お前は概念存在のストッパーになれ
「────で、織田はその条件を飲みました。俺からの少しばかりのヒントを受け取って、すぐさま帰っていったんです」
「待って待って待って待って理解が追いつかないんだけどさハッハッハー」
「はっはっはー! 分かります師匠。その場に居合わせた私にも正直、何がなんだか」
織田との面会を終わらせた直後、香苗さんとエリスさんが部屋に戻ってきた。
まるっきり無関係な話、とも言い難いので事情を説明した俺ちゃんなんだけど……案の定というべきか混乱を招いてしまったらしく、目の前のエリスさんが乾いた笑みを浮かべて困惑していた。
なんなら俺と一緒にいた葵さんだって理解が追いついてない様子だもの。俺の正体について知らない以上は仕方ないよね。
唯一、いろいろ知っている香苗さんだけだ。すさまじい勢いでメモを取りまくり、興奮に顔を赤くしている。
「概念存在の中でもおそらくは最高神クラスとも推測される大物がついに我らが救世主様に接触してきたわけですねしかも公平くんの持つお力に恐れをなして敵対を選ばず友好的関係を築こうとしてきているとはなんということでしょうつまり救世主山形公平様は神々にとってさえ決して軽視することのできないそればかりか畏怖の念をも抱かせるほどの尊い存在であるということが客観的事実として証明されたわけですねこれは御方を崇め奉る我々救世の光にとっても大変な出来事ですああなぜ私もその場にいなかったのか公平くんが神を相手に一歩も譲らないどころか圧倒すらしていたという格好よくて素敵なところをこの目で見たかったこの耳で聞きたかったあわよくば写真を撮り動画を撮り動画チャンネル内で公開し救いを求める人々に未だ彼を知らない者達に今こそ救いはここに有りと高らかに謳いたかったです残念です本当に残念ですが私にもまだできることはあります今ここで伝え聞いた話を一言一句漏らさず書き取ることで私の口から人々へと広く伝道することができるはずですそのためにもメモメモメモりメモメモメモり!」
怖ぁ……また句読点飛ばしてる……
完全にいつものスイッチオン状態の彼女に、俺はもちろんとしてエリスさんも葵さんもそろそろ慣れてきたのか平然としている。
よく噛まないよねしかし。逆に感心し始めていると、エリスさんがコホンと咳を一つして質問してきた。
「えーと? それで、なんで公平さんは織田に対して、同格や格下の概念存在には教えるなって条件をつけたのかな? それと実際に渡したヒントって言うのは、何かな」
「あ、あとーなんか、喋り方まで変わってましたよね? アレもなんです?」
条件と、ヒントについてのご質問だ。倶楽部案件にはあまり関わりのないところなんだけど、単純な好奇心ゆえかエリスさんの瞳はどことなく興味の色合いが濃い。
直接関わりがないとはいえ、ダンジョン聖教の初代聖女だからな。神という存在について何かしら、思うところはあるのかもしれない。
話を間近で聞いていた葵さんも、俺が最後あたりに見せたコマンドプロンプトとしての側面に興味津々って感じだ。
さて、どう答えたもんかな。さしあたりエリスさんの質問から、俺は答える。
「同格以下への説明禁止っていうのは簡単に言うと、概念領域の中でもごく一部の、それこそ上澄み連中だけに話を留めておきたいから、というのが一つあります」
「上澄み……?」
「織田より上となると、各神話体系における創造神とかそういう大層な連中だけになりますから。いたずらに下っ端にまで吹聴されるよりかは、そういったおえらいさん連中の中だけで話されるべきかな、と思いました」
そこまでお喋りな印象の神とも思わなかったけれど、下手に話が広まるのもよくはない。何より、なるべく早めに創造神クラスの神々の耳に入ってほしいところがあるからね。
彼より上のクラスの神々なら、システム領域について知っているものも何体かいるし。織田が早期に真実に到達するには、そのモノ達のどれかと接触する必要があるため、ある種この条件もヒントの一つになってるかもしれないな。
「ヒントについてもそうした考えを踏まえ、次のようにしました──お前の識る最も旧い神に"ワールドプロセッサとは何か"と問うてみろ、とね」
「ワールドプロセッサ……君やヴァールさんが時折、口にはしてるね」
「紛れもなく真実の一端、といいますかある種の答えそのものです。ワールドプロセッサについて知るモノから説明を受ければ、織田は確実にこの世の真実に到達します」
現状ですら、薄々この世の裏側には何かがいることを察知している様子があったのだ。そのものずばりな答えを聞けば、まず間違いなく織田はシステム領域について理解を深めるだろう。どうにも知的好奇心旺盛というか、知識欲の強そうなモノだったしね。
そしてすべてを知った段階で、改めて"同格、格下の概念存在への説明ができない"という誓いの本意に気づくのだ。
自分が、至った真実は胸の中に秘め、以後は我々を嗅ぎ回るモノ達への制止と牽制のために動くいわばストッパー役を期待されているのだということに。
あるいはまた、俺の前に姿を見せるかもな、織田。
文句を言われることくらいは想定しといたほうがいいかもしれないと考えながら、俺は最後にこう答えた。
「口調が変わったことについては……あー、まあ、神々相手にはあのくらいのほうが俺としては都合がいいってことで」
「そうなんですか? なんか、まるで山形くんじゃないみたいでしたけど」
「どうあれ俺は俺ですよ。ご心配おかけしました」
葵さんには相当、違和感があったみたいだな。コマンドプロンプトとしての私の姿は。
まあ滅多に見せるもんじゃなし、たまに出くわしたらなんか中2してるなーとでも思っといてほしいもんだ。そのうち説明しなきゃいけないとは思うけどね。
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