なんだか久しぶりな気がする自分のお家!
なんだかんだと葵さんの運転は、さすがと言うべきか非常にスムーズでかつ、安全に配慮されたものだった。
結局俺の家の前に止まるまで、事故はもちろん急加速や急制動の類もない、とてもリラックスできる運転だったのだ。
「はーいお待ち遠様です、はっはっはー! いやーさすがはお高そうなスポーツカー、運転のしがいがありましたよ香苗さん!」
山形家の前に問題なく停車した車から降りて、葵さんが車のキーを香苗さんに渡す。ここから葵さんは俺の、エリスさんは香苗さんの護衛ということで近場にて待機してくださるそうだ。
倶楽部が実質壊滅したとはいえ、未だ厄介な連中が残ってはいるからね。最後の最後まで油断はしない、そんな能力者犯罪捜査官としての心意気を貫き通しているお二人だ。
「お疲れさまです、ありがとうございます葵さん。この車、性能の割に値段もそう高くはなかったのでオススメですよ。あなたも普段遣いにどうです?」
「んー……いえ、今はやめときますね! 何しろ世界中あちこち周る仕事な上に荒事もありますから、油断するとすぐスクラップになりそうなんですよねー」
「そ、そうなのですね……」
香苗さんの提案に、思った以上に殺伐とした理由を添えて断ってくる葵さん。そうだよね、基本この人達、裏社会の犯罪能力者相手の個人や組織相手に戦い続けるお仕事だもんね……
アクション映画の国際エージェントみたいなもの、というかそのものズバリな人達だから、必然的に争いごとにも多く関わるのは当然で。だから愛車とか持ってもすぐ、オシャカになっちゃうことだってあり得るんだろう。
改めて大変なお仕事に携わられている方々への敬意を胸に、俺は感謝の意を示した。
「家まで送り届けていただいてありがとうございました、皆さん。このあと昼13時にまた、ホテルの前でお会いしましょう」
「うん、よろしくね公平さん、香苗さんも。おそらくは今度こそ倶楽部との最終決戦になるかもだから、一切の出し惜しみなくお互い、ベストを尽くそう」
「私もエリスさんの弟子として、能力者犯罪捜査官として微力ながら全力を尽くします! 皆さん、日常を脅かすワルどもを今回こそギッタンギッタンにぶちのめしてやりましょう!」
「そうですね、連中は今日で捕まえきらなくては。よろしくお願いします、皆さん」
本日午後に迫る、倶楽部の隠し拠点への制圧作戦に向けて各人の士気は最高潮に近い。
わずか半月程度で相当な進展があったけれど、いやむしろそんな短い期間だからこそ、これほどの熱意を秘めてことに臨めるのかもしれない。
こういうの、下手に長引くと嫌でもダレちゃうところ、あるからねえ。
今回組織レベルで迅速に動いたソフィアさんやヴァールは、倶楽部側の動きを警戒していたのもあるけど同時に、そうしたモチベーションも意識していたのかもしれないな。
さておき、一旦ここで全員解散となる。
香苗さんはエリスさんと一緒にスポーツカーで去っていったし、葵さんはこの周辺を護衛してくれているWSOのエージェントさんと合流、打ち合わせのために離脱したし。
残る俺は家に入って、数日ぶりの帰宅である。
「ただいまー!」
「おかえりなさーい公平さーん!!」
「うおっ!?」
玄関を開けた先、いるのは分かっていたけど不意に飛び込んできたその姿に思わず驚く。
金髪の、目が覚めるような美少女──精霊知能リーベが、俺の胸元に顔を埋めて抱きついてきたのだ。
むうっ柔らかい! いい匂いがするし、あったかくて安心してしまう!
こうしたハグにまるで耐性などないピュアリィ山形くんとしては、彼女の愛情表現に慌てつつ幸福感を覚えるほかない。久しぶりってほどじゃないけれど、なんだか懐かしい気持ちになる。
胸元でリーベが、頬を寄せながら声をあげた。
「ふわぁあ〜! 久しぶりの公平さん成分を充電してますー! リーベちゃん充足、充足!」
「た、ただいまぁ……元気、してたみたいだなリーベ」
「それはそうですけど寂しかったですよー! リーベちゃんのいない間に、他にどんな女の子を引っ掛けてるのかって気が気じゃありませんでしたー!」
「どんな危惧してんだお前!」
失敬すぎるだろ、引っ掛けられるタマに見えるか、俺が! 言ってて虚しくなってきた。
ハーレム救世主なる事実無根の噂をこいつまで信じてるんじゃなかろうなと、思わず不安になりそうな風評被害である。
「おかえりー。あんたまた全国区デビューしたわねえ」
「あ、シャイニング山形だ。まーたネットで騒ぎになってるよ兄ちゃん」
「うげげ……た、ただいまあ〜」
と、そんな折にリビングから母ちゃんと妹ちゃんがやってきて出迎えてくれた。今日はお休みだったんだな、母ちゃん。
そして開口一番にシャイニング山形4ヶ月ぶり2度目の全国デビューについて語るのを止めろ! 繰り返す、それは止めてくれ!
「きゅきゅー! きゅう、きゅうきゅきゅうー!!」
「おっ、アイ。ただいまー」
「きゅきゅきゅきゅうー」
続けてアイもパタパタと、翼をはためかせて飛んできた。久しぶりの俺の姿に喜んで、空中をあちこち飛び回っている。
当たり前だけど、まったく変わらないいつもの山形家。なんだか、ホッとする俺ちゃんだった。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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