必然でも偶然でも、得られた縁は宝物
喫茶店でそれなりに時間を潰して、もうじき10時。商店街内の各種店舗が開き始める、そんな頃合いである。
俺達はひとしきり飲み食いも終わったので喫茶店から出て、いよいよ商店街をうろついて見て回ることにした。
「ごめんね公平くん、奢ってもらっちゃって……」
「さっすが探査者、太っ腹ー!」
「ゴチになりました、山さん!」
「いやいや。せっかく呼んでもらえたし、このくらいは」
梨沙さん達から謝られたり感謝されたり。喫茶店での代金を全部俺が支払ったからなんだけど、なんだかむず痒い話だ。
探査者だから金は有り余っている──というとお金に溺れている感じがして嫌味なんだけど、普段あんまり使わないから本当に貯まってるんだよねー。
小市民な上に未成年の山形くんでは、贅沢な暮らしって言っても精々がたまにコンビニで豪遊とか、気兼ねなく課金ができるよ! 爆死チャンス! とかってするくらいしかない。
他のことに使うにしても、成人してからのほうがいいとは家族とも話し合ったりしてるからね。
何より来年に待ち受けているらしい、確定申告ってのがヤバすぎるらしくて俺的に、まるで邪悪なる思念の本体ばりに恐ろしいナニカと相対する心地で今からガクガクブルブルしているわけだけど。
まあともあれ、使えるお金が多い身の上として、誘ってもらった感謝も兼ねてこのくらいの奢りはしようかなってわけだった。
「さすがに、これ以上奢ったりとかはするのはちょっと……だけどね。貢いでるみたいになるのは、よくないと思うし」
「そうだよ……関口みたいなのはよくないよ? 公平くんが一生懸命、命がけで頑張って得たお金なんだから。自分のために使って、ね?」
「せ、関口くん貢ぐレベルで金使ってるんだ?」
「なんかパーティーみたいなの結構開いて、お金は全部自分持ちってしてるみたいだよ。評判はいいけど、私としては正直、ちょっとお金って怖いなって思っちゃうかな」
「えぇ……」
前にも本人から聞いてたけど、本当にパーティーを自腹切って開きまくってるんだな関口くん。怖ぁ……
なんでも人脈づくりのためにとは聞くけど、にしたってものすごいお金の使い方だ。彼も探査者な以上、金銭面で困ることはないんだろうけれど。俺には到底できない話だなあ。
とはいえ、それ自体は別に悪いことでもないんだよな、人脈づくりのためのパーティーってのは。
全部自腹なのと、聞いてるとだいぶ頻度高めなのがやべえってなるだけで。いわゆる社交場を彼が率先して生み出して新たな機会を生み出しているというのは、長い目で見れば大変、重要なことなのだろう。
「まあ、俺も人脈づくりとか興味があんまりないし。関口くんのそういう上昇志向については、ちょっと理解しかねるところはあるよねえ」
「そうなんだ……でも山形くん、有名な探査者とたくさん知り合いじゃん?」
「御堂さんとかフランソワさんとか、あとチェーホワ統括理事さんとか! 人脈っていったら相当じゃないの? 関口くんのパーティーにはお呼ばれしたことあるけど、さすがにそのレベルの人達っていなかったと思うなあ」
木下さんや遠野さんが口々に、俺の人脈っていうか友人知人について言ってきた。
まあたしかに、名だたるS級探査者さん達と知り合いなのは立派な人脈ではあるね。とはいえ別に、出会いを狙って動いていたわけじゃないし。
むしろコマンドプロンプトとして目覚める前、アドミニストレータ計画進行にあたりリーベやらワールドプロセッサに散々振り回されていた中で得たものなので、むしろ俺は巻き込まれた側なのだ。
その辺の話はできようはずもないけど、一応軽く、偶然であることを説明しておこうか。
「正直、偶然なんだよね。香苗さんにしろマリーさんにしろソフィアさんにしろ、他の探査者の人達にしろ……やらなきゃいけなかったことをやっていく中で自然と知り合った、仲間みたいな感じなんだ」
「やらなきゃいけなかったこと……ずっと言ってたもんね、公平くん。自分にはやらなきゃいけない、自分にしかできないことがあるって」
「そ、そんな言い方だったかな……?」
俺がやらなきゃ! 俺にしかできないんだ! みたいな我を押し出した物言いではなかったと思うけど……梨沙さんにはそう聞こえていたんだろう。
実際、あらゆる意味で俺にしかできなかったのはたしかだし。俺というかコマンドプロンプトでなければ、アドミニストレータ計画は詰めの甘さから失敗していたのは間違いない。
邪悪なる思念がセーフモード機能を未だ、使える状態にあったなんて想定していなかったからな、ワールドプロセッサ側も。
そこを最期にフォローするぞとわざわざ、山形公平になってまで到達したのが俺ちゃんなわけだ。もっとも現状も、決してコマンドプロンプトの目指していた結果ではなかったんだけどね。
「たしかにいろいろあったけど、まあとにかく。関口くんみたいに自分から積極的に、自分の世界を広げようとはしてこなかったのはたしかだね。全部行き当たりばったりだから、そういう意味では彼ってすごいなって思う」
「ん……まあ、努力はすごいかも。最近はだいぶ、人を見下さなくもなってきてるみたいだし」
「人は変わるってことなんだろうね、どんな形であれ。それがいいのか悪いのかは、本人次第なのかもしれないけど」
相変わらずの眼力で、関口くんの変化を見抜いている梨沙さん。
彼も、俺も、みんなも変わっていくのだ。いい方向か悪い方向かは、進んだ先にある景色をどう捉えるかによって変わるのだとは思うけど。
そんな話をしながらも、俺達は商店街を進んでいった。
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