因果から切り離せば異世界の魂もこの世界の魂も一緒よ
俺を間に挟んで醜い大喧嘩をかましたきり、すっかりキレて一通り叫んだ挙げ句、もういい! って黙り込んじゃったアルマさん。
ワールドプロセッサもこの分だとしばらくお怒りだろうし、あとに残るは脳内で喚かれてしまった哀れな俺ちゃんと、無惨に誹謗中傷が書かれたステータスという始末だ。
今後も時折、こういうやり取りされちゃうんだろうなあ……アルマには直接抗議できるけど、ワールドプロセッサのほうにはそういう手段が取れないのが厄介だ。
一方的にこちらの状況を見て、一方的に称号を更新してくるからなあ、あいつ。
「…………いや。できなくはない、のか? 今なら」
そこまで考えてふと、手段がないってこともないのかなと気づく。
間接的になるんだけど、普段システム領域にいるモノを介せばワールドプロセッサにも、こちらからメッセージを送ることができるのではないだろうか。
「そう、たとえば……最上位精霊知能を呼び出す、とか?」
「失礼します、公平くん」
精霊知能召喚スキル《風よ、はるかなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》。これで呼び出した精霊知能に、ワールドプロセッサへのメッセンジャーになってもらえばいいんじゃ──
と、思ったところで香苗さんがやってきた。声がけしてから襖を開け、部屋に入ってくる。なんじゃらほい?
「どうされました、香苗さん?」
「あ、いえ。その、改めてお話をさせてほしくて来ました」
俺のところまでやってきて彼女は座った。いつものにこやかな笑顔で告げてくる。
青樹さんも助けて捕まえられて、少なくとも直接的なバトルって意味での敵対はもうない。だからだろう、大分気分の晴れやかそうな顔でいてくれてるね。
彼女の分のお茶を淹れ、渡す。
静かな時間を若干楽しんでから、香苗さんはおもむろに切り出した。
「……今回も本当にありがとうございました、公平くん。あなたのおかげで、かつては師とさえ仰いだ人の惨い最期を、見ずに済みました」
「いえいえ、どういたしまして。青樹さんに限らずあんな末路、あっていいはずありませんしね」
「そうですね……人間がモンスターになる、だなんて」
憂鬱そうに香苗さんは視線を逸らした。やはりバグモンスターという、元は人間だった異形の存在に対して思うところが山とあるようだ。
思えばその場にいたヴァール達はもちろん、話を聞いたマリーさんや烏丸さん達だって凍りついていたんだから……みんな、事態の思わぬおぞましさが嫌でも気にかかるんだろう。
俺の正体を知る香苗さんが、おずおずと質問してきた。
「あの……ああいった現象はこれまでにあったりしたのですか? たとえば動物がモンスターに、ですとか」
「いえ、まったく類例はないですね。モンスターの出処を考えれば、あるはずのない挙動なんで」
そりゃ気になるよね、その辺ってば。
もしかしたらこれまでに倒してきたモンスターだって、元々は別の動物や人間が変異したモノなのかもしれないなんて、可能性さえ脳裏をよぎるだろうし。
ただ、モンスターがどこから来ているのか……それを考えると絶対にそれはないと俺には言い切れるのだ。
ゆっくりと話し始める。
「モンスターとはそもそも、邪悪なる思念に食われてしまった異世界の魂達です。彼らは侵略の尖兵としてモンスターの形を取り、この世界を攻めてきていました」
「ええ……そしてシステムさんがダンジョンに発生させる形でこの世に解き放ち、それが我々探査者の成り立ちにも繋がったと」
"完璧なるモノ"を求めて暴走し、いくつもの世界を喰らい我が物としてきた邪悪なる思念、つまりはさっきまで醜すぎる言い争いをしていたアルマ。
モンスターとはあいつが異世界を侵略するに際し、食らった魂を尖兵として利用するために象らせた存在だったりする。
邪悪なる思念が滅びた今もなお、そうしたモンスターは尽きることはなく出現しまくっている。
異世界の魂達が一つ残らずこの世界の輪廻に還るまで、永遠と続くのだ……探査者の存在や使命というのもつまるところ、モンスターを倒してその魂を倒してこの世界に受け入れることにある。
それを踏まえて俺は続ける。
「モンスターとはすなわち、輪廻に還れない異世界の魂の成れの果てなんですよ。しっかり輪廻に紐づけされている現世の人間やら動物が、そんなものに成り果てることはない。けれど」
「実際に青樹さんが、モンスターになってしまった」
「あの時の青樹さんはあらゆる因果から独立していた。輪廻からさえも無理矢理引き剥がされ、それこそ異世界の魂同様になってしまっていたんです……この世界においてそんなこと、想定されている挙動ではありません」
異世界から来た、本来この世界とはなんの縁もない魂がモンスターになる、というのであれば……現世の魂も、この世界との縁から独立させればモンスターになってしまえる、と。
理屈としてはそんなところだろうが、実際にそんなことが起きるなんてのは信じられないことだ。
まずあらゆる因果から独立させるというのが、たとえシステム領域の存在であっても至難の業だからな。
既存の別の動物とかに変えるならまだしも、本来この世にいなかったモンスターに変生させるためなんてありえない。ありえなさすぎて逆にそこからいろいろ、伺いしれてしまったところがあるほどだ。
「こんな真似、人間だけでできるものじゃない。概念存在か、精霊知能か……とにかく上位次元のモノが裏で糸を引いていると思われます」
「人間社会の中、だけの話ではないということですか……」
香苗さんの言葉にうなずく。
いずれにせよことは現世に収まらない、そのことはみんなにも伝えておかないといけないだろうな。
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