陽キャも黙る自称娘の幼馴染
マイクロバスは滞りなく国道を通って湖西方面に進入、いつぞやのダンジョン探査の帰り、翠川の気配を察して訪れた山の麓にまでやってきていた。
こないだよりは小規模ながら、やはり現地にはテントが立てられていて何人ものスタッフさん、おまわりさん達が集まって緊迫した空気を醸し出している。
探査者も結構いるみたいだな。おそらくは万一スレイブモンスターがいた場合に備えての配置だろう。
そうした集団の脇にマイスロバスは停まり、俺達はすぐさま外に出た。ヴァールの言う通り、ここからはスピード勝負だからね。
「山形公平、あなたのオペレータ感知能力を阻害しないように今、山中には一人も入れていない……周辺封鎖済みだ。どうだ? 感じ取れるか、何者かを」
「────ああ。かなり遠くにあるけど、たしかに1つある。動いているから意識はあるみたいだ」
早速の称号効果の使用。半径1km圏内のオペレータを察知する能力を使用して、俺は山の中に潜む能力者の気配を探り当てた。
ギリギリ、本当にギリギリのラインで何者かがいる。一つ分の気配……火野かもしれない。少なくともこちら側の探査者でないのなら、山奥に何者かオペレータが一人で彷徨いているなんて中々、考えにくい。周辺を封鎖して、出入りができないみたいだからね。
となると相当に怪しい。俺は気配の方向を指さして、一同に告げた。
「この方角、1km登った先に気配が一つあります。おそらくは火野、あるいは鬼島かと」
「火野の場合、鬼島は非能力者ということになる。鬼島の場合、火野は不在ということにもなるね。一網打尽にしたいから、その気配ってのがあのジジイであることを祈るばかりだけれど」
「はっはっはー! この期に及んで火野が消息を絶つとか、もう笑い話にもなりませんからねえ」
残る幹部のどちらかが、気配の主である可能性に言及すればエリスさんが考察して葵さんがからからと笑った。二人ともすでに臨戦態勢で、いつでも戦闘に入れるように意識を尖らせている。
他の面子も同様だ。マリーさんだけは本部テントに詰めての後方支援のため、そこまで殺気立ってはいないけれど……代わりに誰よりも鋭い目で敵らしき気配のいる方向を見据え、倒すべき敵を睨みつけていた。
「鬼島については翠川や青樹から得た証言を元にして似顔絵を用意しようとしたのだが……火野以外とはあまり接触していなかったようで、細部はおろか輪郭まで朧気な始末だ。あまりあてにはせず、ワタシや山形公平、後釜の感知能力を頼りにしたほうがまだマシだろうな」
「相手が概念存在ならシステム側なら判別できるからな。オペレータでも感知能力に引っかかる……もしも万一非能力者の場合は」
「それこそ今、感知できているオペレータを捕らえて聞き出して追跡すればいい。もっとも、やつが概念存在でないなどとこの期に及んで考えにくくはあるがな」
鬼島の容貌については、あまりこれといった情報を得られていないみたいでヴァールは肩をすくめる。
まあ、この際やつが概念存在じゃないとかほぼありえないと見ていいし、そこはシステム側が感知して対応するって話でいいだろう。
どうあれ今、山中に感知できているオペレータは一つきりだ。これが火野であるなら鬼島はほぼ確定で概念存在だし、鬼島というなら概念存在は別口にいることになり火野は高飛びでもして逃げたということになる。
エリスさんじゃないけどほんと、火野であってほしいところだよ……これ以上倶楽部関係の事件が長引くのはゴメンだぞ。
祈るような心地でいると、いよいよ行動開始の号令がなされた。
「よし、では早速出発だ……マリアベール、後詰めは任せる」
「分かりましたヴァールさん。さしあたり控えの探査者達にゃ山を包囲させ、そちらからの指示を待って待機としますよ。スレイブモンスターが出てきたら、そこに向けて進ませますから」
「頼む。バグモンスターが出てきた場合、ここにいるスタッフ達まで含めて周辺住民の避難を急げ。アレが出てくると半端な数任せは却って被害が出る」
「了解です──みんな、武運を祈るよ」
ヴァールとマリーさんが手短に段取りを組む。バグモンスターが現出してしまった時点で、話は災害クラスにまで膨らんでしまうわけなので住民の避難に力を割くのが最優先になるのは当然の話だ。
そうなる前に、こちら側でどうにかできればいいんだが……さて、どう出るかな火野、鬼島。
「それでは我々は出発する。山形公平、すまないが先導を頼む」
「ああ。山に入り次第すぐ、シャーリヒッタも召喚するよ」
後方についてはマリーさん達にお任せするとして、となれば俺達はさっさと進行するのみだ。
多くのスタッフさんに見送られつつ、早速山道へと踏み出す。ある程度進んだら、シャーリヒッタを喚び出さないとな。俺が概念存在の相手に手を取られる前に、あの子が火野の相手をできるようにしておかないと。
夏の山道は虫が多く、耳元で羽音がするのが恐ろしい。
この季節、こんなことでもなきゃ山なんて死んでも登らないんだけどなあ。仕事だからと努めて平静を保ちながらも、虫嫌いの俺ちゃんはどうにか山を進みがてら、そろそろ頃合いかとスキルを発動した。
「よし、それじゃあ喚びます──《風よ、はるかなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》。来てくれ、シャーリヒッタ」
『────よくぞ呼んでくださいました、お父様』
発動と同時、眩い光が俺達の傍に放たれてソレは現れた。
赤い、野性的に伸びた長髪。ツリ目がちの勝ち気な印象がある目元、不敵な笑みの半透明美少女。
精霊知能シャーリヒッタが、開口一番俺を父と呼び登場したのだ。
相変わらずなんか、顕現の際に特別光って現れるなあ。凝った演出なのはなんなんだろう、趣味なんだろうか。
父呼ばわりはこの際あえて問うまい。この子なりに深い想いがあるみたいだし、であるならばそれを変に茶化すのもよくないからな。
『精霊知能シャーリヒッタ、只今参上ってな! お父様、いよいよ決戦ってわけだな!』
「あ、ああ。昨日の話の通り、お前にはバグスキル保有者火野源一の相手をしてもらうことになる。よろしく頼むよ」
『任せてくれ! アンタの娘として、アンタに誇りに思ってもらえるように頑張るからよ! コマンドプロンプト!!』
「そ、そう……気負うなよ? お前がいつも頑張ってるの、知ってるから」
もうなんか、娘アピール全開でグイグイ来るシャーリヒッタに俺もタジタジだ。
そこはかとなく褒めてみると、心底嬉しそうに鼻を擦るんだもの。マジで照れ笑いしてるのが見て取れて、娘と認めることに若干の抵抗があるのが悪いことのように思えてきた。
怖ぁ……このままだと俺、この子のパパであることを受け入れちゃうよぉ。
「シャーリヒッタ……お、お久しぶりですー」
『ん……おう、リーベ! こないだぶりだな、元気してたか?』
「は、はいーお陰様でー」
と、そんな折にリーベがシャーリヒッタに話しかけた。今までにない姿だからだろう、若干引き気味でだ。
リーベすらそんな感じにさせるって、かなりだぞ娘よ……
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