彼女の胃袋は宇宙だ
やって来た各人それぞれの料理やドリンクを、思い思いに楽しみ合う。俺と梨沙さんはメロンソーダフロートを前に、思わず頬を緩めていた。
氷が入った大きめのグラスに、エメラルドグリーンのジュースがたっぷり注がれていて──そしてその上にアイスクリームがドドンと乗っている。圧倒的ボリューム感。
「うわー、懐かしー」
「そうそう! なんでか子供の頃を思い出すよねー!」
梨沙さんと二人、はしゃいで写真を撮る。
メロンソーダフロートってなんでだろうか、やたら懐かしい感じがするんだよな。たまに昔懐かしって触れ込みで紹介されてたりするから、ついついノスタルジックを紐付けてしまうのかもしれない。
ひとしきりカメラをパシャパシャ言わせ、さあ実食だ。ストローを差し、スプーンを手にしていざ、いただきます!
乗っかってるアイスクリームをまずは一口……うーん冷たくて甘くて美味。舌の上でとろける舌触りが、滑らかで食べ心地がいい。
そこにすかさずストローに口をつけ、下のメロンジュースを飲む。
独特の風味が口いっぱいに広がり、それだけでなくすでに食べていたアイスクリームとも混ざり合って新たな味と化し、シュワシュワしつつもまろやかで濃厚な甘みに変わる感覚はいつも斬新な味わいだ。
「んー、美味しい!」
「久しぶりに飲んだけど、美味しいね公平くん!」
『炭酸とアイスの組み合わせはいいねえ……甘くてシュワシュワで美味しい! よーし二杯目いってみようか、公平』
爽快な味に満足気に二人、笑い合う。脳内でアルマもはしゃいでいるけど、いくらなんでもこれを二杯は胃がつらいよ!
美味しいものを共有するという楽しさもあって、なんだかテンションは上がり調子だ。
梨沙さんと同じ場所で同じ体験をしていく中で、一方隣の木下さんと遠野さんも遅めの朝食を、あるいは多めの間食を堪能していた。
「あっ、ここのチーズケーキ美味しい……紅茶によく合うわぁ」
「パクパク、ムシャムシャ、ガツガツ……ごくごく、ぷはー! サンドイッチ、ツナもあるのが嬉しいですなー!」
俺達とは違ってドリンクだけでない彼女らは、それぞれケーキとサンドイッチを頬張ってニコニコしている。
いや……遠野さんはあれだな、すごい勢いで食べて飲んでしてるから、ニコニコっていうかギラギラだな。飢えた獣的眼光だ。お腹空いてたのかな? 朝飯食べたって言ってたのに。
あっという間にサンドイッチを食べ尽くし、今度はパンケーキを食べだす彼女。
いや早いよ、ちゃんと咀嚼してはいるようだけど顎の動きがめちゃくちゃ早い。ハムスターかな?
出来立てホヤホヤのパンケーキに、バターを塗って蜂蜜をかけ、切り分けてから添えてあるクリームをつけて食べる。
なんともはや、甘味と甘味と甘味と甘味のコラボレーション。カロリーがヤバそうなだけあってそのお味は絶品らしく、遠野さんは堪らないとばかりに膝を叩いて喜んでいた。
「んんんー! くっふふぅ、美味しい!! 最高!」
「あんた昼飯食べるのやめといたら……? いくらなんでも食べ過ぎにならない……?」
「なんで!? やだよ!?」
幸せそうで何よりなんだけど、さすがに見かねるとばかりに木下さんが横槍を挟んだ。その顔はまあうん、ドン引きだよね。
食の細い人ならサンドイッチが朝ごはん、パンケーキが昼ごはんのいわゆるブランチにしたって問題なさそうな具合だ。それを朝ごはん食べてサンドイッチ食べて、パンケーキ食べて昼ごはんも食べるとなるとなんだろう、率直に食べ過ぎ感が漂う。
これで遠野さん自身は細身でスレンダーな体型をしているんだからすさまじい。食べたものはどこに消えた?
見れば梨沙さんが、絶句しつつもどこか羨ましそうに見ている。好きなだけ食べてしかも体型に変わりなしってのは、たしかに羨ましい話だもんな。
木下さんの言葉と梨沙さんの視線を受けて、遠野さんはしかして毅然と反論した。
「大丈夫、大丈夫! ちょっと歩けばすぐお腹も空くし!」
「燃費が悪いわねぇ……いやでも、摂取カロリーとか体重とかさあ」
「甘いものは別腹でーす! サンドイッチはアレだけど、パンケーキはカロリーとか体重とか気にしなくていいんだもん!」
「別腹でも食べた以上はお腹の中でしょ!?」
とんでもない主張に梨沙さんが思わずツッコんだ。別腹を異次元空間か何かだと思ってらっしゃるのだろうか? 遠野さんは。
実際には別腹ってのは胃が2つあるとかでなく、なんとかいうホルモンが分泌されることで胃が整理され、空いたスペースにもうワンチャンス! 的な余白が生まれることでもう少しだけ食べられるようになるんだとか。
つまりはれっきとした科学現象なわけだね。決して体内に異空間があって無限に食えるとかって話ではないのだ。
それを踏まえるとやはり、遠野さんは若干食べ過ぎな気は、俺にもしてるんだけども……
「へーきへーきいけるいける! 解散したら歩いて帰るから問題なーし!」
「歩いてって……ここから家まで!? 嘘でしょ山越えよ!?」
「途中までだよー! 基本は電車だけど、二駅三駅分くらいは歩こうかなーって! 実際昔ね、一回峠道を歩いたことあったけんだけど、誰もいなくて怖かったなあ……」
「そ、そう……」
しれっととんでもないことを言い出す遠野さんに、今度こそ俺もドン引きである。
徒歩で帰るルートもそりゃいくつもあるんだろうけど、いずれにせよ距離は相当あるからなあ……よく歩いて帰ろうとかやったな、昔の遠野さん。
意外にバイタリティ溢れる彼女に、感心するやら呆れるやらである。
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