認知しろ!シャイニングパパ形プロンプト!!
去り際の爆弾発言。シャーリヒッタのまさかのパパ大好き宣言により、彼女が去ってからもしばらく、一同は静まり返っていた。
別に気まずい感じの空気ではないにしろ、唖然とした感じの空気ではある。無敵かこいつ、ってくらい好き放題振る舞ってきた子がよもや、腹の底ではそんな深い想いを俺に寄せていたなんて思いもよらない話だ。
ポツリと、ヴァールがつぶやいた。
「なんというか、意外だ。あの通りの傍若無人が、あなたをそうまで愛していたなどと」
「え、ええとー。システム領域とやらででは、そんな素振りはなかったんですかあの人」
「ない、まったくな。およそ精神的繊細さなど欠片とてないガサツ、ずぼら、大雑把、雑、とにかく雑、極めつけに雑な言動しかしてこなかったのがシャーリヒッタだ。無論、仕事に関しては精霊知能らしくこなしてはいたが……いわゆるパーソナリティという部分では、500年前から今に至るまで、一切変わることなくあのままだ」
葵さんに応える彼女こそ、シャーリヒッタに対する個人的な感情が発露して見えているけれどそこはまあ、仕方がないとして。
たしかに私が過去、断片的に見てきた限りでも、あのシャーリヒッタという子に繊細さは見受けられなかった。いつでも騒がしく振る舞い、多くの精霊知能がそれに対して賛否交々な反応をしていた。ヴァールなんかは分かりやすく、否の側だよね。
それが実のところは、ずっと俺に対して一貫した感情を抱いていたというのだ。
精霊知能達もこれにはビックリだろう。下手すると、ワールドプロセッサすら驚いているのかもしれない。
エリスさんが、笑いつつもどこか引いた感じに言う。
「ハッハッハー……そんな方が、けれど実のところは公平さんのことをずっと、娘として慕っていたと。彼を父親と認識して、存在しているかも怪しいけれどとにかく慕っていた、と」
「いやはや、すごい愛情さねえ。ここに姿を見せてから何度も公平ちゃんのことをからかいっぽく父だのパパだの言ってたけど、あれ全部照れ隠しながら本気の本音ってわけだったのかい」
「いやー、なんともいじらしいですねえ。500年、姿の一切を隠していた父をずっと求めていたわけでしょう? ミスター・公平。さすがにこれは認知して差し上げたほうがよろしいのでは……」
「いや、あの、マジで直接産んだわけではないのですけれども!」
娘さん持ちだからか、マリーさんとベナウィさんがシャーリヒッタにめっちゃ感情移入している気がする。
ベナウィさんに至っては、俺に認知しなよとまで言ってきてるし。怖ぁ……
実際のところ、精霊知能の発生に俺やワールドプロセッサが直接なんかしたわけじゃないんだけど。
そもそも俺達の意志だって発生したのは彼女やリーベ、ヴァールもまったく同じタイミングなわけなので、その時点で認知とか言うには当たらないんですけど。
いやまあ、あの子がそれをあそこまで望むのであれば、できるか分からないけど父みたいに振る舞うのもやってみようかなぁ……くらいの感じではあるけどね?
ただ、実態としては別に、彼女含めた精霊知能は俺とワールドプロセッサの愛の結晶だとかそういう存在ではない、というところだけは一同に説明しておく。
育児放棄パパみたいに言われるのは冗談じゃないしなあ。
「──というわけで、家族として例えるのであれば本来、親子というより兄妹というほうが近いんですよ、俺と精霊知能は。なあ、ヴァール」
「まあ、そうだな……正直ワタシとしては、会社の役員のようなイメージでいるのだからそもそも家族という感覚さえないのだが」
「なるほど……精霊知能それぞれで受け取り方が異なるというわけですね。ヴァールは公平くんを上役として見ていますが、シャーリヒッタは彼を父親として見ていると。複雑な話ですね、なんとも」
「俺自身、そもそもワールドプロセッサもコマンドプロンプトも精霊知能達も、それぞれ担う役割をこなすプログラムでしかないって意味では一律同格だと思ってるんですけどね……精々担当範囲の広さ狭さくらいであって、存在価値で言えばまったく変わりないって感じなんですが」
正直に、精霊知能と俺との関係について思うところを述べる。当たり前だけど、俺達は根本のところでは同等でなければいけないはずなんだよ。
世界を構築するシステム領域のプログラムそれぞれ、担う役割は違う。だからこそそのどれもが等しく価値があり、優劣なんて決してつけられないのだ。
最近、システム領域のモノ達も現世の知識を仕入れて社会性を身につける中でそうした立場や階級を認識する子も増えてきて、その一環としての救世主ないし父扱いであるとは以前、リーベから聞いてはいたけど……シャーリヒッタは話を聞くにそれですらないみたいだ。
発生時点ですでに、明確に俺とワールドプロセッサを親として認識していたみたいなのだ。言うまでもなく、これはシステム領域としては想定していなかったことだ。
『……ふむ。発生時になんらかの外部要因があり、この世界のワールドプロセッサを母、君を父であると自意識に刷り込んだのかもね。僕が発生時点ですでに、僕の創っていた世界の不完全性を認識したように』
脳内でアルマが考察する。
刷り込み、か……外部要因というのがなんなのかによるけど、そのくらいしか原因はなさそうだよなあ、たしかに。
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