クラスのマスコット(笑)・シャイニング山形
思いっきり全国ネットで俺の名前、っていうか芸名……いや芸名も違うな。なんかあの、通称的なモノが取り沙汰されている。
香苗さんのつながりで話題に挙げたのかもしれないけれど、できればそこは触れないでほしかった! せっかく忘れかけていたあの、トラウマ全国シャイニングインタビューの悪夢が思いっきり脳裏に過り、俺は思わずその場に崩れ落ちた。
「ぐ、ううう……! 鎮まれ俺、瞑想だ瞑想……!」
これはまずい。すさまじい動揺が俺を襲ってきた。羞恥と不安と緊張で身体が強ばる。何がシャイニング山形だ馬鹿野郎と、数ヶ月前の自分の胸倉を掴みたくて仕方なくなる。
たぶん傍から見ても顔真っ赤だろう俺は、ひとまず瞳を閉じて深呼吸して瞑想、からの称号効果によるメンタルリセットを図ろうとした。
「…………ん? 通知、メッセージ?」
と、そんな折俺のスマホに通知が届いたことを示す音が鳴る。それも一度きりじゃない、小刻みに何回もだ。
え、何これ怖ぁ……っていうか嫌な予感しかしない。恐る恐るスマホを手に取り、通知のままにメッセージアプリを開く。
東クォーツ高校、一年13組のグループチャット。
そこに、いくつも学友からのメッセージが届いていた。
『ニュースで山形の芸名出てて草』
『シャイニング山形って、山形くんのことだよね?! また全国デビュー!?』
『昨日、隣県で騒ぎがあったのは聞いてたけど、探査者関係の事件だったのか?』
『山形、怪我とかないか?』
『すごい有名人ばっかりじゃん! そこに山形くんもいたの!?』
『オモロ。せっかくだし光ってる写真くれよ山形』
「いやですけど!?」
思わず叫んでしまう。クラスメイトの皆さん、大変楽しそうで何より、じゃないよ!
なんてこった、クラス中で再びシャイニング旋風が巻き起ころうとしている。この分だと夏休み明けとか、めちゃくちゃからかわれること請け合いじゃないか。
どうすんのさこれぇ……
思わず頭を抱えていると、今度は電話の着信音。
なんだなんだと見れば、画面には"佐山梨沙"の文字が。慌てて電話に出る。
「も、もしもしー」
『あ、公平くん!? 大丈夫? 怪我してないっ!?』
すごい切羽詰まった声色で、開口一番俺の安否を確認してくる彼女はご存知、クラスメートの梨沙さんだね。
なんだか俺に対して過保護気味な彼女は、朝のニュースなりさっきのメッセージなりを見て慌てて俺に電話をかけてきたってところか。
ありがたい話だ。しっかり感謝して、無事なことを教えて安心してもらわないとね。
俺は心なし明るめの声で、梨沙さんへと応えた。
「うん、元気元気ー。ニュースでやってるのは昨日の早朝っていうか明け方の話だからさ、一件落着してすっかり丸一日なんだ。怪我一つないし、安心してほしいな」
『本当……? よかったー……公平くんが無茶なことして傷ついてないかって、もういても立ってもいられなくて』
「そ、そんなに無茶しがちかな、俺……」
まさかの無鉄砲ボーイ的な評価を食らってしまっている。なんで?
どっちかって言うと俺ちゃん、無用なリスクは避けるほうなんだけど……なぜに梨沙さんにこんな心配かけちゃってるのかがイマイチ分からない。
もしかして手のかかる弟的な感じに見られてたりするんだろうか? 結構複雑だよそれ、肉体年齢は同い年なのに。
一応精神的には500歳の超年長さんとしてはここで、少しはしっかりした感じを出したほうがいいのかもしれない。
「ありがとう梨沙さん、俺は大丈夫だよ。ただ、まさかニュースになんて流れるとは思いもしなかったなあ」
『私も! っていうかびっくりしたよー、隣県の山奥に巨大モンスター出現! からのシャイニング公平くん! だもん。御堂さんやフランソワさんもいらっしゃったって話だし、またその関係なのかなーとは思ったけど』
「ああ、うん。実はそうなんだよ、隣県に巨大モンスターがいるからってことで、皆して駆り出されてさあ」
もしも何かしら、誰かに事情を説明しなければならない時があるならば、とヴァールが予め用意してくれていたカバーストーリーを梨沙さんに説明する。
いくらなんでも犯罪組織がどうのこうの、話せるわけもないからね。
件の山奥に超巨大モンスターが潜伏しているのを確認したチェーホワ統括理事が、警察や全探組、果てはダンジョン聖教にまで協力を要請して討伐にあたった。
その関係で現地近くにいたS級探査者達を含めた大勢の探査者達が動員され、俺もそのうちの一人として事件に関わったという形だ。
「ちょうど山の近くってことで、俺を含めた何人かの探査者が香苗さんのご実家、御堂本家に泊まらせてもらってるんだ。だから今、俺は隣県にいるわけだねー」
『そうなんだ……本当にお疲れ様、公平くん。他の探査者の人達もだけど、また、たくさんの人の当たり前を護ってくれたんだね』
「ま、まあね……へへへ」
すっごい感謝されて底抜けに照れちゃう。
こういうところ、梨沙さんは探査者に対してすごいリスペクトを抱いてくれるのがくすぐったいやらありがたいやらだ。
それに、みんなの当たり前を護る仕事って話は以前、梨沙さんとのデートの時に俺が言った話でもある。
覚えていてくれたんだな……なんか、どんな褒め言葉よりも嬉しく思えるから不思議だ。
『あ、そうだ! 今日のお昼、真知子と涼子の3人で隣県に食事に行くんだけど……もしよかったら公平くんも来ない? 一緒に美味しいもの食べようよ!』
「……えっ、それって女子会」
『そんなんじゃないって! ね、公平くんも来なよ! それか、もう用事とか入ってる?』
「い、いや。そんなことはない、けど」
梨沙さんに加えて遠野さんと木下さんに俺って、男女比おかしくない? 怖ぁ……女子に紛れる山形じゃん。
ちょっと躊躇する俺だけど、梨沙さんの勢いに押されてつい頷いてしまった。まあ暇だし構わないんだけど、大丈夫かなぁ俺。浮かないかなあ。
不安だー。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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