これぞまさしく釈迦に説法
滞在中、俺用にと割り当てられた部屋のテーブルに3人、座って茶を啜る。
俺と葵さんが並び、対面には織田。唐突にやってきた概念存在に泡を食っているのは葵さんだけで、俺も織田も実にのんびりというか、平常そのものな様子だ。
「なんでそんなに落ち着いてるんですか……?」
「え、と……まあ、敵対的な相手ではないですからね」
俺さえ含め、得体の知れないもののように見てくる葵さんの、唖然とした疑問と警戒に苦笑いする。
彼女の危惧とか不安は当然のもので、この場合落ち着き払っている俺がおかしいんだろう。とはいえ、さすがに見るからに話をしに来た相手にいきなり喧嘩腰なのもよくはないからね。
あと、これは口に出すわけにはいかないけど普通に封殺してしまえるから、という余裕もある。
油断や慢心をする気は毛頭ないけど、悪いが織田くらいなら隙を突こうが何をしようが問題なく次の瞬間、制圧できるのだ。
そもそも人間じゃない以上、遠慮なり加減なりしなくてもいいから全力でいけるしね。
見え隠れする魂の質から察するに相当高位の神に相当するとは思うんだけど、いかんせんこっちはシステム領域の最上位プログラムの魂だからな。
ある程度の敬意は払うけど、へりくだるつもりもない。向こうもこちらが何者かはともかく、一筋縄ではいかないモノだとは察しているみたいで、穏やかな笑みを湛えて言ってきた。
「敵対したところでどうとでもできる相手、だからでしょう? 私としても、実力差が分からないほどの暗愚ではないつもりです」
「いやいやご謙遜を。魂の色合いからもかなりの高位……下手をすると神話体系における上級神に近いモノだと伺い知れるよ」
「……ハハハハ、偽装しきったはずの魂まで看破してきますか。もはやこの時点で明確な力関係は決着しているようなものですねえ」
にこやかな談笑。だけどまあ、それなりに腹は探り合う。
俺の見立て通りらしく、織田はどうやら相当おえらいさんの神様みたいだ。
感じ取れる魂は上手いこと人間っぽく偽装できているけど、どうしたって漏れ出るものはあるからね。
「偽装はあくまでも偽装だからねえ。そちらさんだって、俺の魂が人間とは少し違うことを見抜いてきているようだし」
「そうですね……いやはや、とんでもない話です。世界というものは広い」
かくいう織田も、俺の魂をただの人間のそれではないと見抜いてはいるだろう。
こっちは正真正銘人間の規格に合わせた人間の魂だけど、本体のコマンドプロンプトとはガッツリ繋がってるからなあ。概念領域よりも完全に上層にあるシステム領域の中枢たる私を、織田くらい神格の高いモノならば多少は気づいてきてもおかしくはない。
「なんか、夏なのに底冷えしてきました……怖ぁい……」
ヒトならざるモノの側面を出してきた俺達二人に圧されたか、葵さんは軽く震えている。
この場にて、ただ一人普通の人間である彼女を巻き込むとよくない。俺は努めて威圧を消し、織田へと静かに問いかけた。
さっさと用件を済まさせて、お帰り頂こうと思うのだ。
「さて……そもそもここは俺の家じゃないし、あなたのようなモノのいるべき場所でもない。手短に済ませてもらえるとありがたいんだけど」
「もちろん。私としましても、分体とはいえ直接動くことを友や子供らからずいぶん咎められていますからね。あなたのような方の前にいるのもなかなか辛いものがありますから、すぐにお暇いたしますとも」
しれっと分家のでっぷりさんに取り入って、使用人として潜入してきたこいつもこいつなんだけど……話だけとはいえ、勝手にこいつをここにまで連れてきた俺も俺だ。
怒られそうだし、さっさと用事だけ済ませてとっとと帰れって話なわけだけど、織田もいろいろしがらみがある中でわざわざここにまで来たようで、長居するつもりがないらしいのは助かる。
コホン、と軽く咳をしてから。
織田は俺を見、そしてこう言った。
「……単刀直入に申します。あなた方が今、相手取っている倶楽部なる組織には神々は一切、関わっていません。そのことを表明しに来たのと、それと、一つだけ忠告しに来た次第です」
「忠告?」
「あまり、派手に因果を動かさないほうが賢明ですよ」
穏やかな顔で、目だけを鋭くしての一言。
倶楽部に神々が関わっていない、という話も重要っちゃ重要だけど、むしろその後。俺の因果操作についてのほうが織田にとっては大変なことのようだな。
「どうやっているのかは知りませんが、あなたは権能レベルで因果律に介入できる能力をお持ちのようですね……それも我々よりもずっと深く、そしてずっと広く、ずっと強い範囲で。ですが分かっていらっしゃいますか? アレは概念存在の誰にも理解の及ばない、正真正銘のブラックボックス」
「…………」
「下手に触りすぎて、世の理が大いに乱れてしまえばどうなることか。我々にさえ予想がつかないものをあなたはどうにも軽々に触られている。そこについて、神々からは釘を差したいと思いましてね。今回ここへ来たのは、それがメインの目的です」
「そ、そうなんだ……」
結構ガチめに警告してきている。織田、だけでなくその取り巻きの神々にとって因果律というのが、それだけ不明瞭かつ極めて重要なものだという認識があるということだろう。
ただ、そのー。やはりというべきか、こいつらはシステム領域については何一つ勘づいていないみたいだな。
ブラックボックスもへったくれも、今こいつの目の前にいる俺こそが因果律そのものなんだよね。言っちゃうと今、因果律が因果律について説教されているという状況なわけだ。
い、居た堪れないなあ……
明日からしばらく、昼12時にも追加で投稿しますー
よろしくお願いしますー
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