旅館の朝食のあっさり具合がなんか好き。ちなみにバイキング形式でも可
そうしてお夕飯を食べ──今度はエリスさんと一緒だった──お風呂に入ってぐっすり眠り、夜が明けて今。
8月9日。御堂本家にやってきてから早4日が経過しており、もう明日には実家に戻るという段である。
ここまで長いこと実家を空けたことなんてなかったし、なんだか新鮮な心地だ。
いつか大人になったら一人暮らしを始めるかもしれないわけなので、その時の予行演習みたいなものかもしれない。
「んー、いい天気……」
背筋を伸ばして体をほぐす、朝。襖から差し込む光は翳りなく鮮烈で、今日も夏らしい晴天なのだろうと窺える。
今日は何をして過ごそうか? 倶楽部関係については正直、俺のほうから能動的に動ける話じゃないしね。青樹さんの事情聴取を経て、判定した新事実についてヴァール達と打ち合わせる時が来るのを待つばかりってところか。
「せっかくだし市場行きたいよなあ……近くにあるって言うし、暇なら行けるかな?」
『むっ市場……! 前テレビでやってたところだね! あれ食べたいよ僕、海鮮丼とローストビーフのお寿司!』
「あー……いいなあそれ、腹減ってきた」
脳内アルマさんの提案により、想起させられた海鮮丼だの肉寿司だのが起きぬけの空腹を刺激する。たしかにこないだ、テレビで取り沙汰されていたのを見た覚えがある。
他にも串焼きとかソフトクリームとかも売られていて、蕎麦屋さんとかうどん屋さんなんかもあった。どれも美味しそうだったなあ。
市場、アリだな。朝ごはん食べたらひとまず話を通してみようか、今日の香苗さん達の予定にもよるけれど。
そんな感じにひとまず考えていると噂をすれば影、香苗さん達がやってくるのを感知する。
「おはようございます、公平くん。もう起きていらっしゃいますか?」
「はい、香苗さん。おはようございます、エリスさんと葵さんも」
「ハッハッハー、いい朝だねー」
「グッドモーニングです山形くん、はっはっはー!」
襖越しからの挨拶。俺が起きているのを確認して香苗さんは、失礼しますと前置いてから襖を開け、中に入ってくる。
後ろにはエリスさんと葵さん、加えて女中さん達もいる。朝ごはんを持ってきてくださったみたいだ、助かる。さっきアルマと話をしていたからか、やけにお腹空いちゃってたからね。
テキパキと布団を片付けて並べられるお膳が4つ。相変わらず旅館顔負けのクオリティで、御堂本家の御威光というものを殊更強く感じるのがこの瞬間だ。
白米はもちろんのことお漬物や海苔、卵など朝ゆえかあっさりした感じのご飯のお供を中心に、しかし焼鮭と味噌汁、卵焼きにサラダも添えてあって栄養バランスが非常によろしそうだ。
「ハッハッハー、いや今日も美味しそうだねえ」
「はっはっはー! 久しぶりに日本に戻ってきて、こんないいもの御相伴に預かるんですから。ホント、香苗さんには感謝感謝ですねー」
エリスさんや葵さんが喜色満面に膳の前に座る。俺と香苗さんも同様だ。
準備が整って、俺達は両手を合わせた。
「いただきまーす」
口々に告げてから箸を手に取り、食事を始める。いかにも純和食な朝食をいただきながら、合間合間に会話も挟み……4人で和やかなムードで食卓を囲む形だ。
まずはエリスさんが、味噌汁を数口啜ってから口火を切った。
「んーいい出汁、白味噌最高……あ、そうそうみんな聞いておくれよ。今日の昼過ぎにヴァールさんやマリー、サウダーデさんにベナウィさんがまたこの屋敷に来るんだよ。倶楽部絡みの話し合いのためにね」
「……というと、青樹さんへの事情聴取が終わったんですね?」
「みたいだよー。あの女もあんな成り行きで捕まった上、香苗さんとも事実上、和解したからね。だいぶ素直な態度でいろいろ、吐いてくれたみたいだ」
この地域独特の白味噌を使った味噌汁の、優しい風味に目を細めつつそんなことを言う。青樹さんの事情聴取を経て、いよいよ対倶楽部への次の一手を打つのか。
どうやら香苗さんとの和解が、頑なだった彼女の心を溶かしてくれたみたいだ。俺達に協力的な姿勢を示してくれたらしいのが、なんだかすごく嬉しく思う。
隣で安心したように笑う香苗さんを見ていると、余計にね。
「青樹さん……もう、少なくとも敵対はしないと信じたいところです」
「大丈夫ですよ、香苗さん。きっとあなたの想いが、彼女を正しい道に戻してくれたと思いますから」
「師匠が弟子を導くことはもちろんですけど、弟子が師匠を導くことだってあると思いますからねー。はっはっはー! 私もそのうち闇堕ちした師匠を改心させる日がきっと来ます!」
「ハッハッハー、闇堕ち前提なのやめようか。ま、青樹はもう心配いらないだろうね。ちゃんと罪償いの中で、自分のあり方を見つけていけるさ。カウンセリングとかも受けるだろうし」
俺はもちろんエリスさん、葵さんも漫才しつつも師弟の和解を喜んでくれている。
青樹さんがどれほどの罪に問われ、罰を課せられ、そしてどれだけの間、償いをするのかは司法の判断だ。だけどきっと、彼女はもう道を過たず、しっかりと贖いを果たしてまた、俺達のところに姿を見せてくれるだろう。
倶楽部幹部としてでなく、香苗さんの師匠として。
俺は、その時を心待ちにしたいと思った。
明日からまた、毎日0時更新に戻ります。よろしくお願いしますー
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別途連載中のニューワールド・ブリゲイドもよろしくねー(ダイマ)
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