仲良くでも喧嘩はするな、ワールドプロセッサ×2!
御堂家の皆様からこう、なんとも言えない過剰な感謝を賜り終えて、俺は仮宿の部屋に戻ってきた。
感謝ってのは、するのはいいけどされるのはむず痒い。当たり前のことをしただけであるならなおのことだ、なんか自分が大層な何かになったような心地になって落ち着かない。
こういう時は黙って瞑想だ。すっかり癖というか習慣づいた俺である。座布団に座って一人、ゆっくり目を瞑る。
途端、心がスーッと落ち着いてきた。さすがは称号効果だ、どんな精神状況でも途端にフラットに戻してくれるパワーはとんでもないぜ。
平静を取り戻し、一人茶を淹れ啜りだす。はあ、夏だけど熱いお茶が沁みる。
ずずずーと音を立てていると、脳内でアルマさんが不意に、呟いてきた。独り言でなく明らかに俺への言葉だ。
『……で、公平。この一連の面白騒動なんだけどさ』
「思っていてもせめて面白はつけるなよ、不謹慎だぞ」
『面白いもんは面白いんだからしょうがないだろ。ただでさえ娯楽不足のところ、僕ですら予期せぬバグモンスターなんてのが出てきて正直めちゃくちゃ興奮してるんだ。分かるか?』
「分からん」
ちーっとも分からん。バグモンスターなんて出てきてなんでそう、面白がれるんだこいつは。
まあ、他人事だからか……ただでさえ興味本位、面白半分で人に自分の力を分け与えてたりしたしな。改めて邪悪なる思念だわ。
呆れた心地で思わず口に出して返すと、アルマはふん、と鼻を鳴らしてせせら笑った。
そうして続け、こいつなりに今回の倶楽部の騒動について思うところをつらつらと述べていく。
『僕が思うにね……これ、人間だけの仕業じゃないと思うよ』
「……お前もそう思うか。思うよな、やっぱり」
『いくらこの世界の人間が文化や文明的に発達しているからと言って、人間をモンスターに変えるなんて普通の技術ツリーでできるわけないからね。ナニモノか、人ならざるモノが裏で糸を引いていると予測するのは、世界というものの仕組みを知るならば普通の発想だろう?』
俺も内心、同じ推測を立てていた。バグモンスターを見た時点で瞬間的に、これは人間だけでやらかしてしまえる次元の話じゃない、と勘付いたのだ。
そう、いくらなんでも人間だけであそこまでのことはできない。スレイブモンスターまでならギリギリ、なんらかの方法で没スキルを手に入れたとかで説明できなくはないけれど。人間をモンスターに変えた結果、生まれるバグモンスターについては完全に説明不能だ。
人間をヒトならざるモノに変えるなど、人間だけの手では絶対にできない。できたらそれはバグですらない、重大なエラーだ。そのくらいこの世界の仕組み上、あり得ないことなんだ。
けれど今回、現実として青樹さんはモンスターに変貌した。スレイブモンスターを作り出すのに必要らしい、スレイブコアなる結晶を複数食わされて巨大な肉の塊へと無惨に変えられてしまったのだ。
「そんなこと、最低でも現世よりは上の次元にいるモノの権能だ。人間に限らず現世のあらゆる生物は、長い時間の中で少しずつ進化していく以外に自らの種族を変じることはできない」
『現世より上で、しかも知的生命体が存在している階層……つまりはシステム領域か、あるいは』
「概念領域……か。精霊知能か概念存在が、少なからず噛んでいる可能性は大いにあるな」
やはり同じ結論に至っていたようで、俺はため息を吐いた。
システム領域もしくは概念領域にしか基本、いわゆる高次生命体は存在し得ない。
例外として始原の4体なんてのもいるけど、あいつらに人間に干渉して好き放題やらかせるだけの力はないからな──そういえばアメさん、あいつら呼んだのかな。またぞろ、講習会開かないとね。
と、話が逸れたがそれはともかく。
現世の存在には絶対になし得ない事象が起きている以上、可能性としてはシステム領域か概念存在にいるナニモノかが人間、委員会なり倶楽部なりに干渉して暗躍しているというのが挙げられる。
となると精霊知能か概念存在かのどちらかに、的が絞られるというわけだった。
「精霊知能はワールドプロセッサと、あと精霊知能統括担当が全数管理してるんだけど……正直もう、ここまで来たら一人二人くらい逃げ出してるやつとかいても不思議じゃない気はしてる」
『僕か言うのもなんだけど、僕への対処に気を取られすぎて自分とこの世界については割とザルになってたもんね、この世界のワールドプロセッサ。君という特大のイレギュラーさえいなければ、まさしく爆笑ものの滑稽さだったんだけどなー』
こいつ……本当にどのツラ下げて言ってるんだか。
今に至るまでのシステム領域の不備というか詰めの甘さは、翻ってはすべてのリソースを他ならぬこいつの相手に費やしていたからなんだが。
────と、称号が変わった。
これは分かる。俺ですらちょっとカチンときたし、ワールドプロセッサからすればさらにイラッとくるだろう。
ステータスを開いて俺は、更新された称号に目を通した。
名前 山形公平 レベル891
称号 道化と気づかぬ道化こそ、何より滑稽なる道化
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
称号 道化と気づかぬ道化こそ、何より滑稽なる道化
解説 己の無知を知らぬ者。その愚かさをこそ嗤いましょう
効果 なし
《称号『道化と気づかぬ道化こそ、何より滑稽なる道化』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……結果としての今がすべて。邪悪は潰え、力無き一つの魂として囚われた。道化よ、精々囀りなさい》
『公平が! コマンドプロンプトがいなければ喰われて終わっていたやつが! 偶然に次ぐ偶然に助けられただけの弱者が! 何を偉そうに言うんだかなあ!! おい聞こえてるだろうコラ! 公平からも子飼いの精霊知能からも信用ならない腹黒扱いされてるやつが、何を偉そうに吠えてんだ!!』
「止めろ! 俺の脳内と称号で喧嘩すんなお前ら!!」
俺はネット掲示板とかじゃないんだ、なんの得にもならないレスバトル止めろ!!
煽られて明らかにキレたワールドプロセッサさんの称号と、それに対して痛いところを突かれたのか顔真っ赤にしてそうなアルマさん。
お前ら実は仲良しとかじゃないのか、絡むと毎度喧嘩しやがって!
とにかく他所でやってくれ!
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




