知らなかったか?美人家庭教師からは逃げられない……!
謎めいた特効効果の力の出処。そこも気になるがひとまずはラスト、ついこの間もらった称号について語るとしよう。
これも割と、受け取った経緯がこっ恥ずかしい気がする。
称号 誰かのために泣ける者
解説 自分のための涙さえ、あなたは誰かに譲るのですね
効果 日常生活中、勉強効率アップ
「クラスメイトとのデート中に得た称号、ですか」
「羨ましいです、その女生徒さん」
「そこぉ……?」
ズレてる気がしてならない女性陣の感想に、俺は困惑せざるを得ない。というか俺はデートなんて一言も言ってない。言えば言うだけややこしいことになりそうだったからだ。
なのにどうして異口同音にデート扱いしてくるんですかあなた方。どうして若干悔しげなんですか香苗さん。どうしてそんなに羨ましがるんですか望月さん。どうして……
「さ、さて! 肝心の気になる効果ですが、なんと日常生活中、勉強効率がアップするんです!」
「もはや探査と何の関係もありませんが、これは素晴らしいですね。できれば私だってほしいくらいです」
「ですねえ、私もです」
「お二人ともですか? なんか、意外ですね」
見るからに才女な感じのクールで知的な香苗さんはもちろん、望月さんもなんか、おっとりほんわかな物腰の中に思慮深さを感じる。
俺からすればお二方にはいらない効果な気がするんだけど、ねえ?
そんな様子の俺を見て、彼女たちは揃って苦笑いを浮かべて答えた。
「勉強が苦手なわけではもちろんありませんが、探査者として学ぶべきことは常に多いですからね。称号効果一つで学習効率が上がるというのはあまりに魅力的です」
「私、大学に通う傍らで探査者をしているんですが……レポートの締切が迫ったりすると、目を通す本の内容は一度で完全に把握したいなって思います。そういう意味でも、私も欲しいですねぇ」
「望月さん、大学生なんですね……」
これは意外というべきか、いやでも、大学のサークルの姫っぽさがあった時点で道理でって感じもする。この人、まさか本当に姫やってないだろうね。
香苗さんは香苗さんで、相当にストイックだ。この人、狂信者ムーヴさえなければ勤勉かつ努力家な、誰しもの尊敬を集めて然るべきA級トップランカーなんだよな……
そこはかとなく残念感もつきまとう感心を抱きつつ、俺は続けた。
「この効果を得てから、たしかに物覚えが良くなったというか……授業中でも、必要な情報の取捨選択ができるようになったというか。要領が良くなった感じは、ありますね」
「素晴らしいですね。そういえば公平くん、中間テストはどうなりそうですか?」
「ウッ……ま、まあぼちぼち、ですかね? 数学と理科さえどうにかなるなら、たぶん補習とかってことにはならないんじゃないかなと、あはは」
問題はどうにかならない気がして仕方ないことなんだけどねぇ!
唐突な質問にグッサリきつつも、努めて冷静に俺は答えた。文系は問題なさそうなんだ、文系は。り、理数系がね。見てるだけでその、眠気がね。
……ぶっちゃけ、称号効果も恩恵がほぼないレベルで睡魔に負けかけています、はい。赤点にさえならなければ良いんじゃないかなーなんて、はは、は。
心配かけないようにと笑って誤魔化したつもりなんだけど、香苗さんにはお見通しらしかった。望月さんに目配せして、何やら二人、頷く。
何だか嫌な予感がしてきた。いやそんな、昼からは僕、ちょっと息抜きに遊びに出かける予定なんですけれども?
「救世主様といえど、勉強しなければテストを乗り越えることは能わず。これぞ試練ということなのでしょうね、テストだけに」
「公平様、ここはグッとこらえてください。補習なんかであなた様の神話に水が差されるなんて、私には我慢できません」
「えっ? ……えっ、何怖ぁ、え、嘘。教科書、えっ?」
どこからか理科と数学の教科書を机に広げだして二人が、俺の左右に陣取り肩を叩いてくる。えっ、えっ?
ノート? 鉛筆? 嘘でしょこれ、え、勉強会?
ていうかこの事前の用意ぶりはなんだ。誰かと裏打ちでもしてたのか!?
「美晴ちゃんが、公平様の妹さん、優子ちゃんでしたね? から公平様の学力について相談を受けまして。何でも御母堂様が、身近に頼れる年上がいるなら教師役をお願いしたいと」
「優子ちゃん!? あ、だから今朝方にやついてたのか! ていうか母ちゃんかよ黒幕ぅ!」
「公平くんのご家族にはまだ、お会いしておりませんが……良いご家族ですね。あなたの将来を想い、ろくな面識のない私たちを信じて頼ってくださるとは。私たちも全力でご期待に応えたいと思います」
応えなくていいから! 返して! 俺の休日返して!!
思わず逃げようとするも両肩を押さえられていてそれも敵わない。いや、形振り構わず全力で行けば振り切れるとは思うけど……俺の全力なんて既に凶器だ、できるわけがない。
人を傷付けるなんて絶対にするものか。ああでも、逃げたい〜!
「こんな状況でもなお、私たちを気遣い、無理には抵抗しようとしないのですね。心から尊敬します……急な話で申しわけありませんが、あなたがGWを楽しく過ごせるために、今は我慢してください。恨んでくれて構いません」
「こんなことで恨むわけ無いでしょう……」
「公平様にご負担を強いる罪は、後で必ず償います。どんなことでもしますから、何でもしますから、今は勉強なさってくださいませ。大丈夫、私こう見えて理数系なんです」
「わぁーすごーい。じゃなくて重い! 勉強くらい素直にしますから、そんな罪だの罰だの、軽率に何でもするとか言わない!」
「……と、尊い……! 恨み言もなく、救われた身でこのような真似をした私になお、優しく……!」
人が何か言う度に潤んだ目で陶酔すんのやめろや! 一々尊ぶな、話が進まない!
くそう、ここまできたらヤケだ。勉強でも何でもしてやろうじゃないか!
…………遊びたかったぁ。
結局この日、この後。
そのまま勉強会になだれ込み、俺は、理数系に関してもある程度、成績を取れるだけの目処を立てたのであった。
次話から新エピソードです
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間、週間、月間1位、四半期4位
総合日間14位、週間9位、月間9位
それぞれ頂戴しております
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本当にありがとうございます
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