倶楽部幹部・青樹佐知の終焉
スキル
名称 風浄祓魔/邪業断滅
解説 風きよらかに魔を払う。邪悪な所業を断ち滅ぼす
効果 魂を救うための戦いに勝利した際、対象をあるべき姿へと戻す。
アドミニストレータ用スキル《風浄祓魔/邪業断滅》が発動した。青樹さんの顔に触れた俺の手から青白い光が溢れ出し、バグモンスター全体を光り輝かせていく。
どうやら効果はあるみたいだ……仮に通用しなければこんな光、出ないからな。これなら問題なく、彼女の肉体は一日前にまで戻るだろう。
モンスターに乗っ取られた宥さん、邪悪なる思念に操作されかけた関口くんに続きこれで3人目の発動となる。
戦いの最中での発動になる今回は、魂を救うための戦いに勝利した際という発動条件に引っかからないか。そこが不安だったわけだけど……ベナウィさんとサウダーデさんの技を受け、ダメージ的にはとっくに倒れていたのかもしれない。
あるいは精神的な勝ち負けで判断していたとしたら、変貌する直前に香苗さんだけでなく俺達にまで逃げろといった時点で彼女は、敗北を認めていたのかもしれないけれど。
そこはもう、彼女にしか分からないことだ。
青白い光とともに、青木さんのモンスター体がゆっくりと崩壊していく。
俺とサウダーデさんは慌てず、しかし速やかに体内から脱出してみんなと合流した。特に成り行きを心配していたんだろう香苗さんが、見るからに焦った様子で俺に詰め寄ってくる。
「公平くん……! ご無事ですか、お怪我は!? ……青樹さんは、その」
「大丈夫。すべては完全にうまく行きましたよ、香苗さん」
正直な本音を彼女に告げる。ぶっちゃけ青樹さんを救えるかどうか、微妙なラインだと思っていただけにこの成功は達成感が強い。
利用するだけ利用されて、最期には捨て駒にされてモンスターとして討伐される。なんて、そんな惨い話あっていいはずないからね。スキルが上手く発動して本当によかった。
光がやがて収束し、人の形になっていく。
あれだけの大きさを誇った肉の塊はすっかり消え去って、後には地面がぶち抜かれた大穴が遺るばかり。
そして、その大穴の傍で横たわり……青樹さんが静かに眠っていた。意識はないが、特に外傷も異常も見当たらない。
香苗さんが真っ先に、彼女の元へと走った。
「青樹さんっ!」
「なんと……ああ成り果てたモノでさえ救うとは。公平殿、君は一体」
「ハッハッハー、さすがは救世主! いやはや、惚れ惚れしちゃうねー」
サウダーデさんの感嘆やエリスさんの賞賛を受けつつ、俺達も青樹さんの元へと向かう。大規模な空間転移の影響か足取りが多少、重いが……問題はない。さすがに今日一日、ゆっくり静養はしたいけどね。
青樹さんを抱き起こし介抱する香苗さんに近づく。軽い触診ながら体調をたしかめていた彼女は、ホッとした様子で言った。
「……異常はなさそうです。とにかくこの後、病院で精密検査は受けるべきでしょうが」
「すぐに手配する。翠川に続き二人目の倶楽部幹部だ、厳重かつ慎重に事を運ばねば、な」
無事を確認できたことを受け、ヴァールがすぐさまスマホを取り出した。おそらく後退している新川さんなり烏丸さんなり、あるいはマリーさんなりに経緯を説明して、救急車を手配してもらっているのだろう。
なんにせよ、ここからは大人の人達に任せる段階だ。俺の仕事は今日のところは、ひとまず──
「あ、いや。まだ一つ肝心なことが残っていたな」
「公平くん?」
「《風よ、はるかなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》──来てくれ精霊知能、ヌツェン」
終わりかなー? と思っていたけど、大切な役目があと一つだけ残っていた。
精霊知能召喚スキルを使ってヌツェンを呼び出し、翠川よろしくバグスキルの切除を頼むのだ。どうあれ《次元転移》は青樹さんには過ぎた力だ、放置しておくわけにはいかないしね。
「公平くん! それが噂の、精霊知能呼び出しスキルですか……!?」
「はい。今からササッとだけ、青樹さんのバグスキルを剥奪してもらいます」
「そんなことまでできるのか……なんともはや、なんでもありだな公平殿は」
香苗さんやサウダーデさんが興味津々に見てくるけれど、いうほどなんでもありでもないですよ、俺は。
コマンドプロンプト本体なら話は別だけど、今は人間・山形公平だからね。
ま、とにかく呼び出し、呼び出し。スキルの発動とともに、俺達の前に現れる半透明の女性──精霊知能ヌツェン。
バグフィックスやバグスキルに絡む問題を担当してくれている彼女が、実に一週間ほどぶりにまた、俺によって召喚されたのだ。
『精霊知能ヌツェン、只今参上いたしました! お呼びいただき光栄です、山形様! ヴァールお姉様!』
「あ、うん。どうもです……」
「お姉様は止してくれないか……そしてあなたはなぜそうもよそよそしいのだ、山形公平」
いやだって、まだ会うの二回目だし。そんな気さくに挨拶とかできないし。怖いし。
紫色をした髪の女性、ヌツェンが挨拶してくるのを複雑な顔で俺とヴァールは応じた。いい子なのは分かるんだけどこう、微妙にグイグイ来るんだよなあ。ちょっと戸惑う。
その辺の、やたらとパーソナルスペースの広い俺達はさておいて。今回呼び出した理由について俺は、ヌツェンに説明した。
「たぶん経緯についてはもう分かってるとは思うんだけど、そこで眠っている女性からバグスキル《次元転移》を切除してもらいたいんだ。できるかな」
『はいっ、お任せください! ──《system:スキルリムーバー》!』
おそらくシステム領域から見ていたんだろう、話がスムーズに進む。ヌツェンは青樹さんの近くにしゃがみ込み、彼女の頭に手を翳した。
そして発動する精霊知能用スキル《system:スキルリムーバー》。システム側の存在にのみ許された、オペレータから特定のスキルを削除するスキルだ。
それをもって青樹さんを、ごく普通のオペレータへと戻すわけだね。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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