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神様、やって来ました

「《そこな肥満体型を介抱し、疾く己の屋敷へと戻り一月は外へ出るな。ダイエットでもさせろ》。加えて《今後、今日という日に関する記憶の一切を思い出すことを禁ずる》」

 

 泡を吹いて倒れたでっぷりさんの、使用人さん達に織田と名乗るナニモノかはそう告げた。瞬間、彼ら彼女らの様子が目に見えて変わる。

 騒ぎ、焦っていたのが能面のような無表情となり、黙って淡々と介抱を始めたのだ。そのあまりの切り替わりぶりに、葵さんが困惑してつぶやく。

 

「これは、一体……!?」

「権能か……なるほど概念存在だな」

 

 事態を飲み込めていない彼女に対し、俺のほうは大体のことを察してきていた。静かに、織田を見据える。

 

 今、このモノは権能を使った。

 己が存在の持つ権限を駆使して、でっぷりさんに口を噤んで気絶することと、使用人さん達にでっぷりさんともどもお家に帰り、自身の記憶を封印するよう仕向けたのだ。

 警戒しつつ問いかける。

 

「この様子だとここに潜り込むのにも使ったようだな……偽装してはいるが、神々のモノか。人間相手に何をしているんだ」

「御名答。さすがに見抜かれるとは思っていましたが、あまりにも早い。どうにも格が違うと言われているようで正直、複雑ですね……そこの者については、まあ、いささか目障り耳障りでしたので。危害を加える気は毛頭ありませんのでご承知おきいただければ」

 

 苦笑して、織田は手をひらひらと振り答える。神らしいといえば神らしい、どこか人を食ったような態度だ。

 そう、神。概念存在の一種族である彼らのうちの一体が今、権能を駆使してまで御堂家にまで潜り込んでいるのだ。そして目当てだったろう俺に接触を果たし、その正体を垣間見せている。

 男はにこやかに、努めて友好的な様子で言った。

 

「ここに至るまで多少、強引な手は用いましたが……誓ってあなたと敵対する気はありません。概念存在の言う"誓い"が、どれだけの意味を持つかはご存知で?」

「……精神体。ゆえに概念的なやり取りをこそ存在の要とする概念存在は、約束事や誓ったことについてはどのような形であれ護る。そうでなければ自身の存在さえも反故にされかねないからな。強力無比なる権能を持つ代償として、その有り様はひどく不安定でもある」

「それも御名答。いやはや……人間の身で権能を使いこなし、我々についてひどく詳しくしかし、自身は概念存在でないご様子とは。一体何者なのでしょうかね。少なくとも神々の間ではあなたの話題で持ちきりですよ。我らの理の外にあるモノだ、とね」

「えぇ……?」

 

 何それ怖ぁ……思わぬ騒ぎになっているらしいことに内心、うめく。

 見知らぬ神が直接やって来るほど、目をつけられてしまっているのは予想外だ。精々地元の神社とかの神が興味を抱いている程度だと思ったんだが、事態はずいぶん深刻らしい。

 

 葵さんが警戒を解かないまま、いつでもスキルを使えるようにしているのさえ、織田は気にせず穏やかに笑うままだ。

 まあ、正直神相手となると葵さんには荷が重い。人間の身体に宿ったいわば端末の状態だから、そこまで無体なことはできないだろうけど、それでもA級トップクラス並には戦えるだろうからね。

 

 その辺で言えばそれこそ、魔天を殺しきった時のマリーさんなんかは概念存在の天敵とも呼べただろうな。次元を超えて存在の核を斬るなんて、まさしく神殺しってなもんだし。

 というわけで葵さんに並ぶように──あからさまに庇うでは失礼だろう──、織田へと告げる。

 

「その辺含め話があるんだろう? 落ち着いて話せる場所へ行こう……あ、《つまらない真似はするなよ》。用が済んだらさっさと帰ってくれると助かる」

「っ……もちろん。そう圧をかけずとも、私は敵ではありません」

 

 事実上不法侵入な上、ずいぶん好き放題してくれているからな。釘を差すのも兼ねて少しだけ威圧したんだけど、それがずいぶん彼を打ちのめしたみたいだった。

 概念存在の基準は肉体に拠らず、魂だからな。人間の規格に合わせているとはいえ質そのものはコマンドプロンプトである俺の魂は、こう言うとなんだけど織田にとっても脅威的なモノだろう。

 

 まして、向こうはシステム側について何も知らないみたいだし……余計に俺がなんなのかというのも気になるはずだ。人でなく概念存在でもない俺を、理外の存在と呼んだのはつまりそういうことだろう。

 神々の事情を少しだが垣間見つつ、俺は葵さんを引き連れ、織田を自室へと連れて行った。

 

「だ、大丈夫なんですかね山形くん!? どう見たってこの人、普通じゃないですよ!」

「普通じゃないのは間違いないでしょうね。神ですし。とはいえ、今は人間の体を使っているわけなんでいざとなれば殴り倒せば意識は刈り取れますよ。動きも鈍いでしょうから」

 

 通路を歩くがてら、葵さんが焦った様子でヒソヒソと話しかけてくる。初めて遭遇した概念存在にすっかり圧され、冷や汗を流している。

 単純な強さ以上に、容易く人間を催眠的に動かしてしまえる権能を警戒しているみたいだ。たしかにアレは、相当強靭なメンタルの強さがないとレジストできないかもだけど……逆に言えば精神力でどうとでも対抗できる範疇だ。

 

 何より今は俺がいるしな。葵さんにも慣れれば相手取れると思うけど、そうでない以上はこいつの相手は俺がするべきだろう。

 そう考えつつ、俺は葵さんと織田を引き連れ、自室へと戻ってきたのだ。

ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー


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― 新着の感想 ―
[一言] 下っ端風情が救世主に何しようとしてるのか、と荒ぶる狂信者はいなかったw でもシステムさんは見てるぞ?
[気になる点]  そういえば、マリーさん達って称号とか変わっている?  前人未到過ぎで経験値以外対象外? [一言] 面白い
[一言] 神をも威圧して圧倒する山南君がカッコイイ。また見逃した狂信者さんが悔しがる案件ですねっ
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