夏休みの自由研究?いえ、知らない子ですね(キッパリ)
巨大ハンバーガーも食べてすっかりお腹いっぱいだ。若干食べすぎたかもってなくらい腹の張った俺達は、店を出て軽くストレッチをした。
背筋を伸ばして深呼吸を何度か。なんとなく胃が整理されていく感じがするね。
梨沙さん、木下さんもそれぞれちょっと体を伸ばしたりしているんだけど、一方であれだけ食っといてまったくなんともなさそうな遠野さんのすさまじさが浮き彫りになる。
怖ぁ……全然ケロッとしてるじゃん。こっちは胃が圧迫されてケホッてなりがちなのに。なんなら物足りないのか、ちょっと寂しげにお腹を擦っている。いやどんだけ?
「うう、食べ過ぎなのは分かってるし満腹は満腹なんだけど、でもまだちょーっと食べたりない気もする……」
「嘘でしょ真知子……」
「アンタそのうち、体おかしくするわよ……」
暴食の化身か何かで? と言いたくなるような様子の彼女に、さしもの女子二人もヤベーやつを見る目を向けている。
朝ごはんもしっかり食べてきたってことを考えるとここに至るまで、明らかに食い過ぎだよ! って量を平らげてなおこの様子なのだから、そんな反応になるのも正直分からないでもないかなあ。
遠野さんもさすがに自覚はあるのか、ちょっと頬を染めて恥ずかしそうにしてるし。片岡くんを引き合いに出したら止まったあたり、恋って偉大だなとも思うよ。
さておき、お昼も食べたしそろそろお開きだ。
ちょっと早いかな? とも思ったがこのあと、女子は3人揃って梨沙さん家で、夏休みの宿題に取り掛かるから早ければそれに越したことはないということだった。
夏休みの宿題! そんなのもあるのか!
「公平くん?」
「わ、忘れてましたハッハッハ……あ、あのー、一応自由研究以外はほぼ終わらせたんですけどね?」
エリスさん葵さんのオトボケ師弟を真似て笑えば誤魔化せるかと思ったけど無理でした。というか、あのノリですべてを押し通すなんてエリスさんにしか無理だこれ。
いや、実際少しも手をつけてないわけじゃないんだよ夏休みの宿題。
数学とか国語とかの、いわゆる問題を解く系のものはパパっとやったし。コマンドプロンプトとして覚醒して以降、本来の演算能力や知識を取り戻す形でオツムもある程度よくなったのが功を奏した形だ。やったぜ。
ただ問題は、いわゆる自由研究とかあのへんでして……
ぶっちゃけやる気がないからな~んにも思いつきません。何をテーマにしてどうデータを集めりゃいいんだか。
探査者絡みの云々を題材にしようとも思ったけど、俺がやるとそのまま学術資料になりかねない気もするし困る。なんなら香苗さんとかが動画で解説とかしてきそうだし。
「ま、まあ最悪セミの抜け殻でも集めて標本にしようかなって。なんとなく形が違うとか書いとけばそれでいいかなって」
「小学生じゃないんだから……大丈夫? 私でよければ手伝うよ? 私は自由研究、もうほとんど目処が立ってるし」
「え。い、いやそれはさすがに悪いような、ってか、早い……」
すごい、優等生さんだわ梨沙さん。ギャルだけど成績上位だし、その上真面目なんだもんなあ。
計画的に宿題を終わらせるなんて、コマンドプロンプトになった今でも無理だ俺には。500年も生きてて正気ですかと言われそうだけど、ぶっちゃけ生まれた時から今に至るまでノリと勢いと直感で動いてるようなものだし。
とにかく、まずはテーマから考えないといけないだろう。
手伝ってもらうにしろ遠慮しとくにしろ、そこは俺自身が考えないといけないところなので……近日中に追って連絡するとだけ言って、俺は梨沙さんに待ってもらうことにした。
これぞ秘技・先延ばしの術でござる。
ガムちゃんに言ったら辛辣な言葉で泣かされてしまいそうだ。覇王忍者は忍術についてはガチだものね!
「困ったら必ず連絡してね、公平くん。どんなことより優先して、絶対に力になるからね」
「あ、あはは……ありがとう」
「こっちこそ、いつもありがとね……昨日は本当にお疲れ様でした、どうかゆっくり休んでください」
やたら重々しい宣言と、ものすごく気遣い溢れる言葉をかけてくれつつも。梨沙さんは木下さん、遠野さんとともに来た道を戻り駅へと戻っていった。
いい子だなぁ。まさか自由研究を手伝うとまで言ってくれるなんて。実際に手を借りるかどうかはその時次第なんだけど、なんだか心強いや。
「まずはテーマから考えないとなあ……」
「自由研究かー。大変だね最近の学生さんってのも」
遠い目をしてつぶやいていると、エリスさんが後ろからやってきた。梨沙さん達が帰ったので、大手を振って合流してきたみたいだ。
この人の学生時代には自由研究なんて、いやそもそも夏休みなんてあったんだろうか? おおよそ80年前だもんな、ちょっと気になる。
尋ねてみると、思ったよりヘヴィな答えが返ってきた。
「ハッハッハー、私そもそも学校行ってないんだよねー」
「え。そ、そうなんですか?」
「そうそう。まあ、いわゆる貧しい農村の娘さんでして。経済的な事情からどうしてもね。スキルに目覚めるまでは親の手伝いと内職で、目覚めてからは間を置かずして第二次モンスターハザードと《不老》獲得からの世捨て人ルートさ」
「えぇ……?」
「探査者として稼いだ金だけ村に貢いではいたけどそれも50年ほど前まで。家族や子孫も今やどこでどうしてるやらってね。あ、当代聖女のシャルロットくんとやらは血縁の可能性があるのか、モリガナだし」
ハッハッハー、とサラッと語るけどひたすらに重い……
時代柄ということだろう、そもそも教育を受ける前提でさえなかった上に、探査者になったら即座に不老体質を経て泣く泣く家族から離れざるを得なかったらしい。
そこから数十年、裏社会を生き抜いてきたのだから壮絶な人生だ。
どんな時でも明るく軽く振る舞うのは、そういう過去から来ているのかもしれないね。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




