フラグに思われるかもしれませんが、実際フツーに余裕です
打ち合わせも終わってその日は結局、残る時間を御堂本家にてのんびりと過ごした。
エリスさんの持ち込んだボードゲームとかみんなでやって、すごい楽しかったな……サウダーデさんが妙に強くてびっくりしちゃった。なんでも太平洋の客船都市でもこの手のボードゲームはよく遊ばれているそうな。
「都市内にもネット環境は整っていて、いわゆる電子ゲームも盛んに行われているが、ダンジョン内はそうもいかんからな」
「え。ダンジョン内で遊ぶ用だったりするんですか、ボドゲ!」
「ああ。未だ底知れぬ未開のダンジョンだ、いくつかのパーティーを混成させたクラン単位で、数日から数ヶ月かけての超長時間探査もざらに行われるからな。休息中の暇つぶしには最適なのさ。客船都市内にしか流通していないゲームも多くあるほどなんだよ、公平殿」
「聞いたことありますね。太平洋にしか出回らない幻のボードゲームということで、時折外部に持ち出されたものが異常な価格で取引されたりしているとか」
「えぇ……?」
いろいろ予想外の話が多い。ていうかマジで大規模なんだな、太平洋ダンジョン。
現在たしか、66階層まで攻略済みなんだったかと以前、ネットの解説動画で聞きかじった知識を思い出す。66ってまたとんでもない数だけど、しかも部屋数は各階層で100を超えるのだそうな。エラーダンジョンなのかモンスターもリポップするらしく、なかなか探査が進まないのが現状らしい。
下手すると100階層でもなお最深部でないかもしれないエラーダンジョンだなんてまさしく悪夢めいているけど、それでも半世紀かけて探査者達は、少しずつでも攻略を進めているってんだから本当にすごいよ。
ボードゲーム関係の話も、そうした極めて長期の探査の中で生まれた娯楽なのだろうから、歴史と文化ってものを感じさせるエピソードだと感じるね。
まあともかく、そんなトリビアを聞きつつもボードゲームを楽しみ、お夕飯をいただきお風呂に入って無事、就寝して。
そして起きたのが翌日の朝5時。やっぱり自分の家じゃないからか、ここに来てからやけに目覚めが早いのよね。健康的で良いことではあるんだけれども、夏休みももう折返しを迎えようとしつつある昨今、倶楽部のことも片付きそうなんだし、もうちょっと退廃的に過ごしてもいいんじゃないかと思う今日この頃です。
「ん~……お、スマホスマホ。ヴァールからかな」
寝起きの呆けた頭を、身体を解して少しでも覚醒させる。テレビでもつけるかぁ、と思ってリモコンを探そうとしたところ、スマホに通知が一つ。メールだ。
昨日言ってた、倶楽部の隠し拠点制圧についてだろう。いそいそと枕元で充電してたスマホを拾い上げ、確認する。
案の定その通りだった。文面を読み上げる。
「通達、集合は本日13時より。全員、マリーさんやベナウィさんの滞在しているホテル前にて集合。そこから車で現地へ向かい作戦開始……か。ってことは、一旦実家に帰って荷物を下ろしてからの話になるなあ」
結構タイトなスケジュールだけど、それだけ緊急性の高い話だってことだろう。まあ、火野もそうだし概念存在だろう鬼島だのも、一秒でも早く捕縛したいだろうからね。
御堂本家を発つのは朝9時頃なので、数時間は空白がある。これなら、実家に戻って荷物を下ろして、軽くシャワーでも浴びてから集合地点に向かうだけの余裕もあるな。
「今日、この日が倶楽部との決着になり得るか……」
迫る決戦。ちょうど一月前にも感じた、最後の戦いへの期待と不安……は、正直に言って特にないな。
実質的に倶楽部はすでに壊滅状態だ、あとは幹部二人を残すのみ。邪悪なる思念に比べてまるで脅威にはなり得ないし、こちらの戦力はやつとの決戦時以上に整っている。
ぶっちゃけ負ける気が一切しない。そういうと油断し過ぎな感じもするんだけど、マジで嫌な予感とかが一切ないんだよね。
なんだろう、日常の仕事の延長線というか。ダンジョン探査をするのと同じくらいの感じで今、俺は倶楽部との決戦に臨もうとしている。
「もしかしてこの感覚やばいかな……油断とか慢心? 的な」
『どっちかというと余裕じゃないか? 僕から見て、別に相手を舐めてかかってる感じはしてないけどね、今の君も』
脳内のアルマさんがそんなことを言って、俺をフォローしてくれる。
余裕……そうか余裕か。たしかに、こいつの時と違って切羽詰まった感じはまるでないな。仮に何かあっても、冷静にことに対応できるだけの自信もあるし。
『思うにコマンドプロンプト、一月前の君と比べても明らかに今の君は完成されてるからね。弱者の余裕は油断であり慢心だけど、強者のソレは単なる事実に裏打ちされた自信だ。足元をひっくり返されないようにだけ注意する必要はあるけど、それ以外のところではむしろ今くらいがポテンシャルを発揮できるだろう』
「つまり?」
『僕を倒してみせたやつが、下らない連中相手に引けを取るわけないだろ。サクッと全員仕留めてこいよ』
客観的な分析と激励。ついこないだ、まさに絶対的強者の立場から足元をひっくり返されただけはあってその辺の注意もしっかりしてくれるアルマ。
なんていうか、こういう時は俺と本来同格の存在なだけあって頼りになるよなあ。感謝を告げつつも、そう言ってくれるならばと確固たる自信を胸に抱く、俺であった。
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