逢魔が刻
まあ何やかやはさておいて、ゲーセンでの一時は楽しかった。とりあえず一通りのゲームをしてみたんだけど、最終的には結局、UFOキャッチャーメインで遊んでた気がする。
「え、良いの? くれんの? マジで!」
「もちろん。いらないなら、持って帰って妹にあげるけど」
「いるいる、チョーいる! えへへ……嬉しい!」
ぬいぐるみとかもいくつか取って、佐山さんにプレゼントした。探査者として強化された身体機能を駆使するのってズルじゃない? とか一瞬思ったんだけど……案外、そのへんの能力はUFOキャッチャーでは役に立たなかった。
どっちかって言うと要領とか頭脳なんだな、こういうのに要求されるのって。結局そこそこなお金を費やしたけど、それなりに白熱した末に取りたいものを取れたから良しとするかな。
そんなこんなでもう夕時だ。楽しい時間もこうなれば侘びしさ孕む別れ時、つまりはデート終了が近付いてきていた。
ショッピングモールを出て橋を一緒に渡る。行きしと違い、帰りはゆっくり、惜しむように歩く。
「公平くん、今日はありがとね。めっちゃ楽しかった!」
「さや……り、梨沙さんこそ。今日はありがとう」
お互い、すっかり打ち解けて名前呼びだ。いや、俺の方は全然どもってるけども。
今日一日で佐山さん……いや、梨沙さんのことを、今までよりずっと深く知れた気がする。向こうもきっと俺がどういう人間か、今までよりも分かってくれたことだろう。
「明日から、お互い名前呼びだとさ。付き合ってるって思われたりする、かな」
「えっ!? ど、どうかな。その、照れるなそういうの」
「……ふふっ! 困るとかじゃないんだ。やっさしー」
いきなり超踏み込んできて、反応に困りつつ対応している間に引き下がられた。ヒットアンドアウェイ!?
高等テクでからかわれた感のある俺に、梨沙さんはほのかに大人びた笑みを浮かべた。
「公平くん。私……わ、私たち! 公平くんの日常になりたい」
「日常? え、何それ」
「ぁ……」
しまった! みたいな顔を浮かべている。どうしたのかな。
ていうか俺の日常になるって何かな?
首を傾げる俺に、彼女は若干、早口でまくし立ててきた。
「た、探査者としての公平くんには、御堂さんがいるっしょ? 悔しいけど、私たちにはそっちの方面だと絶対に敵わないからさ! だったら公平くんの、日常生活の方で当たり前に私らがいたいなーって!」
「梨沙さん……」
「……ダンジョンとか戦いで疲れたらさ、帰っておいでよ。私も、私だけじゃなくてみんなも。公平くんを大事に想ってるんだしね」
……なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。
俺に、家族以外で、帰る場所があるだなんて。素直にジーンと来てしまった。
梨沙さん、今日一日を通してきっと、このことを俺に伝えたかったんだろうな。
ダンジョン探査者としてでない、高校生の山形公平には佐山梨沙が、それに松田くんや木下さん、片岡くん、遠野さん。みんながいるって。
友だちが、帰る場所にいてくれる。それってすごく、嬉しいことなんだな。
「ありがとう、梨沙さん」
「……ま、今はこんなもんかなあ。これからだよね、これから」
「これからって、何が?」
「んー? 楽しい学校生活はこれからってこと! ね、公平くん! 探査業も良いけど、私らとも遊べよ〜?」
「それはもちろん! 今日、本当に楽しかったから!」
俺の心からの言葉に、梨沙さんは。
「にひひーっ! そうっしょ、そうっしょ!」
同じく心からの笑みで、返してくれた。
こうして俺の人生初めての学生デートは、良い感じに仲を深めて終わりとなったのだった。
さて、若干暗くなってたから梨沙さんを家の近くまで送って、俺も帰路につく。
晩ごはんには普通に間に合う。今日は何だろ、肉だと嬉しいな〜。
なんてことを考えながら、歩いていた時だ。
「やあ。こんにちは」
なんて、声をかけられた。近くに気配なんてなかったぞ、なんだ?
振り向くと子供が一人。銀髪の、息を呑むような可愛い子だ。中性的で男の子か女の子かも、よく分からない。
え、何? 急に誰?
「あはは。驚かせてしまったかな。ごめんね? ちょっと道を尋ねたくて」
「あ、うん。どこ行きたいの? 一人? 親は」
「その親に会いに行こうと思って。あはは、複雑なんだ、色々と」
苦笑する様さえも美しい、その子が聞いてくるのは隣町の商店街だ。どうやら思い切り道を間違えていたらしい。
妙に超然としてるのに、ドジだな〜。
「いや、はは……まいったなあ、とんだ遠回りかあ」
「ご愁傷さま。親御さんに連絡して、迎えに来てもらえないのか?」
「ん……まあ、そうだね。そうしてみるよ、ありがとう。君は良い人だね。久しぶりに温かい気持ちになったよ」
その子は優しく微笑み、俺に感謝を告げて踵を返す。なんか、大袈裟な物言いするなあ。
──刹那、俺に言葉だけが遺った。
「会えて嬉しかったよ、次なる時代のアドミニストレータ」
「…………は!?」
「いつかまた会おうね、優しい人。どんな形であれ、僕と君は繋がる宿命にある」
思わずその子を見る──いない!?
どこにもいない。影さえない、姿も、最初からいなかったくらいに何もない。えぇ……?
『…………こんなに早く接触してきますかぁ。お互い何もできないなりに、やるべきことはやろうって腹ですかね?』
「今の誰ぇ、リーベ……」
『こないだ目を覚ましたモノの、端末ですね。それ以上のことは、リーベちゃんにも分かりません』
「怖ぁ……」
いやホラーやん。まじでホラーやん。
目覚めたモノって、例のラスボスかよ。怖ぁ……
デート帰りに季節外れの肝試し。そんな感じの俺でした。
ここまで一区切り。次からまた称号解説エピソード入れます
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間、週間、月間1位、四半期4位
総合日間17位、週間11位、月間12位
それぞれ頂戴しております
ありがとうございます
また、総合評価が4万ptを超えました
本当にありがとうございます、これからも頑張りますのでよろしくおねがいします
引き続きブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします




