山形プロンプト「よぉ来たのォ概念存在ー!!」
なるべく距離を置いた友達くらいの距離感で……などと、絶妙に腫れ物的な扱いを神々から受けているらしい俺、山形くん。
敵対的でなかっただけよかったんだけど、さりとて友好的とも言いがたい話にどうしたもんかと考える。主に因果操作についてが気に入らないんだろうから、そこを控えればいいのかもしれないけど。
なかなか現状、そうは問屋が卸さないところもあるのよねえ。俺は織田へと口を開いた。
「結論から言うと、因果操作については神々に言われるまでもなく弁えて使っているから問題ないよ、織田なにがしの神」
「織田で結構。すいぶんと……因果を操作することについて自信がおありのようで?」
「うん? ああ、まあね。説明はしないけど、その辺は誰より詳しいよ」
忠告を完全に無視された形になるが、特に怒った様子もなく、むしろ興味深げにこちらを伺う織田。
この際、俺との接触で少しでも多くの情報を引き出し、あわよくば俺やソフィアさんの正体を突き止めたいってところだろうか? 他の神々もその辺、気になってるんだろうしな。
うーん……どうしたもんか。
概念存在たちにシステム領域について話す気はないのはたしかなんだけど、黙っているせいで彼らが無闇に謎を解明しようと変なことをしでかさないかというリスクも、正直あるように思えてきた。
最高神かそれに近いクラスだろう織田が単身、俺の前に現れたってのは割と大事だしなあ。むしろこちらから少しだけでもヒントを出す形で、余計なトラブルを起こさせない方向に誘導できればそっちのほうが、穏便なのかもしれないが。
「よし、じゃあこうしようか!」
俺は明るく言って、織田を静かに見た。
わざわざ受肉してまで、わざわざ人間に一時とは言え従ってまで俺に辿り着いた。そのことへの敬意をも込め、ある程度この神にも都合のいい落とし所にしてみせようかと思うのだ。
ゆえに、俺──私は、コマンドプロンプトとしてこのモノに告げた。完全なる無表情に切り替わり、平坦な、機械的な声色で言い放つ。
「──経緯はどうあれ私との接触を果たしたのだ。お前の望むモノに、到達できるだけのヒントは与えよう」
「っ!?」
「え……山形くん?」
あえてシステム領域の、コマンドプロンプトとしての言動で語る。織田も早瀬葵も、驚いたように私を凝視しているな。
無理もない。早々に用件を済ませて、元の山形公平に戻らなければな。もたついて御堂香苗がやって来たらまたわけの分からん伝道が始まる。それは遠慮願いたいものだ。
ことここに至り、隠そうと思っていたシステムについてを織田に、わずかだが教えようと思ったのにはいくつか理由がある。
一つに、織田がおそらくは最高神クラスの存在であるということ。このクラスの神ともなれば、たとえ何も明かさずともそのうち自力で真実に辿り着いてしまいかねない。
そうなる前にこちらから条件をつけつつヒントを渡すことで、多少なりとも手綱を握ることができれば……概念存在達のすべてが、システム領域の存在を完全に把握するのを防げるかもしれない。
二つに、神々どもに因果操作についてあらぬ疑いをかけられ続けるのも面倒だからだ。
因果律について、より近しい領域の存在であるということをわずかにでもこの男が理解すれば。私が問題ない範囲で因果を操っていることを他の神々に説いて回る、ストッパーとなるかもしれない。
そして最後に……これがおそらく一番の理由だろう。
織田へ向けて言う。
「私やソフィア・チェーホワの正体を知りたいのだろう? 明確に教えてやることはできないが、私に接触を果たした概念存在はお前が初めてだ。記念というわけでもないがな……一応の規則でもある。真実に至る一欠片のみだが、与えてもいい。ただし、概念存在である以上はいくらか誓約を結んでもらうがな」
そう、ここが私やワールドプロセッサにとって一番の理由と言えよう。織田は、コマンドプロンプトの魂たる私に接触を果たした。
これこそが一番の理由なのだ。
以前の祝勝会の折にも触れたが、システム領域には現世ないし概念領域からのアクセスルートがごく少数、存在している。
元々はある種の救済措置であり、仮に謁見を果たした時にはワールドプロセッサ直々に、何かしらの報酬を授けるのが一応のルールとしてあるのだ。もっともこれまで、誰一人としてそこまで辿り着けてはいないが。
もはや形骸化して久しいそんな状況に、正規の手段とは到底言えないが織田は陥った。
概念存在として初めて、明確に私の正体を探るつもりで接触してきたのだ。ワールドプロセッサの対となるコマンドプロンプトとしてはこれを謁見にあたると見なし、ルールに則り報酬を授けることはやぶさかでもない。
そしてこの神の場合、真実を知るためのほんの一欠片こそが妥当だと判断したわけだった。
「それが、本当のあなたですか……?」
「そうでもあるがそうでもない。俺は私で私は俺だ。そこを気にする必要はない」
「…………そう、ですか。ならば、誓う内容をお教え願えますか? 無茶なものであれば、さすがに応じかねますが」
山形公平の豹変に、どちらが本物の私が俺かを見定めようとしていた織田だったが、どちらでも山形公平でありコマンドプロンプトであるということには変わりはない。
くだらないことを気にしないよう言えば、素直に頷きさっそく、誓いの内容について問い質してきた。
聡明で何よりだ……顔が青くなっているあたり、あるいはすでに私の、いやこの世の真実に少しずつ近づいている感覚を抱いているのかもしれないな。
近づくどころではない。このモノには早晩、真実に到達してもらおう。
神々にいらぬ動きをさせないために。概念存在全体のストッパーになるために。
私は、織田へと笑ってそれを口にした。
「誓いの内容は──我々のことについてを同格、格下の存在へ語るな。それだけのことだ」
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