暗がりの路地裏にも、美しく咲く花はあるから
商店街に立ち並ぶ、主に服屋さんやアクセサリー屋さんを見て回る。とはいっても当然だがメインは女子3人で、俺は半ば付き添いのようなものだけど。
というのも俺の腰が引けちゃってるのだ。まあ左見ても右見てもオシャレなんだもの、場違いなこと甚だしいんですよ正直。
あまつさえ美少女3人を引き連れているわけなので、主に道行く男性様方からの好奇と嫉妬の視線もある。
勘弁してくれ、ただでさえ交友関係が美女美少女ばかりになってきていて、探査者としての俺も妬み嫉みを結構食らってるのに。
「公平くーん、こんなのどう? 似合う?」
「ん……おー、ちょっと大人びた感じが梨沙さんによく合ってるよ。美人さんって感じ」
「そ、そう!? えへ、か、買っちゃおっかな〜!?」
おまけに店内ではこうやって、女子達よるファッションショーが行われ、不肖わたくし山形公平めがコメンテーターなど仰せつかっちゃっているのだ。
こればっかりは本当にどうもならんよこれ! 俺にファッションについて意見を求めないでください、今だってヨレヨレのシャツに普通のスボンと素朴な町の少年なんですよ僕!?
『うーん、背伸びしてる感じあるね。この子の容姿との完璧なる調和を志すなら、もう少し幼気なもののほうがいいように僕には思えるけど? 公平、ちゃんと見てる?』
見とるわ! 見た上でちゃんと美人系でいいねって言ってんだこっちも!
脳内でなんかしたり顔的なコメントをしてくるアルマさんに返す。ファッションという、ある種芸術性のある分野の話ゆえかこいつ、結構口出してきてるな。
邪悪なる思念の本懐たる完璧なるモノに、少しでも関わっていればそれは言及するに値するということだろうか。
興味がないことについてはこいつ、こっちから質問したり話しかけたりしてもガン無視だしなあ。
「じゃじゃーん! 山形くん、どーよどーよ!」
「私にこういうの、似合わないと思うんだけどなあ……」
梨沙さんに次いで木下さん、遠野さんがそれぞれ試着した姿を見せてくる。
木下さんは美人系の顔立ちによく合う、ちょっとクールめなスカートとシャツだ。お腹周りでこう、袖を結んでるのが今風なんだろうか?
遠野さんは意外に乙女チックというか、フリフリした印象のワンピースにリボンをつけた帽子を被って、夏らしい少女めいた装い。日焼けして健康的な感じに清楚さがあって、なんかこう田舎で出会った美少女、って感じだ。
「いいね、二人の格好もよく似合ってると思うよ。木下さんはなんだろ、木下さんのクールな印象に近い感じだし、遠野さんはすごく健康的なのにどこかおとなしい感じだよね」
「でしょー? ってかコメントうまいね山形くん、慣れてる?」
「たまーにだけど、妹の自宅ファッションショーに出席させられてるからねー。うまいこと言わないとほら、ねえ?」
「あはは! いいお兄ちゃんだあ!」
思ったことを口にすると、意外にも口のうまさを褒められた。どうやら妹相手に忖度しまくった発言をしてきた経験が、ここにきて活きたらしい。
とはいえ3人への感想は本心からのものだ。梨沙さんは大人びてるし、木下さんはクールだし、遠野さんは清楚。まさに三者三様の魅力を弾けさせた、素敵な服装のチョイスだと思う。
そう言うと3人は照れたようにしながら、それでも嬉しそうに笑ってくれた。
喜んでもらえたみたいでよかった。ひとまずホッとしてると、またしても脳内でアルマさんの長口舌が聞こえてくる。
『ふーん……左のはなかなかいいね、自分の見た目のどこが武器なのかちゃんと理解したチョイスしてる。右は論外、と言いたいが、ふむ? スポーティーな見た目から華やかなフリル、一見してミスマッチもいいところだが、これは……不調和がゆえに逆に整うところがある、のか? 不完全ゆえに逆にある種の完全へと導かれようとしている? 興味深いな……』
遠野さんのファッションが、こいつの心の何かに触れたみたいだ。ブツブツと疑問を重ね、哲学めいて思索を繰り広げていっている。
それはいいことなんだけど口に出すなようるさいなあ。完璧の定義は多種多様、人により状況により場合によりその意味合いを変えていくなんて、お前だって知ってるだろう。
『そんなものを僕は完璧とは呼ばないけどね。僕が求めた完璧とは永遠だ。初めも終わりもなくそこにあり続ける欠片一つも瑕疵のない完全なるモノ。だけど……』
不意に、アルマが口籠った。喋る時はお喋りなこいつにしては珍しいことだ。
ふむ? ──少なくとも美という概念においては、不完全あるいは不調和なるものが逆に完全なる美、調和した美へと繋がりうることを認識したか。
意識という主観が混じる以上、それは当たり前のことだ。何をもって美とするか、それは見る側の意識によって異なる。
ゆえにお前の言う完璧などありえないのだ。お前は不完全なるものを切り捨てた、そこに宿る価値も意味も認めず喰らい尽くしたのだ。
私には、それが例えようもなく嘆かわしい。
『永遠でないものにも永遠はあり、全知でないものにも全知はあり、完全でないものにも完全は宿る、とでも?』
捉えようによってはな。お前が食らってきたモノ達の中には、そうした見方をしていたモノとていただろう。
それに気づかず暴走した、その時点でお前はお前の求める完璧を投げ捨てたのだ。
お前は、最初の最初で躓いた。
『…………よく、分からない。言葉遊びにしか聞こえない』
だろうな。
だが、それを分からないだとか言葉遊びだとかで済ませるな。
何億何兆も時を過ぎても、なお思索し続けろ。それはお前に与えられた罪であり罰であり、また贖いでもある。
異なる世界のワールドプロセッサよ──お前がいつか答えを出した時、お前の行いになんらかの意味が生まれるのだ。
それこそが真なる完全への、ほんの僅かだがたしかな一歩となるだろう。
『ふん……いきなりコマンドプロンプトになりやがってさ。君、たまに唐突にスイッチ切り替えるよな』
そう? 割と真面目な時ってこんなノリなんだけどな、口調がどうかって話なだけで。
まあとにかく、お前は背負い続けなきゃいけない。問い続けなきゃいけない。出したと思った答えにさえ、本当にそうか? って自問自答を繰り返さないとならない。
それはきっと地獄だろうけど……俺はお前の近くにいるから。そこだけは安心して悩み続けてくれ。
「……公平くん? 大丈夫? ボーっとして」
「ん? あ、ああ大丈夫大丈夫。わた、いやちょーっと梨沙さんに見惚れてたかも、俺」
「! も、もうバカ、何いってんのえへへ!」
アルマとの対話を終えて、誤魔化しがてら梨沙さんを讃える。頬を染めてはにかむ彼女は美しい。
完璧でなくとも、不調和であっても……素敵なものはこんな風にあちこちにあるんだよ、アルマ。
俺はそっと、内心でつぶやいた。
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