終盤になってから真価を発揮するタイプの効果
悪夢のような光景はひとまず過ぎ去って、俺たちはようやっと、これまでに得たスキルの再確認へと至った。
こないだがたしか、《生まれたての奇跡を温める人》までだったか。俺が香苗さんを、初めて呼んだ時にシステムさんから受け取った称号だ……出歯亀さんの暴挙を俺は忘れない。
そこからだから、次に得たのはたしか。
「《道を拓き邁進せよ、今は積み重ねる人よ》だったかな」
「効果が破格極まる、あの称号ですね」
香苗さんが、スクリーンに映し出されたスライドショーを次に進める。
そこにはまさに今しがた、話題に上げていたその称号についてが記載されていた。
称号 道を拓き邁進せよ、今は積み重ねる人よ
解説 一歩でも、前に進もうとする意志そのものが、あなたの何よりもの素晴らしさ
効果 ダンジョン踏破時、レベルが1アップする
「ダンジョン踏破時にレベルが1アップする。信じがたいほどの効果ですね」
「早い話、700個のF級ダンジョンを踏破したら俺、香苗さんに並ぶわけですもんねえ」
「極端な話ですが、そうなりますね。もっとも、上級探査者による二階級以上も下のダンジョンの探査は基本、推奨されていませんが。やりすぎると後進の育成に支障が出ますからね」
「そう考えると、常に楽してレベルアップとは行きづらいのかもしれませんね」
「そもそもレベルなど、結局身体能力にしか関係しませんから。活かせるだけの場数を踏んでいなければ、スキルや称号の効果で封殺されかねない程度のものです」
香苗さんが見解を述べていく。A級トップランカーとしての彼女の言葉は、大体の場合、経験の浅い俺の想像をたやすく超えて的確だ。
レベル……科学的な実験を繰り返した結果、1上がるごとに最初の身体能力の大体5%分、強化されるという特性を持つことが解明された、探査者専用の数値。
称号やスキルと並んで探査者を超人たらしめる要素であり、各級ごとのバロメーターとしても機能している、ある種の基準だ。
この、レベル値が高ければ高いほどに概ね、探査者としての級も高い。そして当たり前だが、そういう上級探査者の身体能力は、完全に人間離れしているという。
目の前のA級トップランカーを見る。この人、レベル700近かったよな。つまりは非探査者あるいは新人探査者の、約35倍ほどの身体能力を誇るってことか。
そういえば新人研修のダンジョン探査の時、《風さえ吹かない荒野を行くよ》が発動しているのにも拘らず、俺の全力疾走は香苗さんにたやすく追い付かれていたなあ。
あれって、10倍の元になった俺の身体能力が軟だったのもあるけど、単純に香苗さんの身体能力とレベルによる補正がヤバかったってことなんだな。
怖ぁ……システムさん謹製のスキルにゴリ押しで勝ってるじゃん。
A級トップランカーの恐ろしさをいまさらながら感じていると、望月さんも話に加わってきた。
「昇級すればするほどに、値打ちの上がるタイプの効果ですね! 特にA級くらいからは、レベルが上がりにくくなると聞きますし」
「そうなんですか?」
「よくご存知ですね、望月さん。厳密にはB級上位辺りから、です。大体レベル250を数えた辺りから、目に見えてレベルの上昇速度が遅くなります」
香苗さん曰く、レベル120くらいから300あたりまでが大体のB級探査者のレベル分布らしい。下はC級上位と、上はA級下位と一部被るそうだが、概ねその辺のレベルがB級とのことだった。
で、その中でもB級上位あるいはA級下位とされるラインが250らしく、その頃からあからさまに、レベルの上昇が遅くなるのだと言う。
「A級とB級以下とで、色々明確に異なる点は様々ありますが……その中でも、A級内でのレベル格差があまりに大きいというものがあります。その原因にこれが関係あるのですね」
「レベルの格差? A級探査者っていうひと括りの中で、そんなに差があるんですか?」
「上は僭越ながら私が700。下はB級上位と被り250から。実に450もの差が、A級という枠組みの中であるんですね」
「そんなに」
「レベルが上がりにくくなるとまでは聞いてましたけど……そんなことになっていたんですね、A級って」
とんでもない話だ。F級からB級まで全部ひっくるめた分よりもなお、A級下位から上位までの方が差があるっていうのか。
隣で望月さんもビックリしている。恐らくはA級になった段階で初めて、こういう情報は手に入るんだろうな、本来。意気揚々とトップ探査者に登り詰めたと思った途端に、上を見れば下より果てしないという現実を思い知らされたりするわけだ。鬼かよ怖ぁ。
「ですから公平くんのその効果は、A級になってからこそ真価を発揮するのでしょう。A級の、やたら広くて複雑なダンジョンを5個踏破してようやく1上がるかどうかというレベルを、あなたは同じ労力で5も上げられるのです」
「成長速度5倍以上ってことですか……それはすごい」
そもそもすごいと思ってた効果が、改めて価値を帯びていく。
思わぬ界隈の現状と共に、俺は自分の得た効果を実感していた。
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