くうくうお腹が鳴りました(本日入って早くも3度目)
「ともあれ、先程も言った通り私は単なる通りすがりの観光客です。あなたに接触するつもりがあったわけではありませんので、そこはご承知おき願えますれば」
「わかった……なんか、悪いな?」
「いえいえ。こんなところで出会うなど、お互い想定の外でしたからねえ」
そう言って織田は、肩をすくめて苦笑いした。敵意も何もなく、むしろ友好的な態度。
昨日の何かしらが気に障って、やっぱり襲いにきましたー、とかって話かと一瞬身構えたりもしたけれどその心配はいらなさそうでよかった。エリスさんもそこを危惧して、いつでも攻撃できるようにしていたんだろうしね。
「誤解が解けて何よりです。ああ、私は今日明日はこちらの県をうろちょろして土産や観光を楽しんでから領域に帰りますゆえ、万一また別のどこかで見かけたとして、楽しんでいるんだなとでもお思いください。それでは」
と、言い残しにこやかに去っていく織田。スーツ姿の背中にも、隠しきれないウキウキ感というか、楽しい観光旅行感が溢れている。
マジで他意なく、観光しているだけみたいだな。となると過敏に反応したのはこちらというわけか。少し悪い気がするけど、昨日の今日でこんな風にばったり出くわしたらこうもなろうよ。でもごめんね、織田。
「ふー……変なところで会うよなあ」
「公平くん。さっきの、お知り合い?」
最悪こんなところでバトルかよーって内心、緊張してたのが不意に緩和して大きく息を吐く。すると、クレーンゲーム店から梨沙さん達が出てきて、俺に声をかけてきた。
ちょっと不安そうなのは、俺も織田も若干、身構えていたのを見たからだろうか? この子達にも悪いことをしたなと、にこやかに返す。
「ん、まあ知り合いっちゃ知り合いだね。お互いまさかこんなところで出くわすとは思ってもいなかったもんで、ついビックリしちゃってさ」
「結構ダンディなおじさまだったねえ。え、親戚とか? 外国の人っぽかったけど」
「まさか。あー、仕事絡みの人だね、うん」
木下さんのよもや!? って感じの血縁説を普通に否定する。仕事絡みかどうかさえ微妙だけど、一応倶楽部が関係した話もあったし、まあ仕事絡みのモノなのはたしかだろう。
とにかくそんな俺の説明にほへー、と感心する3人は、見れば手に袋を提げていた。中には小さなぬいぐるみが入っていて、この店に来るまでは見かけなかったものだ。
「それ、クレーンゲームでゲット?」
「あ、うん。そうそう、真知子がすごくてさー!」
「なんかすごい勢いでアイテムゲットしてくれてー!」
「へー。え、遠野さんこういうの得意なんだ」
意外な話、といえば意外な話。遠野さん、クレーンゲームが得意とのこと。
聞けばわずか5回で1個、各人のぬいぐるみをゲットしたのだとか。神業じゃん!
ちなみに俺はこないだ、GWのデートの時にクレーンゲームに挑戦したけど、そこまで要領よくはアイテムをゲットできなかった。
ああいうのって探査者としての能力とかあんまり関係ないんだよね実際。勘所を掴むのが大事っていうか、それこそノウハウ次第っていうか。
だから余計、遠野さんがそんなにスマートにクレーンゲームをこなせたってのはすごいことのように思えるなあ。
「いや~アハハハ! それほどでもあったりしちゃうなぁ〜!」
照れながらも鼻を高くしている彼女が、なんともはや可愛らしい。この姿、片岡くんに見せたらイチコロだと思うんだけどなあ。
遠野さんが同じグループの男子、片岡くんに淡い想いを寄せているのを知っているのを知っている俺としては、なんというかもったいない感じがしてならない。
やっぱ男子も呼べばよかった気がするなあ。
そんなことを考えていると、不意に遠野さんのお腹が鳴った。探査者でなくとも気づくほど、大きな腹の虫の音だ。
え?
「遠野さん?」
「あ、あはは……いやあーなんだかクレーンゲームしてたらお腹空いちゃった! もう11時30分も過ぎたし、早めだけどお昼にしようよ!」
「えぇ……?」
「ついさっきあんなに食べてたのに、もうお腹空いたんだ……」
梨沙さんと二人並んで、まさかの食欲魔神にドン引く。嘘でしょこの人、サンドイッチにパンケーキと結構ガッツリ行ってたよ、一時間ほど前!
木下さんも何この子……みたいな顔をしている。もはや四面楚歌ってくらい、悲しいほどに遠野さんの食欲がヤバい。
照れ笑いする、そうした反応に気づいた様子のない遠野さんはともかく俺は、コホンと咳払いして言った。
「あ、あー。まあ、ちょっと早めだけどそうしようか。ナンダカオレモオナカヘッタナー」
「そ、そう? だったらそうだね、お昼にしよっか、涼子も」
「そ、そだねー。いやー山形くんも食いしん坊だなぁー」
遠野さんだけじゃなく俺もお腹が空いたってことで昼飯をアピール。棒読みなのは勘弁してくれ、まだそんなにお腹減ってないのだ。
梨沙さんと木下さんも乗っかって、俺の食欲がメインみたいな感じで言ってくれた。
別に遠野さんが健啖なのは構わないんだけど、一人でひたすら腹ペコキャラ街道を突っ走らせるのはちょっと気の毒というか、変なからかいの温床になりかねないしね。
というわけで遠野さんともども不肖この私、シャイニングハングリー山形プロンプトめが、お腹ペコペコアピールをしてちょっと早めのお昼をいただいたのでした。
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