最初期の村の近くにラストダンジョンがあった、みたいな話
幹部間でのみ共有されていたという、倶楽部日本支部における隠し拠点。
青樹さんが事情聴取の末、明かしてくれた情報は俺達にとって、倶楽部幹部を今度こそ完全に捕縛にまで持っていけるだけの可能性を祕めたものだった。
「他に拠点がない、なんてこともないだろうとは思っていたけどね……ヴァールさん。隠し拠点ってのは他にあったりは?」
「ない、と見るしかない。青樹の供述でもその一箇所のみだった上、先に捕縛した翠川にも追加で聴取したものの青樹と認識が一致していた。恐らく、倶楽部の最後に残った拠点がそこだろう」
この期に及んで青樹さんが、倶楽部を利するような嘘をつくとも考えづらいけれど。
翠川による証言をも重ねて信憑性があるというのであれば、少なくとも幹部の半数にとって隠し拠点は一箇所のみと言うことになるだろう。
つまりはもし今後、別に拠点が発見されたとしてもそれは火野ないし鬼島のプライベートな拠点ということになる。
倶楽部幹部という括りにおいてはやはり、今話に上がっている拠点だけということになるんだろうな。
葵さんが少しばかり、難しい顔をしてヴァールに尋ねた。
「っていうか翠川、知ってたのに言わなかったんですね。洗い浚い話したんじゃなかったんですか?」
「"聞かれなかったから言えなかった。そちらがまだ取っ掛かりも掴んでないことまでこちらからペラペラ話すのはリスクが高かった"とのことだ」
「リスク……?」
「やつへの事情聴取の段階ではまだ、青樹が野放しだったからな。《次元転移》を用いての暗殺が基本的に止めようがなかったのは、実際にやつの病室にまでまんまと忍び込まれたことからも理解できる」
事情聴取に素直に応じていたはずの翠川から、未だ新規の情報が出てきたこと。そこに不満を覚えていたようだったが……そんな葵さんへ、ヴァールは肩をすくめて困ったように応える。
翠川の立場からすればなるほど、いくら素直に取り調べに応じるつもりとはいえ、自分から積極的に内情を披露するのは躊躇われたんだろう……青樹さんによる暗殺を恐れたってのは、彼女のバグスキルを知っているならば理解せざるを得ない。
自身を、現世より一つ二つ上の階層にスライドさせることであらゆるオブジェクトを無視してすり抜けるバグスキル《次元転移》。
事実上、いかなる障害物遮蔽物を完全に無効化できてしまうとんでもないスキルだ。これを駆使すれば、青樹さんはたとえ厳重な警備がなされている要人でさえ容易く暗殺を成功させてしまうのだろう。
今や精霊知能ヌツェンの力により剥奪されたスキルだけど、翠川からすればそれを保有する青樹さんはさぞや恐ろしかっただろうな。
それゆえに、事情聴取に協力的な姿勢を見せたとは言え自発的に情報を伝えるつもりにはなれなかったということか。
「本当にヤバい情報まで吐いて、それをトリガーに粛清されるのを嫌がったってことですか……」
「あくまでも、我々の取り調べに屈してやむを得ず情報を漏らしたという体裁を保ちたかったようだ。仮に青樹が暗殺を仕掛けてきた時にも、まだ吐いていない情報があるという手札があれば少なくとも、完全な裏切り行為を働いたという疑惑については反論できるからな」
「自分で自分の腹を掻っ捌くような真似をする命知らずが、そんな保身に走りますかあ……ああ、バトルが関係してないからですかね? バトルジャンキーとしては、スキルを完全封印された状態であっさり暗殺されて終わりっていうのは我慢ならなかったんでしょうか」
「そこまではなんとも言えん。動機が短絡的な割に、妙に狡猾な面のある輩だからな……他にも何か意図があるかも知らんが、それはこの際どうでもいいことだ」
翠川に大してそこまで興味もないと、ヴァールは肩をすくめた。葵さんもまあどうでもいいですねと頷き、話を打ち切る。
彼の内心はさておくにせよ、とにかく青樹さんと二人分の供述の末、隠し拠点の信憑性は高まったわけだ。今はそちらこそが本題だろう。
となれば気になるのは場所だが、ここについても意外な話が伝えられた。
俺達の、知らないわけでもない場所にその隠し拠点はあったのだ。
「拠点があるのはエリス、以前お前達が翠川と初めて交戦した地点だ。ダンジョン聖教が秘密裏に倶楽部に送り込んでいたスパイ、ウィリアムズが危機に瀕していた地点でもあるな」
「…………あそこですか。適当な山奥でウィリアムズ女史を始末しようとしていたってわけじゃなかったんですね」
もう10日くらい前になるのかな。ダンジョン探査のために山に向かった帰り、《座標変動》を使って転移してきた翠川と出くわし、そのまま戦闘へと至った。
潜入捜査をしていたウィリアムズさんが殺されようとしていたこともあり、奇襲のような形で彼と戦い、そして捕縛したのだ。
思えばあの時、なんであんな何もなさそうな山奥に転移したのかってのは少しだけ不思議だったけど……何かしら思い入れのある場所だったりするのかな? くらいにしか考えなかった。
まさか隠し拠点があそこの近くにあったとはなあ。序盤の町にラスボスがいた、みたいな奇妙な感覚だ。
「後始末が容易な山奥であればどこでも良かったため、直近の山奥を選んだ末に隠し拠点の近くに転移したそうだ。その周辺で、たまたまお前達がいたというのは完全に想定外だったみたいだがな」
「そりゃ、そうでしょうねえ」
縁の巡り合わせというべきか、俺達も翠川も倶楽部もそれぞれ、いろいろとニアミスしていたらしいことにヴァールもエリスさんも苦笑する。
合縁奇縁、これも因果というものなのだろう。
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