人間として、アドミニストレータとして、コマンドプロンプトとして
芸人さんみたいなことを言い出すシャーリヒッタはともかく。とりあえず隠し拠点制圧に際しての、俺が受け持つはずだった役割の彼女への引き継ぎは概ねできた。
だが今度はシャーリヒッタのほうから何やら話があるみたいだ。ちょっといいかと挙手をして、彼女は俺に尋ねてきたのだ。
『コマンドプロンプト、アンタに確認しておかないといけねーことがあんだがよォ』
「ん、どうした? 答えられることなら答えるけど──」
『あんた、今回の件での概念存在との落とし所、今んとこどこに見てんだ?』
「──む」
割と真面目というか、突っ込んだところを聞いてきたな、シャーリヒッタ。
概念存在との落とし所、すなわち着地点。倶楽部との戦いの最終局面にあたり急に浮上してきた彼らの存在は、可能性としてはあったにせよ意外なものであったのは間違いない。
そんなモノ達に対して、システム領域のモノとして相対する俺がどういう決着をつける気でいるのか。精霊知能としてはそこが気になるんだろう……もっと言えばワールドプロセッサもか。
シャーリヒッタを表に出しつつ、裏であいつも今、見ているんだろうな俺達を。相変わらず矢面には立たないやつだと呆れるやら感心するやらだ。
『概念存在はそもそもオレらの関与するところじゃねえ。アイツらは現世の存在に寄り添うモノどもだからよ、共存するにせよ融和するにせよ訣別するにせよ、その選択は現世の存在が主体でなけりゃならねえ』
「そうだな……それは間違いないよ。あのモノ達の相手は、本来なら現世の者達がやるべきではある。ただ、今回は」
『今回はシステム側も原因の一つだからな。翠川均、青樹佐智、火野源一と、システム側がもたらしたバグスキルを悪用するやつが出てきちまった』
「さらにはそれをきっかけに、現世に被害が出てしまったこともな。そうした事態への謝罪や救済措置として、ワタシ達システム側のモノは全面的に、オペレータ達に助力するつもりなわけだ」
まるでおさらいをするかのように、システム側からのスタンスを説明するシャーリヒッタとヴァール。
こういうと冷たい感じに思われちゃうんだけど、あくまで概念存在の相手は本来、現世に生きるもの達なんだよね。今回ばかりは経緯の根底が大ダンジョン時代、ひいてはシステム領域にあるから我々も、申しわけないと介入させてもらっているってだけだ。
その辺の事情がないなら、少なくともシャーリヒッタはこうして協力したりはしてないだろうしな。
そうした点を踏まえて、彼女は俺を指さした。
『オレやヴァール、リーベはあくまでシステム側だ。だから倶楽部とやらに関与している概念存在に対して、どう落とし前つけさせるかってところの判断権は持たねえ。現世に任せるさ。だがアンタは話が別だろう? システム・コマンドプロンプトでありながらも人間・山形公平でもある狭間の御方よ』
「……ああ、なるほど。公平くんはあなた方の中でも唯一、概念存在に対して人間として相対するわけですね。人間として私達に寄り添ってくださる偉大な救世主様だからこその、特別な立ち位置というわけですか」
……そこで問題になるのが、俺のスタンスか。香苗さんの言葉に、納得して頷く。
人間でありつつもシステム側でもある俺は、今回の事件に関係しているあらゆる者の中でも一番どっちつかずの立場なんだよね。
強いて言えばやはりリーベとヴァールが近しいけれど、彼女達はあくまでシステム領域の精霊知能リーベとヴァールとして現世に存在してくれている。
俺のように、コマンドプロンプトでありながらも山形公平でもある、というある種の二重生活を送っているわけじゃないのだ。
そして俺はコマンドプロンプトでありつつも人間である以上、現世の存在として概念存在に対して自身のスタンスや向き合い方を判断する権利を持つ。
現世の存在であるならば誰しもが意識的、無意識的に判断している"目に見えない何かとのスタンス"について、確固たる思想を抱く権利があるのだ。
俺も同じくってわけだね。
『差し迫った概念存在との対峙、それも明確にやらかしてる連中を相手にアンタ、やつらをどうしてみせる? こいつァ俺の個人的興味でもあるが同時に、ワールドプロセッサによる確認でもある』
「……」
『新たな時代を拓き、今また現世を守るために尽力するアンタは、コマンドプロンプトとして人間としてどう考えているのか。アンタの、スタンスってやつを聞きたい』
「…………私は私であり、同時に俺でもあるよ、シャーリヒッタ」
どこか試すように眼差しを向けてくるシャーリヒッタに、穏やかに微笑んで応える。
言うまでもない、と勝手に思っていたけどそうだな。改めて言わないと、いけないよな。
俺自身のスタンス。どっちつかずな私の考えを、皆を見回して告げる。
「山形公平でありコマンドプロンプトである。それが俺だ。この立場こそが、概念存在へのスタンスそのものの答えとなりうる」
『って、言うと?』
「ヴァールのようにシステム側のモノとして現世に寄り添おう。ソフィア・チェーホワのように人間としてシステム側にも寄り添おう──忘れないでくれ。俺は、彼女達から使命を受け継いだアドミニストレータでもあるんだ。偉大な先輩達が示してくれたあり方を、俺だって引き継ぐさ」
「…………山形、公平」
ヴァールが、どこか呆然と俺を見た。信じられないような顔をしてるけど、こっちからしたら当然のことだ。
アドミニストレータとしてだけでなく多くの点で俺とソフィアさん、ヴァールは似通っている。俺にとって、この二人は紛れもなく先輩なんだ。偉大な功績を成し遂げてやり遂げた、偉大な先達。
であれば、そんなお二人の志を継承して邪悪なる思念との決戦に臨んだ当代のアドミニストレータとしては……以後の有り様さえも、参考にさせてもらうのは当然のことだろう。
そして、宣言する。
「明言するよ──コマンドプロンプトとしても人間としても、今回の件に関わっている概念存在には何があっても現世から消え去ってもらう」
『つまり、アンタ自身の明確な意志の下、連中は排除するってわけか』
「そうだ、シャーリヒッタ。俺の持つ力のすべてを使い、彼らを二度と大ダンジョン時代にまつわるすべてに関われなくする。現世とシステム領域の狭間に立つ俺の、それが解答だ」
人間として、コマンドプロンプトとして。
奇跡を経て両者の狭間に立つこととなった俺は、だからこそどちらにも寄り添おう。人間としてシステム側を想い、システム側として現世側を愛そう。
だからこそ、両者を害した概念存在には容赦はするまい。
彼らを除く正しく在る概念存在達のためにも、彼らには現世から立ち退いてもらわなければならないのだ。
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