もう一か所攻め込めるドン!
「権能自体はあらゆる概念存在が持つものではありますが、その範囲や強度、権限の強さについては序列によって変わります」
「つまり偉いほど強い、と。権力みたいだね」
「実質的にそのように捉えてもらっていいですよ。格の高い存在ほどできることの幅が広く、また深度も深い。その分、消費やリスクも相応に抱えるという点についても、会社で言えば社長や会長が大きな権力を持つのと裏腹の、責任を担っているという点では同じですね」
ワールドプロセッサ、コマンドプロンプトの二者とその他の精霊知能。両者の間で完全なるトップダウン方式が取られているシステム領域についてはまあ、力関係の構図は簡単なものだ。
システムさんとんだブラック上司ですねとか、シャイニング山形プロンプトさん今さらのこのこ娑婆に出てるんですねとかそういうことを言われてもおかしくないくらい、システム領域の中でも俺とあいつの二者だけは最上位なのだ。
精霊知能内にも役割担当や世代、年代による上下関係はあるようだけど、それもどこかごっこ的というか元々意志のないシステムプログラム達だからね。
現世の影響を受けてどことなく大家族的というか一族的というか、アットホームな職場というチラシで見たらいろいろ察せてしまいそうな感じの空気になっているっぽいのは……まあ、俺がこうだしいいのかな、とは思う。
反面、概念領域は結構複雑なのだ。その辺、改めてみんなに詳しく説明する。
「概念領域のモノ達はカテゴリ毎に細分化されています。神話や伝説、伝承、あるいは噂話など、現世に生きる知的生命体の認識によって所属や性質について分類化されているんです」
「……? それは我々人間の認識に合わせて、概念存在達は所属やあり方を変えているというのか」
「ええ、サウダーデさん。彼らは結局のところ現世の知性に存在を左右されているんです。権能という強力な力を持つ、代償といったところでしょうかね」
というか単純な話、そうなるように創られたのが彼らなんだけどね。
現世に対して上位にあるけれど、だからといって決して現世への支配権など彼らにはない。むしろ人間達こそがその存在の核たる部分を握っているほどで、たとえば神や悪魔の中には時代とともに認識が変わる中で、名もあり方も所属も性質も、すべてまるっきり変異しているようなモノも珍しくはない。
人間達と互いに畏怖しあうように。互いに寄り添い、互いに感謝し、互いに恐れるようになっているのだ。
役割上、超自然超人間的なモノとして扱われるけれど本質的には常に同格。それこそが人間と概念存在の関係性の肝だと言ってもいいだろう。
「そんなわけで彼らは、時と場合によっては上下の格どころか左右の所属、種類でさえも変わることがあるんですね。ですのでそれに応じて権能の強さも時と場合で変動するんですよ」
「不安定ですねえ……とはいえ、安定しているとそれはそれで絶対的すぎるというわけですか、ミスター・公平」
「そうなります。言っちゃうとバランスを調節した結果、なんですよね」
肩をすくめる。この世界のワールドプロセッサはとかくそうしたバランス調整に力を入れており、その結果がモロに反映されたのがこの、概念領域と現世の関係性と言える。
ちなみにだけど、あくまでこれはこの世界に限っての話だ。別の世界のワールドプロセッサはまた別の指針を持って世界を創っているんだろうし、そこにどちらが良い悪いというのはない。
それでよその世界に干渉するのであればアウトだが、そうでない限りは好きにしていいのだ。
聞いているかな、アルマさん? アウトだからな改めて言うけどお前、言うまでもないけどお前。
『うるさいよ! 嫌味かましてないで話し続けときなよ!』
脳内のアルマの反発を受ける。こういう反応をするってことは一応、自分のやったことがアウトだってのは分かってるんだよなこいつ。
その上で一切躊躇せず4つの世界を喰らったんだから、なおのこと質悪いよね。
邪悪なる思念の所業を思いつつ、俺はひとまず説明を終えた。
「……権能についてはこんな感じですね。で、話を戻すとダンジョンコアの加工なんて、権能を使って行うくらいしか可能なことには思えないんです。それも結構、強力なやつ」
「つまり鬼島なる者は、かなり高位の概念存在であるかもしれないってことだね。いやはや火野め、人間のクズだからって人間じゃないモノとタッグを組むとは」
エリスさんが苦々しくもつぶやく。残るは事実上火野だけかと思いきや、もしかしなくても余計にややこしいやつがあと一人、いるというのだからゲッソリするよね。
他の人も大体似たような感じで苦虫を噛み潰している。ヴァールがそんな空気を変えるかのように声をあげた。
「たしかに相手取るには厄介だが、さりとて放置などありえない。青樹から得た情報もあるのだし、やはりこの数日中に残る火野と鬼島とは決着をつけなければなるまい」
「ん……青樹さん、その二人について何か有益なことを言ったのか? ヴァール」
「ああ。かなり重大な情報だ」
青樹さんの名前を引き合いに出したヴァールは、どことなく強気さを感じさせる無表情だ。
何か特大の情報を得たみたいだな。耳を傾けると、彼女は満足げに頷き、そして言うのだった。
「先日制圧した国内4つの拠点の他、あと一つ──幹部間でのみ使用されていた、隠し拠点がある。おそらく火野と鬼島はそこに逃げ込んでいるのだろう」
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