登場!精霊知能シャーリヒッタ!!
話も一区切りつけて、いよいよ俺はこの場にてシャーリヒッタを呼び寄せることにした。
隠し拠点制圧にあたって、俺が受け持っていた役割をしっかりと口頭で引き継いでもらわないといけないからね。
「《風よ、はるかなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》──来てくれ、精霊知能シャーリヒッタ」
スキルを発動し、呼びかける。同時に和室内が青白い光に満たされて、やがて一筋の輝きが天井から突き抜けて降り立ってきた。
……こんな演出じゃなかったろ、このスキル。なんだ?
訝しむ俺だが、その間にも事態は進む。輝きが人の形を成して、次第にホログラムめいた半透明の少女を一人、映し出すに至ったのだ。
真っ赤に燃える長髪が、野性的なまでに無造作に伸びている。吊り目がちだが大きな瞳が、溌剌としつつも強気な印象を与える美少女。不敵な笑みを浮かべ、絹のローブに二対の翼を背中に生やし、あまつさえ腕組みなんてしている。
年の頃リーベやヴァールの外見と同じくらいか。かつて遠巻きに見たのと大して変わらない姿だ。
「むう……っ! これが、精霊知能。先日のヌツェン殿同様、ヴァール様と同じ存在なのか」
「うわ、これまたかわいー……え、精霊知能って美女か美少女しかいないんですか? イケメンとかいないんです?」
「男性人格の精霊知能もいるぞ。たまたま、呼び出しているのが女性人格のモノばかりなだけだな」
サウダーデさんや葵さんの、率直な驚きのリアクションを視界に収める。特に葵さんはなんだろう、精霊知能のことを美女と美少女だらけのハーレムの園だと勘違いしかけているのかな。
ヴァールが普通に訂正を入れたがまさにその通りで、普通に男性の姿を取った精霊知能も多くいる。リーベやヴァールも含めて女ばかり呼んでいるのはたまたまだな、マジで。
ちなみに男の精霊知能だって漏れなくイケメンばかりだ。やろうと思えばガールズサイドだってできちゃうんだぞー。
などと内心で適当なことを呟いていると、いよいよ半透明の状態で降臨した、目の前の精霊知能の少女が口を開いた。
『────よーやっと会えたぜ、コマンドプロンプト』
その子は鈴の鳴るより涼やかな声でしかし、男勝りな口調で俺を呼ぶ。丸々とした目が、まっすぐに俺に向けて視線を投げる。
逃さない、受け止めろと言わんばかりの情熱的な視線だ。俺は、私はコマンドプロンプトとして、静かに彼女を見据えて言う。
「久しぶりだな……お前は知らなかったろうが169年と3ヶ月14日、8時間35分6秒ぶりにお目にかかる。私がコマンドプロンプトだ」
『へっ……こうして面向き合うとなんつうか、不思議な感覚だぜ。いないとおかしい存在に、最後の最期に現れるまで気付きもできなかったんだぜ、皆してよ。ワールドプロセッサに魂が芽生えたんだから、対になるアンタにも魂が芽生えているはずと、誰か一体くらいは気づいても良かったんだがなァ』
「たしかに対とはいえ、私の立ち位置は独特だからな。ソフトウェアでありながらハードウェアでもある以上、無意識的に可能性から除外していたとしても不思議ではない」
『ワールドプロセッサという管理者あってこそのアンタであり、アンタという基盤あってこそのワールドプロセッサ、ひいては我々精霊知能ってわけだからなァ……ま、結果論で言えば誰も気づかなかったからこその今、ってわけなんだろうがな! ダハハハハハハッ!!』
やり取りを経て、豪快に笑ってのける彼女。何をおいてもまず真っ先に私の存在そのものについて言及してきたあたり、少なからず思うところはあったようだな。
だが……まあ、なんていうかたしかにヴァールとは微妙に水と油そうな雰囲気だわ。難しい話をしていてもどこか陽キャチックというか、朗らかさがあるもの。
これが俺とかヴァールだと無闇に深刻ぶっちゃって、大した話でもないことを通夜か何かみたいな空気で話し始めちゃうからやっぱり性格、性質の差ってのは大きい。
ともあれ、まずは名乗りを上げさせないと。
俺は彼女──精霊知能シャーリヒッタに促した。
「とりあえずみんなに挨拶してくれ。今回、お前と共に戦う仲間のみなさんだ」
『おうっ!! ──よう、元気してたか現世のみんな! オレは精霊知能シャーリヒッタ! ワールドプロセッサとそこにいるコマンドプロンプトの娘で、さらにはそこのヴァールの姉だ! どーも今後ともよろしくなァッ!!』
「いやいやいやいや娘ってお前」
「待て待て待て待て姉だとお前」
あまりに語弊に満ちた名乗り上げに、まさかのヴァールとハモる形でツッコミを入れる。娘ってお前、姉はともかく娘ってお前。
15歳でまさかの子持ち疑惑が浮上してしまったよ、香苗さんはじめみなさんの視線が俺にグッサリ刺さる!
「ハッハッハー、公平さんの出自を思えばそうか、彼はあらゆるものにとってのグレートファザーとも言えるわけかあ。属性過多だね、キメラかな?」
「父……!! 少なくとも精霊知能の中には救世主様をそのように呼んで敬う方もいらっしゃるということですか! メモメモメモり、メモメモメモり!!」
「ミス・香苗は録画したり録音したりメモを持ったり忙しいですねえ。といいますか、ミス・ヴァールのお姉様でもあるのですねえミス・シャーリヒッタは」
……いやまあ、事情を知ってるからそんな愕然としてらっしゃるわけでもないみたいだからいいけど。
例えばここに関口くんとかおかし三人娘、はたまた梨沙さんやら松田くんたちがいたら絶望だぞ、地獄ぞ?
なんてこと言ってくれんだお前と、俺とヴァールはシャーリヒッタに抗議を入れた。
「いつから俺はお前のパパになったんだ!? 人聞きの悪いこと言うんじゃないよ!」
『つってワールドプロセッサとアンタからこの世のすべてが始まってんだしよー。広義の意味ではパパだろパパ。認知しろよー』
「どちらかと言えばワタシこそが姉だろう! お前は妹だ、どう考えても! 聞き捨てならんことを言うな!」
『はー? いやいやオレとお前ならオレのが姉貴感あるって! なんつーの風格? カリスマ? 的なのあるし? 生真面目すぎて不器用なお前が姉貴はちょっとなあ……』
「何をするにも大雑把でちゃらんぽらんなお前に言われたくない!」
「ヴァールさん、珍しく熱くなってるねえ」
愕然とヴァールが呻いた。隣でマリーさんがいかにも珍しいものを見たとばかりに目を丸くしている。
正直、生真面目すぎて不器用って評は頷けなくもないんだけれど……そこが彼女のいいところで魅力でもあるからね。ソフィアさんだって認める、ヴァールという少女の素敵なところだ。
どちらが姉っぽいかについては、俺からはノーコメントだけどね!
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




