乗るしかない。この(信仰の)ビッグウェーブに
「まったく、挨拶から話をややこしくしてくれる。シャーリヒッタよ、今は大事な話のためにお前を呼んだのだぞ。ちゃんとやれ」
『相変わらず固いやつだなお前よーヴァールぅ。おねーちゃん寂しいぜもっと遊ぼうぜ〜?』
「だからどちらかといえばワタシのほうが姉だと……! もういい埒が明かん、愚妹め」
うんざりしつつも、あくまで自分がどちらかといえば姉である、という主張は変えないヴァールに、シャーリヒッタはニヒヒヒと笑って見せた。
天真爛漫というか自由奔放さのある笑顔だ。実際の言動も割とフリーダムかつ強引というか、自己主張の激しい感じだもんで、なるほどヴァールとは相性悪そうだってのは短いやり取りからでも窺えることだった。
「頑なに姉であることは譲りませんね、ヴァールさん」
「プライド的なものなんだろうかね? なんだかいつもより見た目相応の感じがするよ、ハッハッハー」
エリスさんと葵さんが身を寄せ合って、コソコソ耳元で囁き合っている。まあ普通に聞こえているわけなのだけど、いつになく必死な様子のヴァールが新鮮みたいだ。
たしかに……この子がここまで感情を剥き出しにするのって、そんなにない気がするよなこれまで。それだけシャーリヒッタ相手には冷静でいられないということなんだろう。そういうところ、本当に姉妹みたいだな。どっちが姉かはさておくけども。
そうしたやり取りを彼女も聞いているのか、ヴァールはコホン、と咳払いをして仕切り直した。
努めて冷静に、シャーリヒッタへと現状を伝える。
「ワールドプロセッサの補佐役であるお前のことだ、事態は把握しているだろうが改めて説明する。倶楽部の隠し拠点を制圧する際、対峙するだろう幹部・火野源一のバグスキルを含めたステータスの一切をお前に改竄してもらいたい」
『《玄武結界》な、オーケー。あとステータスはまんま剥奪だとか初期化だとやべーんだったな、現世社会的に。えーとロールバックで辻褄合わせられっか?』
「合わせるさ。要はオペレータでさえあるならば、あとはこちらの権限でどうとでもしてみせる。ロールバック対象の遡行年数は78年。やれるな?」
『余裕だ、任せとけ。コマンドプロンプトからはなんぞ引き継ぎあるか?』
俺の称号を度々、匿名掲示板みたいにしてくれちゃってるやつのサポート役だからなこの子。
どうせ結構な頻度で俺達のことを見てるんだろうとは思っていたけど、今しがたの打ち合わせについてもバッチリ覗いていたみたいだ。話が早い。
火野への処置の加減も手早く確認して、シャーリヒッタは次いで俺にも確認を取ってきた。元々俺がやるはずだった役目を引き継ぐわけだし、彼女としてもそこはしっかり確認しておきたいってわけだね。
さすがその辺、リーベやヴァールにも負けず真面目だと感心しつつも答える。
「分かってるとは思うけど、やつらはスレイブコアを使ってモンスターを操作したり、自分自身を変異させたりしてくる可能性がある。できる限り先にロールバックを行ってから戦闘に入れるといいんだけど……第三種異分子処断権限付与されてるんだよな、今回」
『おう、バッチシな! スレイブコアっつーのも一応、こないだの化物になった女を見てたから把握はしてるぜ。少なくとも現世のオペレータに対してだけなら、オレぁ今ここにいるアンタ並に制限できっからよ。安心してくれや、コマプロ!』
「コマプロて。ワールドプロセッサがアレな略され方になりそうだし止めとこう?」
変なあだ名みたいになってるじゃないかとツッコむ。
こいつ分かってるのか? 俺をそう略したらワールドプロセッサとか単なるワープロになっちゃうぞ。ワープロとコマプロって、もう本当になんの話してるんだかわかんないだろ。
別にコマンドプロンプトと呼びたいならそれは好きにすればいいけど、変に略すと次第に誰のこと言ってるんだか認識できなくなりそうだし。
そう訴えるとシャーリヒッタは満面の笑みを浮かべ、サムズアップまで見せながらも言うのだった。
『わーったぜコマンドプロンプト! もしくは父上あるいはパパ!』
「えぇ……? さっきからお前、やけに父親ネタ擦るなぁ……」
『いやだってアンタ、姿を見せて以後すっかり救世主か父親かって扱いだぜ、精霊知能の中でよォ。そりゃーオレとしても乗らねえわけにゃいかねーわな、精霊知能的に』
「えぇ……?」
「救世主信仰がシステム領域にも! こ、これはやはりビッグウェーブが、信仰のビッグウェーブが来ています!?」
信仰のビッグウェーブってなんだよ。
香苗さんが瞳を煌めかせるのを、思わずドン引きの目で見る。とうとう伝道師がシステム領域に到来しているらしい謎のコマンドプロンプトパパ説を知ってしまった。エライコッチャですよこれ……
「リーベからは一応聞いてたけど、本当にそんなことになってんのシステム領域……」
『厳密にはアレだな、直近100年前後までに生まれてきた世代はアンタのこと救世主って思ってるみてーだし、それ以前でもオレらの2つ下の世代からは親父扱いしてるみてーだぜ? オレら最初の世代とその下の世代はそんな感化されちゃいねえな』
「そ、そうか……いや、だったらお前はパパとか言うなよ」
『それはそれとして面白そうなら言うだろ普通』
こいつ芸人でも目指してんの?
ヴァールはじめこの場にいるみんながどこか、呆れた目で彼女を見ている。冷静に情報の分析や把握を行えるくせして、根本的なところで面白さ優先なのかよ、こいつ。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




