「13と言わず増やせる限りは増やしたいですね、使徒」
香苗さんと青樹さんの面会にて、明かされた過去とひとまずの和解、そして今後の償い──
それらの説明を受け、香苗さんは最後にこう、締めくくった。
「私と彼女がここまで関係改善に至れたのは、公平くんはもちろんのこと対倶楽部に関わった、すべての人達のおかげでもあります。特にエリスさん、葵さんには日々の護衛も含め、本当にお世話になっていますね……この場をお借りして、みなさんには改めて感謝いたします。本当に、ありがとうございました」
正座し、深く礼をする彼女は、ひどくすっきりしたような達成感が感じられた。あるいは肩の荷が下りたような清々しさとも言うだろうか。
この数年、心にずっと刺さっていたままだったんだろう青樹さんとの決着がついたんだ。それも、とても前向きで素晴らしい方向に。
二人が無事、穏当かつポジティブな形に落ち着いてくれて本当によかった。香苗さんももちろんだけど、青樹さんにとっても決して、悪い話にならなかったことが何より嬉しい。
大ダンジョン時代における被害者であり、それゆえ加害者にもなってしまった彼女には……罪償いをしてからという前提になるけれど、どうか今度こそ自身の人生を生きていってほしい。
そんな思いもあり、俺は微笑んで答えた。
「香苗さんと青樹さんが、無事に和解できて何よりですよ。お二人のこれからが素晴らしいものになることを、願ってやみません」
「ハッハッハー。私らは仕事をしただけだからそんな、気にしなくていいよ香苗さん。青樹が社会復帰するにはしばらくかかるだろうけど……話を聞く限り、きっと更生できるものと私も信じるよ」
「はっはっはー! 罪を償う中で、自身のこれまでを振り返り反省して新たな道を見つける人もたくさんいます。きっと今の彼女なら見つけ出せるはずですよ……自分の、本当に進みたい方向を」
「はい。私もそう、信じています」
エリスさんと葵さんの言葉を受けて、香苗さんも微笑んだ。なんの翳りもない、とても素敵な笑顔。
それを見ることができてよかったと、俺達も微笑むのだった。
さて、ひとまず青樹さん絡みについてはこれで終わりだ。
あとの事情聴取は現在行われているみたいで、香苗さんによると、また後日に新しく判明するだろう情報などとの擦り合せが関係者の中で行われるとのことだった。
つまりはそれまで完全にフリーってことだね。倶楽部もほぼ壊滅状態で、残る火野にしろ鬼島にしろ、もう勝負ついてるからって感じではあるんだけど……
火野は何をしでかしてくるか分からないし、エリスさんや葵さんの護衛は引き続き行われるらしかった。
「最低限、火野をとっちめて捕縛しないと安心できないしね……あんな気色の悪い爺さん。率直な本音を言うけど逮捕と言わず、その場で処断してしまいたい気持ちがあるよ、エリスさん的にはね」
「執着されちゃってますしね、エリスさん……俺としても、青樹さんへの所業は到底許せませんよ。生きることを否定はしませんが、野放しにしたままというのは本当に嫌ですね」
正直に言うと、俺の中で火野は邪悪なる思念並に質の悪い輩に成り下がっている。
自身の欲望のために躊躇なく他人を踏み躙り、おもちゃにし、そして蔑みせせら笑うなんて絶対に許せない行為だ。青樹さんへ言い放った言葉を思い返すだに、胸が悪くなる。
『おいおいおーい公平? さすがにあんな醜悪なクズと一緒にしないでほしいんだけど? 私は君達のことをそれなりに気に入っているからおもちゃにしたけど、あいつはただただ悪意からおもちゃにしたんじゃないか。大きいよこの違いは』
同じだよ、おもちゃにされる側にとっては──と、脳内で呆れた抗弁を垂れるアルマに返す。
気に入ったからなんだというのか。かつて関口くんにしたことだって、言ってしまえば火野が青樹さんにしたことと同じだろうにまったく。
──と、そうだ。
話の成り行きもあり、俺はエリスさんと葵さんに向き直った。
「お二人とも、少しだけお時間いいでしょうか?」
「何かな? 愛の告白?」
「2人、いえ香苗さん含め3人まとめてですか? ハーレム救世主の噂、本当にしちゃいます?」
「誤解です! ……コホン。実は二人にも、俺の正体についてお話しておきたいかなーと、思いまして」
普通にボケてくる二人にツッコむ。ハーレム救世主ってなんだよ。
たまたま見目麗しい女性のお知り合いが多いだけじゃないか。未だに見知らぬ女の人が近くにいると怖いのに、巷はなんでそんなこと言うんだ怖ぁ……
謂れなきハーレム野郎呼ばわりに内心で震えあがりつつも、俺が示したのはそう、俺ことコマンドプロンプトをはじめとするシステム側についての話と、アドミニストレータ計画周りについて説明しようってわけだね。
何やら薄々勘付いているみたいだし、そうでなくともすでにこの人たちは信頼できるかけがえのない仲間達だ。いつまでも内輪話だからと情報を共有しないのも、今後に支障をきたしそうな気がするのだ。
「! ……いいのかい? 結構、重要そうなことばかりみたいだけど」
「もちろん。お二人にももう、知っておいてほしいですから」
「そして偉大なる救世主神話伝説に触れたお二人が、改めて新たなる使徒になる、と。さすがは公平くんいいお考えです。ちょうど今晩、全国ネットに救世主様の尊きご活躍が示されたことについて救世の光チャンネルにて盛大に語り伝えたく思いますので、なんならお二人にも参加してもらいましょうか」
「そんな意図は微塵もありませんし二人を巻き込まないであげてほしいんですけど。あの、葵さん真に受けないでもらえます?!」
「で、伝道されちゃう……?」
どうしても伝道したい欲を隠せない伝道師の姿にドン引きだよ。エリスさんはともかく葵さん、冷や汗かいてるじゃん!
そして際限なく増やすつもりなんだなあ、使徒……苦虫を噛み潰す思いで俺は、とにかく説明を始めるのだった。
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