御堂本家の感謝と誓い
倶楽部制圧作戦終了後、俺は香苗さん、エリスさん、葵さんと一緒に御堂本家まで戻ってきた。
一大イベントも終わってスレイブモンスターも倒しきったし、青樹さんも救出の上で捕縛することができた。悪用されていたバグスキル《次元転移》も剥奪済みで、火野に逃げられたのを加味したとしても、結果としてはかなりいい感じだ。
そんなわけで後処理等をソフィアさんや新川さん、烏丸さん達におまかせして、俺達は一足先にオフということになったのだ。
このまま特に何もなければ本日8月7日から10日までの概ね、4日間は素敵なお家でパラダイスサマーバケーションである。やったね!
「公平くん、改めて言わせてください。この度は青樹さんを助けてくださり、本当にありがとうございました」
「見事じゃ山形殿! さすがは香苗が見初め崇める救世主じゃな、ウハハハハハ!!」
「は、はあ。あの、どういたしましてぇ……」
はしゃいでいたのも束の間。本家さんに戻るなり俺はすぐさま香苗さんに連れられて彼女のご家族のところまで連れて行かれ、こうして何やら感謝されたりウハハハされたりしています。
倶楽部幹部・青樹さんをどうにか、バグモンスター化というおぞましい現象から助け出したことは香苗さんだけでなく、ご家族のみなさんからも相当な御評価をいただくような話だったみたいだ。
いやまあ、助けられるならそりゃ助けるでしょうあんなのって話ですから、俺としては別にそんなお気になさらずとも……って感じなんだけども。
「青樹さんにはかつて、香苗のことでいろいろとお世話になっていたからね。そんな彼女が数年前、よからぬ思想に染まり師弟関係を解消するまでに至ってしまったことを残念に思っていたんだけれど……」
「話を聞けば娘も山形さんに諭され、もう一度彼女と向き合う決意を固めたとか。本当に、あなたにはなんと御礼を申せばいいものでしょうか」
博さんと栄子さんも、青樹さんと香苗さんの関係性にまで絡めて感謝してくる。どうやらご家族様方も彼女とは面識があるらしい。
それもあり、こうして過分なお言葉を頂戴しているわけだね。
香苗さんを見る。いろいろな師弟関係を見て、青樹さんとのかつての師弟関係を振り返り……今一度、彼女と話し合うことを決意した姿がそこにはある。
せっかくそこまで決めたってのに、青樹さんを目の前でむざむざモンスター化させて、あまつさえ死なせたなんてなったら一生引きずる傷になっていただろう。
スキル《風浄祓魔/邪業断滅》が発動して本当によかったと心から思う。大切な人の、心と未来を護れたことが誇らしい。
彼女を優しく見つめつつ、俺は御堂家のみなさんに言った。
「俺、いえ僕は……ただただ、微力ながら力を尽くさせてもらっただけです。香苗さんやマリーさん達、信頼する仲間の助力もあり、なんとか青樹さんを助け出せました」
「微力だなんてとんでもない……! 邪悪に支配された青樹さんを清め祓い、そして救われたのは誰でもなくあなた様のお力あってこそなのです、救世主様!!」
「け、決定打はそうだとしても。そこに至るまでは当然、みなさんのお力添えあってこそですから」
ちょっとそのノリ、ここでは止めてもらっていいですかねぇ?
正直そう言いたいくらい、泣きたくなるほどいつものアレなノリの香苗さん。ああっ弟様が見てる! 香苗さんのクレイジーファンらしい光さんの、突き刺さるような視線が俺に来る!
ていうか実際、俺一人じゃ厳しいところはあったからね、マジで。
直前の大量空間転移で俺の体力も削られてたし、なんなら今だって疲れからか眠いもん。そんな状態で一人であの肉塊相手にしろってのは、できなくはないけどさすがに骨は折れたことだろう。
極めてスムーズに行ったのは、ベナウィさんが初手で大きく敵にダメージを与え、ヴァールとエリスさんが足止めをして、そしてサウダーデさんがサウダァァァァァァデと叫びながら本体までの道を文字通り、切り拓いてくれたからなのは間違いないのだ。
だから俺一人がどうのこうのという話ではない。青樹さんは、俺達みんなで力を合わせて助け出したのだ。
「今回の作戦はみんな……それこそおまわりさん達や探査者の人達、ダンジョン聖教の方々まで含めた全員が、それぞれのやるべきことをやりきったからの成功なんだと僕は思うんです。ですから青木さんを救えたことも、みんなの力です」
「……なんと立派な。在りし日に見た、わしの親父の威容にも勝る堂々たる気風よ」
才蔵さんが、俺を見て息を呑み、目を細めた。
どこか遠いところを見ている風なのは、父である将太さんを想い起こしていらっしゃるのか。
《奇跡》を手にしてしまった香苗さんを、たった一人で死後でさえ庇い護り続けた偉大なる探査者の先達に勝るなんて、過分なお言葉にもほどがあるよなあ。
さすがにこれには恐縮するしかないけど、才蔵さんは嬉しそうに笑い、言うのだった。
「これが山形公平殿か!! 香苗よ、よく聞けい! 大成した孫に手向ける祖父からの、遺言が如きと心得よ!」
「! ──はい」
「…………御堂はこの御方に大恩ができた。崇め奉れとは言わぬが努めて誠実であれ。光もじゃぞ、彼に対して敬意を払い、誠意をもって接することをゆめ、忘れるでない」
「分かりました。御堂の名に懸けて、大恩に報いる覚悟にございます」
「……承知しました」
祖父として、先代当主としての次代への薫陶。
それを受け、姉弟は静かに、しかし強く頷いた。
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