S級総出でボコられる火野か、山形一人に追い詰められる鬼島か。まだマシなのはどっち!?
「それでは簡略にだが今後の予定について説明する。現地に到着したら迅速に動くので、聞き逃さないようにな」
走り始めたマイクロバスの車内、助手席に座るヴァールの言葉が響き俺達は気を引き締めて耳を傾けた。
今回はスピードが命だ。ターゲットが火野と鬼島の二人という極小数だからこそ、やつらに気取られる前に動き、逃す前に相対しなければならない。
そのためこないだみたく、本部テントを設置してそこで一旦おちついて作戦会議とはならず、現地についたらそのまま行動開始というタイトな感じだった。
ちなみにだけど、現地ではすでにお巡りさんやWSOの職員さんがいて、隠し拠点のおおよその絞り込みもできているそうだ。話が早くて助かるね。
「拠点の詳細な位置についてはまだ判定していないが、火野らしき老人が山に入っていくのが昨日、現地住民からの聞き込みで分かった」
「火野だけですか?」
「鬼島らしい存在は確認されなかった。すでに拠点内にいるのか、あるいは逃げたか」
「逃亡か……なくもない話ではあるな」
ヴァールの推測に応える。人間である火野はともかく、鬼島が概念存在であるならば……この状況は、すでに潮時を遥かに超えている。
どうしたところで概念存在にとっては、現世での活動はいざとなれば投げ捨ててしまえる程度のものでしかないからね。
俺のように魂ごと輪廻に乗って転生の輪に入ってたり、リーベやヴァールのようにそもそも現世に受肉したり。そういう形で現世に干渉することそのものが相当レアなケースにあたるシステム側の存在とは違って、割とカジュアルに現世に端末を放り込めるからな、概念領域のモノ達は。
状況が悪くなれば逃げるだろうし、手を組んだ人間達との何もかもをかなぐり捨てることにもなんら痛痒を覚えはしないだろう。
そうしたある種の無責任さは、概念存在全体に共通してある考え方と言える。役割上、現世に対して上位にあるわけなのでどうしても傲慢かついい加減になりがちなモノが多いわけだね。
ヴァールに向け、続けて思うところを語る。
「鬼島が仮に逃げていたとしても、ひとまず拠点を制圧して火野を確保できれば少なくとも一段落はつく。鬼島を残して倶楽部が壊滅すれば、鬼島という名で活動しているナニモノかは倶楽部から手を引くだろうからな」
「利用価値がなくなれば即、切り捨てにかかるわけですか……」
「無論、鬼島が拠点内にいる可能性もあります。一般的に概念存在とはそうした性質のモノが多いという、これは一般論の話でしかありませんよ」
概念存在達のドライな思考に、難しい顔をするサウダーデさんに気休め程度のフォローを入れる。気持ちはよく分かるけど、自分達の領域の話でなければ大体そんなものかもしれない。
言っちゃうと俺やリーベ達システム領域のモノだってその辺については概念存在のことを言えたもんじゃないんだ。なんせオペレータ計画やアドミニストレータ計画という形で、現世を散々に利用してきた事実があるからね。
申しわけなさはあるし、だからこそ最後の最期は俺が受け持とうとさえ考えたわけだけど……基本的な思考の方向性としては、どうしても冷徹気味になってしまいがちではあるのだ。
若干重くなった空気。ヴァールは肩をすくめて話を進めた。
「何にせよ、とにかく拠点に突入するのは確定だ。詳細な場所については山形公平の称号効果による、オペレータ感知機能で割り当ててほしい。最悪ベナウィによる地面の掘削まで認める」
「分かった、やってみる」
「山が崩れないかだけ心配ですねえ」
「場所の特定ができ次第突入だ。場合によってはまた、バグモンスターが現れかねないということもあり一刻を争う戦況となるだろう。何度もいうがスピード勝負だ、ぬかるなよ」
念を押すヴァール。やはりと言うべきか、一番の懸念はバグモンスターだと認識してるんだろう。
この際、概念存在については何も気にしなくていい。俺が相手するからな。
どこにいようがどこへ逃げようが必ず捕捉して、持てる力のすべてをもって鬼島だのその背後にいるかもしれない連中だのもまとめて締め上げるさ。
だがバグモンスターの場合はそうもいかない。青樹さん同様に救うとなれば、どうやるにしても生かさず殺さずの塩梅でダメージを与えないといけないからね。
推定S級のモンスターを相手にだ……その困難さは、今いるこのメンツにとって言うまでもないことだ。
「願わくば、バグモンスターなどになり果てる輩が出ないことを祈るばかりだが……こればかりはな」
「成るとしたら火野でしょうかね、やっぱり? ……その辺の非能力者でも適当にスレイブコアを食わせたらバグモンスターの出来上がり、なんてことありませんよね? いくらなんでもエグすぎますしそんなの」
エリスさんが引きつった笑いとともに尋ねる。あまりにも残酷な可能性──民間人を使ってのバグモンスター量産というのを考えての懸念だ。
たしかに、もしそんなことが実現してしまったら大変なことになる。もしもS級モンスターが大量に発生となれば、もはや迷ってさえいられないだろう。
すなわち、小を犠牲にして大を救うという選択肢を取るしかなくなるのだ。
青ざめる俺達。最悪中の最悪を提示され、空気が凍りつく……が。
ヴァールは安心させるように、柔らかな声色でエリスさんに答えた。
「ああ、そこは心配ない。青樹からの証言で、バグモンスターの成立条件は能力者にスレイブコアを一定量、食べさせることだと判明している。」
「そうですか……でも、それが判明してるのってつまり」
「実験自体は行われたようだな。だがスレイブコアも結局はダンジョンコアということだろう、非能力者にはそもそも触れることもできず終いで、失敗に終わったとのことだ」
それはよかった、と言うには前提がおぞましすぎる。実験自体はやってたんじゃないかよ、あいつら!
ダンジョンには非能力者は入れない──万一の事故を危惧して最初期から、ダンジョンやコアには非オペレータによる接触ができないように設定されている──仕様がなければ、最悪能力者ですらない一般人だったモノ達と戦わなくちゃならなかった。
どこまでも恐ろしい連中だ。
改めて異常な悪意を感じ取り、俺は怒りと背筋の凍る感覚を両方同時に味わっていた。
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