粛清執行、承認
以前翠川と交戦した、県境の山々の中にあるらしい倶楽部の隠し拠点。
すでに縁があったというのは驚きだが、とはいえ基本的に馴染みのない土地のことだ。諸々準備も含めて、やはりそれじゃあ今すぐ殴り込むぞー! という話にもならないようだった。
「この間と同様、警察や全探組、ダンジョン聖教と連携しての包囲網の構築を急いでいるところだ。その都合上、隠し拠点の制圧に向けたアクションは明日になる」
「あのあたりは民家こそ少ないにせよ国道やらバイパスやらも近くにありますからね。万一その辺に被害が出たら、湖西方面から湖北、あるいはこの県の北部にまで抜けるルートが一部、断絶されることになるでしょう」
「それはまずいですね……」
いわゆる繁華街が近くに少ないのは、人命へのリスクという意味ではありがたいことだけれど……
香苗さんの言うように国道やらバイパス道路に被害が出てしまうのはそれはそれでまずい。
うちの県は真ん中に大きな湖があって、そこを起点に東西南北にエリア分けされる。その中でも湖西から湖北にかけては人が少ない分、国道やらバイパス等の交通ルートが結構しっかりしていたりするのだ。
なのでもし万一にでもそうした道路が破壊でもされたら、関西圏の物流にも結構な影響が出てしまうことが懸念されるのだった。
そうした危険性について、ふむと考えつつエリスさんが言った。
「スレイブモンスターは倒しきったし、構成員も大概捕らえた。だけど火野と鬼島がいるうちは、大規模破壊のような事態も想定するべきだ。ということですねヴァールさん」
「うむ。隠し拠点にスレイブモンスターがいる可能性もあれば、青樹が変貌したようなバグモンスターが、また現れる可能性も否定できない。何より鬼島だ」
「先程も言った通り、そのモノが概念存在である可能性は高いんです……権能を行使してくるかもしれない以上、たとえば突然大嵐が発生するなんてこともありえてしまいますから」
「神や悪魔、妖怪みたいな人智を超えた化物どもが相手ってわけかい。ファファファファ! この年になってからファンタジーノベルみたいな話ばかり耳にするとはねえ」
ヴァールの言葉を受けての俺の補足に、マリーさんが面白そうに笑う。
御年83歳、大ダンジョン時代の大部分を生きてこられた大先輩である彼女にとって見ればこの半年ほどの出来事は、本当にファンタジーもののラノベみたいなことが現実に起きたような感じなんだろうな。
俺自身、実は普通の人間じゃありませんでしたーってオチがついたしね。
世界観がひっくり返るというか、表層だけでないところが見えた途端、ジャンルが変わったというか……とにかく探査者になる前と今とでは、ものの見え方がまるっと変わったのは自覚していたりする。
さておき話を戻すけど、ことここに至っての問題は火野はもちろん、それ以上におそらく概念存在なのだろう鬼島なる輩だ。
権能を持っていると仮定すれば、やつが打てる策の幅広さや強烈さはバグスキルの比じゃない。
神は関わっていないと織田は言っていたので、それを信じるならば悪魔か妖怪か、はたまた妖精なり精霊なりってところだろうな。
その中で最悪のパターン、最上位の悪魔か妖怪だとするならば最悪、天変地異まで起こされかねない。まあ、本当にそれが可能ならばこないだの制圧作戦の時に姿を見せていてもいいと思うから、さすがにそこまでではないだろうけれど。
「どちらにせよ、今度の戦いは最悪の場合、バグスキルと権能を同時に相手しなきゃならない、か……うーん。両方一度に封印するのはキツいぞ、さすがに」
思わず悩む。火野のバグスキル《玄武結界》と鬼島の権能と、両方の因果を改変して同時に封じるのは中々負担が高いと見るしかない。
どちらか片方だけなら問題ないけど、同時並行でってなると相当厳しいだろう。こないだの集団転移以上に肉体に負荷がかかるだろうし、最悪寿命が縮まる可能性さえある。
他に方法がないならば仕方ないからやるけども、他に手立てがあるならそっちを選びたいところだ。
考えあぐねる俺だが、その時ふいに、称号が変わるのを察知した。
────なんだ? このタイミングで。
小声でステータスとつぶやくと、隣で香苗さんの両眼がキュピーンと光った。いや待って、早いよ反応。
怖ぁ……ってなりつつもワールドプロセッサからのメッセージを読む。
名前 山形公平 レベル891
称号 第三種異分子処断権限認可:対象シャーリヒッタ
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
称号 第三種異分子処断権限認可:対象シャーリヒッタ
解説 現世を乱せしオペレータへの絶対権能の使用を許可
効果 なし
《称号『第三種異分子処断権限認可:対象シャーリヒッタ』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……当該オペレータはシャーリヒッタに任せ、あなたは概念存在を頼みます。あのモノ達の、野望の一つを打ち砕くのです》
シャーリヒッタ……あの子にオペレータに対する絶対権能を許可したのか、ワールドプロセッサ。そして火野の相手をさせるつもりだな。
そして俺には概念存在の相手をさせる、と。ヌツェン同様、精霊知能召喚スキルを有効活用しろってことだな。
あいつ、この状況になることを分かっていたのか?
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




