S級探査者と書いてフリーダムと呼ぶのか
歩くこと数十分、待ち合わせ場所らしき駅前に俺は到着した。
エリスさんは少し前に距離を置いて、遠巻きに俺をさり気なく見守ってくれている。探偵みたいだ、なんかカッコいいな。
古都を長大に流れる川を跨いで架かる橋の、駅側にて待つ。河原沿いは家族連れやらカップルやらが多く、なんならランニングしてる人やペットの散歩をしている人もいるな。
雄大な歴史の流れをそのまま映したような、遠くまで流れる水を眺める。落ち着くなあ。
「あっ、いたいた。公平くーん!」
「ん、梨沙さん?」
ぼーっと河原を見下ろしていると、背後から声をかけられて俺は振り向いた。言うまでもないけど、梨沙さんの声だ。
駅に繋がる地下階段からやってきた、俺のクラスメイトの女子3人。梨沙さん、木下さん、遠野さん。それぞれラフな私服で、バッグを提げておめかししてのご登場である。
翻って完全にいつもの私服で、しかも手ぶらでやって来た俺のアレさが微妙に浮き彫りになってしまった。どうしようシャツとか若干よれてるもの、恥ずかしくなってきた。
ちょっと気まずげに、それでも片手を挙げると彼女らも手を挙げ、こちらにまでやって来た。合流だ。
「お待たせ! ごめんね待たせちゃって!」
「いやいや、全然待ってないから。3人とも夏祭りぶりだね、久しぶり」
「久しぶり、山形くん!」
「やっほ山形っち! 見たよ見たよニュース、シャイニング〜?」
山形〜なんて言うものか! 勘弁してくれ、持ちネタじゃないんですよ!
苦笑いして遠野さんの弄りを受け流す。女子にこうも親しげな対応をしてもらえて悪い気分はしないけど、さすがにシャイニング山形についてはいろいろトラウマってるから勘弁してほしい。
さておき4人集まって話す。俺以外の3人ともが美少女なもんだから、毎度のことながら周囲の人達の俺への視線がすさまじい。怖ぁ……
今からでも松田くんと片岡くん呼べないかなぁ? 特に片岡くん、電車ですぐの位置にいるはずじゃん?
みたいなことを提案してみたのだが、あっさりと却下されてしまった。
「今日は女子会プラス、ゲストに山形くんって形にするって急遽決まったから! なんか頑張ったんでしょ? 梨沙がここに来るまでにすごい熱弁してたよ」
「ちょっ、真知子!?」
「もうすっかり梨沙ってば山形くんの大ファンなんだもん、驚いたよ! いやー、にくい男だねぇこのこのー!」
「涼子まで!!」
女子会じゃないって聞いてたのに女子会だし、なんか梨沙さんハッスルしてたみたいだし、遠野さんには肘でうりうりってされるし。
なんていうか予想通りだけど、ノリと話の流れについていけない。俺はどう反応すればいいんだろうか分からず、愛想よく笑って頭を掻くばかりだ。
そんな俺に、顔を赤くして梨沙さんは話しかけてきた。白色のシャツにグレーのキュロットパンツと軽やかな格好で、ずいぶん身軽そうだ。
「あ、あのその! 公平くんが昨日、すごい活躍したんだろうなって思ってつい、話の種に!」
「い、いやいやそんな。全然大した活躍はしてないよ、俺は」
「でも、昨日御堂さんが自分のチャンネルで、詳しくは語れないけどって言いながら公平くんの活躍をふんわり語ってたよ?」
「何してんのあの人!?」
カバーストーリーまで用意してるくらい規制のかかってる案件で、よくまあフワッととはいえ語れるなそういうこと!
いやまあ、あの人はそのあたりは如才ないから、本気で問題ない程度にぼかして話はされているんだろうけども。それでもあなた、そこまでして俺について語りたいかって話ですよ正直。
「なんかその、すごい大きなモンスターが現れたけど……御堂さんにチェーホワさんやコーデリアさん、それとサウダーデ・風間さんが一丸になって公平くんと連携して、そうしてやっつけたって。だから今、ネットでもシャイニング公平くんの話題で持ちきりだよ?」
「怖ぁ……たしかにザックリ言うとそうなるかもだけど、だからってなんで俺の話で持ちきりに……」
カバーストーリーの都合上──能力者犯罪捜査官が絡む案件だと知られたくない各組織の思惑だ──しれっとハブられてるエリスさん。
その埋め合わせみたく戦線に加わっていたことになった香苗さんの、ポジションのスライドっぷりもなかなか戸惑う話だけれど、ついつい我らがボディーガード様がいらっしゃる方角をチラ見してしまう俺だ。
「……何してんだあの人」
見ればカフェの中、カウンターの前に立ってしどろもどろになっているエリスさんを発見してしまった。
やろうと思えば寿限無ばりに長ったらしい注文をしてしまえるのが特徴とも言えるチェーン店だ、察するにお洒落を気取って入ってみたはいいもののシステムが分からずに半泣きになっていると見た。
なぜ、そんなところでばかり挑戦したがるのだ陰キャぼっち!
……俺もたまに似たような無謀なチャレンジやらかすから分かるが、いくらなんでもハードルが高すぎる。
俺はそっと目を逸らして、エリスさんの哀しい生態を脳内から消した。きっと俺とあの人の立ち位置が逆だったら、彼女でもこういう風にするだろう。これもある種のシンパシーである。
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