、お前は第三種異分子処断権限を用いてあのバグモンスターを無力化できるか試してくれ。できない場合はベナウィさんの《極限極光魔法》はじめ探査者達の攻撃がバグモンスターの元になったオペレータに直撃しないようナビゲートを頼む。オペレータ感知、できるはずだな?」
『おう、任せてくれ父様! オペレータ本体に対してのロールバック権能もあるから、こないだの青樹佐知相手にアンタがしてやったのと同じことができるぜ!』
「頼んだ──それじゃあ、俺は俺の仕事をするよ」
さすがに俺の代役を務めるにあたり、必要なものは概ね揃えてきてくれているか。助かる。
これで問題なく俺も動けるな。俺はおもむろに、何もない虚空に手を伸ばし、力強く握る。
バグモンスター出現に気を取られる俺達を奇襲するつもりだったのかも知らんが、そんな子供騙しが俺に通じるわけないだろう。
──空でない、たしかに何かを掴んだ感触。捉えたぞ。
「!? ば、馬鹿な!?」
「ようやく会えたな、概念存在。お前には聞きたいことがいろいろとあるんだ……有無など言わさん。開け、ワームホール」
掴んだ何者かの、あるいは唐突に動き出した俺に対する仲間達の驚愕の吐息にも構わずに。
俺はヤツを掴んだままワームホールを開き、ともに空間を超えた。
この世でない領域、概念領域へと転移を果たしたのだ。
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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
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