御堂本家全員、および御堂分家の半分ほど……伝道完了です(ドヤァ)
御堂本家での滞在生活も終わり、ついに家に帰る時が来た。なんていうか短かったような、長かったような数日間。
主に倶楽部の相手で半分以上気を取られていたような気もするけれど、それはそれとして美味しいご飯をいただいたり豪華なお風呂に入ったり、分家の子供達と交流したりと珍しい体験をさせてもらえたという実感はある。
つまりは来てよかった、滞在できてよかったと。
そう一括りに言ってしまえるくらい、素敵な数日間だった。
「公平くん。今回も君には娘が大変、世話になったね。重ね重ねになるけれど青樹さんのこと、とても感謝しているよ」
「娘を想い、その心までをも守ってくださったこと。深く感謝しますわ、公平さん」
「いえ、そんな……できる限りを尽くしただけです。僕だけでなく、素晴らしい探査者のみなさんの誰もが」
朝ご飯を食べて帰り支度を済ませての出立の段。靴も履いたしさあ帰ろうかという御堂本家の玄関前で、俺と香苗さんは博さん、栄子さん、才蔵さんや光さん、じいやさん達との最後のご挨拶を交わしている。
なんなら分家のみなさんも勢揃いだ。昨日、少しだけだが触れ合った宮崎さん達ちびっ子カルテットもいて、俺に手を振ってくれている。
そうした素振りに手を振って応えれば、才蔵さんが相変わらずの大音量で、あたりに響くような腹の底からの声で言ってくる。
「いつでも訪ねに来てくれよ、公平殿! もはや貴殿は香苗のみならず、御堂そのものにとっての重要人物! たとえ着の身着のまま突然来られたとしても、儂らは全身全霊の限りをもって貴殿を歓待しよう! 無論、貴殿のご家族様方も含めてだ!!」
「あ、ありがとうございます……その、本当に過分なお言葉で畏れ多いと言いますか」
「何を言うかね、これでもまだ足りぬほどだ! 断言しよう! 我ら御堂は、公平殿はじめ山形家に対して今後、最大限の誠心誠意を尽くした振る舞いをさせていただくと!!」
「怖ぁ……」
家同士の結びつきにまで話を発展させられてしまった。こわい。
言っちゃなんだけど名家であるところの御堂さん家と、一般人オブ一般人のお家である我が家とではまるで釣り合いが取れていない。
こんな宣言聞いたらうちの母ちゃんとかひっくり返るんじゃないかな、内弁慶気質で外向きには強くない人だし。妹ちゃんも目を泳がせながら汗を垂らしそうだ。
父ちゃん? 早晩博さんや才蔵さんとお酒飲んで意気投合するんじゃないかな、山形家にあるまじきコミュ力の持ち主だし。
あー、家族のことを思い返したらなんとなく声が聞きたくなってきた。それにもちろん、リーベにも会いたい。
結局俺も大概寂しがり屋だってことなんだろう。それは、悪いことではないはずだ。
迫る帰省を楽しみに思っていると、今度は香苗さんの弟さん、光さんが俺に話しかけてきた。
「山形さん。青樹さんのこと、姉のこと、ありがとうございます」
「あ、いえ! そんなご丁寧に」
「……あなたは、本当に救世主のようですね。少なくとも姉にとっては間違いなく。それが、複雑ではありますが今は、良かったとも思ってます」
「は、はは、は……」
重度の香苗さんフリークらしい光さんに、香苗さんのことでお褒めいただくのは嬉しさと裏腹の怖さがあるなあ。
初めてお会いした際もそうだったけど、この人は香苗さんの探査者としての姿や活動をすごく大切に思っていらっしゃる。だもんで、突如現れた俺に対して、かなり露骨な隔意があったんだけど……今回、青樹さんとのあれこれもあったからか大分、信頼いただけたみたいだ。
「また、いつでも来てください。姉の伝道に負けないくらい、私もあなたに姉を伝道してみせましょう」
「えぇ……?」
「光。私のことより救世主様のことを伝道なさい。伝道師が伝道されるなど質の悪いジョークです」
刺々しさのない、どこかスッキリした顔で微笑む光さん。いや、そんな意気込みを披露されましても。
香苗さんの伝道師ムーヴに火がついたのだろうか、眼差しがパンピーを沼に落とそうとするオタクのそれだ。沼本人が隣でドン引きしているこの光景こそ、俺にしてみれば悪い冗談みたいな話なんですけど。
姉弟の、なんだか聞いていると取り返しがつかなくなりそうな話をそこそこに聞きつつも、俺はそれじゃあそろそろと皆さんに告げる。
「えと、それでは皆さん! 御堂家の皆様にはこの数日、本当にお世話になりました、ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、本家分家問わずこの場にいる人すべてに感謝を捧げる。本当に、盆前に素晴らしい体験をさせてもらえた。
救うべき人も救えたし、倒すべき敵も定まってきた。決戦は今日午後からだけれど、倶楽部も事実上壊滅したし、大変だけど実りの多い滞在だったと思う。
心の底からのありがとうございました。
思いを込めた言葉に、分家の皆さんからも声が返ってくる。
「こちらこそありがとうございます、救世主様!」
「偉大なる至高の救世主、最高ー!」
「シャイニング山形様、バンザイ!!」
「山形公平様の行く末に、無限大なる栄光あらんことを!!」
「シャイニング、バンザイ! 救世主、バンザイ!!」
「…………!?」
えぇ……? 何これ怖ぁ……
みんなして、俺を讃えてきてるんですけど怖ぁ……
いやマジで怖い。こんなリアクション一つも想定してない。
どういうことかと、まあ間違いなくこの事態を招いたであろう伝道師さんを見る。なんかドヤ顔してるんだけどどういうことだ。
「ふふ……滞在期間の連日に渡り、我が持てる力のすべて、使命と責務の限り伝道に励みましたからね。分家の方々もついに揃って"覚醒め"てくれたことに、途方もない達成感を抱いています」
「えぇ……?」
「惜しむらくは日程がズレる都合、今ここにいない他の分家にはノータッチにならざるを得ませんでした。ここについては今後の目標の一つとしておきましょう。我が伝道、未だ果ては遠きに在りて……!!」
そろそろ果ててもいいんじゃないですか? そうツッコみたくなるくらい、伝道師さんが何やら燃えていらっしゃる。
怖ぁ……名家が宗教チックになってしまった。俺にはもう、どうすることもできない。
ゾッと粟立つ背筋にも目を逸らして、現実から逃げるように俺は、香苗さんを引き連れて逃げるようにエリスさんと葵さんが待つ門前へと向かうのであった。
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