裏でやらかしてた人達
そこから先はスムーズだった。ヴァールからの連絡を受けた後方待機の人達がやって来て、事態の後始末に取り掛かってくれたのだ。
青樹さんの拘束と病院への搬送、周辺や大穴の底、倶楽部拠点地下の残っている部分の調査と封鎖。そして俺や香苗さん達を倶楽部制圧作戦の本部テントにまで護送するなど、もう至れり尽くせりって感じでテキパキ仕事を進めてくれたのだ。
「お疲れ様だったねえ、公平ちゃん達。幹部の一人には逃げられたが目的も概ね達成できたし、何より無事に帰ってきてくれてよかったよ」
制圧作戦の本部テントにて。大量に差し入れられたおにぎりにありつきながら、一息入れる俺達にマリーさんがそう言ってくれた。
今は青樹さんを救出してから概ね、一時間ほど経過した朝6時すぎ。俺の体力回復を兼ねての朝食会にまた、関係者一同揃ってのちょっとした打ち上げが行われている。
作戦開始前はおにぎりだけだったけど今はなんか、唐揚げとか卵焼きとかお漬物とか、なんなら豚汁なんかも用意されていて普通に立派な朝ごはんである。
仕事終わりの身体に塩気と甘みのあるおにぎりが沁みる。地元自慢らしいお漬物も大変美味だし、豚汁はすすると心が温まる。緊張していた身体が解れる心地で、少なくとも気力と活力が回復していくのが分かった。
冷たいお茶を飲んで、ふうと一息吐いて俺はマリーさんに応えた。
「一時はどうなるかと思いましたけど、まあどうにか第八次モンスターハザードなんてのは防げました。ちなみに、同時並行してたっていう国内の別の拠点については、どうなったとか分かります?」
「ああ、そっちも問題ないよ。東北と九州のほうにはスレイブモンスターは一匹もおらず、常駐していたらしい構成員を何人か捕まえて制圧した。首都のほうもちょいといざこざがあったそうだが、スレイブモンスターも殲滅しきって制圧済みだ。完勝さね、ファファファ!」
「いざこざ……ですか?」
気になっていた他の拠点についても、話を聞くに完全制圧を果たしたようだけど……首都圏にある拠点においては何やらトラブルがあったらしいのが気になる。
唐揚げと卵焼きをおかずにおにぎりを食べ、豚汁で飲み込む。腹が減っているからかバリバリ食べちゃってる俺の疑問に、マリーさんの隣にいる郷田さんが答えてくれた。
「ええ。首都圏支部においてはスレイブモンスターと、制圧チームの能力者犯罪捜査官および探査者チームが交戦中、思わぬ乱入があり乱戦状態に陥ったと報告にはあります」
「乱戦って……なんでそんなこと」
「それが……首都圏に潜伏している別の犯罪組織が倶楽部と結託して拠点を防衛しており、それを追っていた別働の能力者犯罪捜査官一行が、結果的に殴り込みを果たしたということだそうです。仔細はまだ、調査中ですね」
「えぇ……?」
なんか、とんでもないことをサラッと言われた。
倶楽部に協力組織がいて? そいつらが拠点を防衛していて? 制圧作戦が発動してチームと交戦状態に陥ったところ、協力組織を追っていたほうの能力者犯罪捜査官チームがたまたま、殴り込んできたと?
大乱戦じゃん!
倶楽部に別の組織が関わってるってのも予想外なら、そっちの相手をしていた別の捜査官が乱入してきたのも予想外だ。
なんなの一体……俺だけでなく他のメンバーもみんな困惑していると、マリーさんが不意に、大きなため息を吐いた。
怒ってはいない感じだけど、呆れた風に話す。
「まったく、間がいいんだか悪いんだか……どこに行ってもドタバタしとるよ、うちの孫娘は」
「…………えっ。まさか乱入してきた捜査官って、アンジェさんとランレイさんなんですか!?」
衝撃の事実。首都圏に行ったアンジェさんとランレイさんのお二人が、なぜか倶楽部制圧作戦に紛れ込んで暴れ倒したらしい。
ていうか、ってことは倶楽部に協力していた組織ってあれか。ダンジョンコア密売組織"サークル"なのかよ!
「加えて神奈川千尋、ステラ両名もいたらしい。さらにはシャルロット・モリガナ、つまりダンジョン聖教当代聖女もダンジョン聖教騎士団本隊を率いていた……サークルを潰すためにな」
「シャルロット・モリガナ……会ったことないけど姓が同じってことは遠縁かな? 妹の孫だかひ孫だかとか」
ヴァールがより細かい経緯を説明すると、エリスさんが首を傾げた。たしかにエリスさんとシャルロットさん、同じモリガナ姓だな。もしかしたら血縁ってこともあり得るのかもしれない。
しかし、そうかー……アンジェさん達、お元気そうというか、なんか大変なんだなあ。
たぶんサークルの拠点に殴り込みをかけたつもりだったんだろうけど、まさか倶楽部の拠点でスレイブモンスターが山程いるなんて思いもしなかったろう。
ましてや制圧作戦の最中に乱入する形になったとは、マリーさんの言うようにタイミングがいいのか悪いのか。
「ま、最終的にはサークルって組織の幹部どもも何人か倒したそうだし、スレイブモンスターどももまとめて片付けたそうだし。一挙両得といえばそうなのかもしれんさねえ」
「ふふ……お前の孫らしくはあるな、マリアベール。どうしたところで時代の渦中に巻き込まれがちなのは、かつてのお前とてそうだった」
ヴァールが笑うと、マリーさんもつられて苦笑いした。アンジェさんのそういう、タイミングのよさは祖母譲りなんだな。
これもあるいは因果なのかもなあ。そう思いながらも俺は、豚汁を啜った。
次から新エピソードですー
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