トマトスライスがあるだけでなんか本場感出るよね
お昼はちょっとお高めのハンバーガーショップで食べることにした。
普段の行動範囲内ではお見かけしない、本場アメリカって感じのチェーン店だ。
値が張るだけはあってかなりのボリュームで、俺や遠野さんはともかく梨沙さん、木下さんは子供向けの、ハーフサイズのバーガーを頼んでいた。
「キッズ向けでやっと、私達でも食べられるかも? って大きさだね……」
「みんなバーガーだけでいいんだ? 私、へへ、セット頼んじゃったー! イェーイ!」
「い、いぇー……」
はしゃぐ遠野さんに追従しきれず、曖昧に笑う俺達3人。
腹ペコ極まりない遠野さんだからここまでテンションが上がりまくっているのであって、俺達は別にそこまでお腹空いてるわけでもないからね。仕方ないよね。
この際、遠野さん以外はポテトだのなんだのといった、いわゆるサイドメニューはつけていない。バーガーだけでお釣りが来るんだよねこの量、胃袋的にさ。
ハーフサイズでもなお、俺がよく行く駅前のバーガー屋さんのバーガーよりやや大きい。
いわんやレギュラーサイズをおいてをやって感じで今、俺の目の前のトレイにデデン! と鎮座しているバーガーのデカさは異彩を放っていた。
これ、俺がマジで腹ペコだったら超テンション上がってたんだろうなあ〜。中途半端に空腹だから、ちょっぴりスンってなるレベルの大きさなんだよなあ。怖ぁ……
「真知子は大丈夫にしても公平くん、大丈夫? すごい量だけど」
「無理しちゃだめだよ山形くん、食べ切れられなさそうならそれこそ、真知子に丸投げしちゃえばいいんだよ」
「あ、ああ大丈夫。このくらいの量なら問題なく食べ切れるよ。ありがとう梨沙さん、木下さん」
こっちを見て、心配してくれる梨沙さんと木下さん。このボリュームは普通に空腹じゃない時にはキツいと、彼女達も見たようだ。
とはいえ俺だって探査者の端くれ、つまりは日常的に命がけのバトルを生業にしている者の一人だ。食える時に食っとかないと大変だってのは基本中の基本なのだし、何より俺のコンディションを差し引いたとて、ものすごく美味しそうなバーガーなことには変わりがない。
「これくらいならへーきへーき! 山形くんも鍛えてますから! ほら」
「おおームッキムキ! え、触っていい?」
「……えっ!?」
「ちょっ、涼子!? そんな、はしたない……」
よって問題なし、平らげてみせましょう! と腕まくりして力こぶを見せる。
それなりに鍛えられてるからフニフニ感はない、むしろガチガチって感じの俺の腕筋肉に、木下さんは感嘆し梨沙さんは頬を赤らめてチラチラと横目で見てきていた。
はしたないって、別にそんな恥ずかしい部位じゃない気はするけど……ギャルギャルしてるけど本質的には奥ゆかしい彼女からすれば、安易に異性に触れるというのがまずハードル高いんだろうなって思う。
俺だって今、木下さんに触っていいか聞かれてしどろもどろだし、若干。
まあさすがに触れるのはちょっと、ということでご遠慮願いまして、さておき実食だ。
一口食べればビーフ100%! って感じのパテが肉汁をたっぷり染み出させつつ、舌の上から口内全体に濃厚な肉の旨味を広げていく。トマトとレタス、オニオンがそれぞれシャキシャキっとフレッシュで歯ごたえもよく、肉厚ながら柔らかいビーフと相まって味覚だけでない食感の良さというものを上手に演出している。
『おお……っ! 野菜で健康さと新鮮味、そして歯応えを確保しつつも本命のビーフでダイレクトに味覚を満足させてくる、これはストロングな味わいだ! いつものチェーン店のバーガーも美味しくていいけれど、この店のバーガーも素敵だ……あと個人的にだけど、トマトが入ってるのはとても嬉しい』
分かる。トマトスライスが入ってるとなんだろう、なんか一味違う感出てくるよなあ。
いつもどおり脳内のアルマさんがレビューしてくるのを、思わず同意するほどにこの店のバーガーは美味しい。かなり大きいサイズな分、本場アメリカンって感じがして自分がワイルドになった気すらしてくる。
「んー、美味しい。ちょっと濃いめだけど、たまに食べるにはすごくいいかも」
「だね。あっ、公平くん。ソースついてるよ。拭いたげるね」
「え。あっ、どうも……ありがとう、梨沙さん」
遠野さんを除く女性陣には、少しばかり濃厚すぎるところはあったみたいだ。けど概ね、美味しそうに頬張っている。
と、梨沙さんが俺の口元に紙ナプキンを添えてきた。どうもソースが口元についてたみたいだ、恥ずかしい。甲斐甲斐しい彼女のお世話になる。
「ヒューッ!」
吹けてない口笛を吹いてニヤニヤしないでもらえますかね木下さん。何をそんな、満面の笑みを浮かべることがあるんだか。
自然と頬を染め、俺と梨沙さんは目を合わせてすぐ、お互いにそっぽを向いた。なんだろうこれ、照れくさい! こっ恥ずかしいし、木下さんのニヤニヤのせいで客観的に見た俺達の姿というものを意識させられてつらい!
居た堪れなく、俺はバーガーをかじりつつ隣の遠野さんを見る。さっきから静かだけど、どうしてる?
「──ぷはぁ! ごちそうさまでした! うーんちょっと足りないかも、もう一個買ってこよー」
「えぇ……?」
見ればセットをすでに平らげ、さらに追加でバーガーを頼もうとする彼女がそこにいて、俺は思わずドン引きした。
某伝道師の伝道行為並にドン引きの光景だ。嘘だろこの子、フードファイターか何か?
「止めときなって、カロリーやばいよさっきから!」
「食べ過ぎだしあんたー。そんなんじゃ片岡くんに嫌われるよ?」
「ウッ……」
さすがにまずいと思ったか、梨沙さんと木下さんからもストップが入る。片岡くんの名前を出せば、さしもの遠野さんも我に返ったみたいだった。
怖ぁ……小柄でスレンダーな体のどこに、そんなに入るんだろう。
人体の神秘を垣間見る思いだ。
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