燃えろ!救え!探査者達!!
即興ながら段取りが組まれ、そして戦いが始まった。
未だ鎮座するばかりで、なんのリアクションもしてこない青樹さんの成れの果て、桃色の肉の塊に向けて俺たち──俺とサウダーデさん、ヴァール、エリスさん、ベナウィさん──は、一気に駆け抜けて距離を詰めた。
「初手はいただきますよ! 《極限極光魔法》ライトレイ・オーラバスター!」
駆けながら右手を翳し、そこから超極太のビームを放つベナウィさん。狙いは本体の気配が位置するところよりもかなり上の位置、ド真ん中。
三界機構が一角、災海にさえ有効打だった彼のスキルはまさしく大砲。たやすく肉塊を貫通してぶち抜き、その身に大穴を空ける結果をもたらしていた。
「ふむ、なかなか! あの肉、師匠なら問題なく掘り返せます!」
「上出来だな! ならばこちらも──サウダァァァァァァデ・バトゥゥゥッファァァァァァイッ!!」
「!?」
弟子の活躍に触発されてかまあ、叫びだしたサウダーデさんに思わず唖然とする。な、慣れないなあこの人のこれ……
とはいえさすがのS級探査者だ、叫びは独特だが実力は本物。他3人に先んじて敵に肉薄した、彼がスキルも何も使用せず素のままの拳を振り上げる!
「サウダァァァァァァデ・クラァァァッシュ!!」
青樹さんがいると思われる位置に、最短距離で辿り着けるであろう地点。そこへ振り下ろした拳が直撃し、次の瞬間クレーターが発生した。
すさまじい威力だ……肉塊が著しく凹み、歪み、そして掘り返されて中身を著しく露出させる。肉と骨が入り混じったような、薄気味の悪い桃と白。
さっき施設を吹き飛ばした時もそうだけど、ここまでのことができるのか、オペレータにも。
高レベルゆえの肉体と鍛え抜かれた技術、そして積み重ねた経験による相乗効果。サウダーデさんの攻撃はそのすべてが一撃必殺の威力を秘めていた。
ヒットさせた打撃に好感触を得たのか、彼は続けて蹴りを放つ!
「サウダァァァァァァデ・アタァァァァァァック!!」
右脚による前蹴りが、先のパンチにて抉られた部分に追い討ちをかける。音速の壁さえ超える一撃が、衝撃波を伴いさらに肉を深く、鋭く抉った。
まじかよこの人、衝撃波まで出せちゃったよ! 漫画みたいなことができる人、俺以外にもいたんだ!?
「よし! これならば行ける! 山形殿、方向はこちらで合っているな!?」
「え……あ、は、はい! 問題ありません、このまままっすぐ行けば! 俺も手伝います!」
思わず一瞬、感動というか驚きに思考を持っていかれたけど即答する。サウダーデさんが攻撃を仕掛けている方向に、青樹さんの気配はある。
俺も加勢しなくては! そう思って隣に並び立とうとすると、その大きな手をこちらに向けて彼は、俺を制止してきた。
「感謝すれども無用!! 山形殿は本命の策に備えて温存していてくれ! ──うまく隠しているようだが先程の転移とやら、それなりに消耗を強いる技のようだな」
「! ……お気づき、でしたか」
「当然だ。君のような子供にばかり負担を負わせて、何がS級探査者なものか!」
100人近い人数を同時に転移させる。神魔終焉結界のサポートがあれどもその負担は相殺しきれずに、たしかに俺の体力をそれなりに削っている。
この場面で弱気になるわけにもいかず、どうにか隠し通してはいたんだけど……さすがこの人にはお見通しだったらしい。
彼はダンディに微笑み、俺の頭を撫でた。
「見ていてくれ山形、いいや公平殿。君がこの先、遠からず至るだろう領域の先達は、君にとっても頼る甲斐のある存在なのだと証明してみせよう」
「サウダーデさん……」
「そうだ! 俺はサウダーデ・風間! 憎悪に拠らず敵を討ち、郷愁を胸に燃え盛る者! ──《炎魔導》!!」
俺を名で呼び、彼は前を向いた。再生能力でもあるのか、抉り取られた青樹さんの肉体は蠢いて肥大化していく。
スキルが発動した。手と言わず足と言わず全身を焔に包んだサウダーデさんは、まさしく焔の巨人とも言うべき威容に変貌している。同時に放たれるすさまじい闘気。
大技を仕掛けるんだな。
『────ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
青樹さんが再度、甲高い鳴き声をあげて肉塊全体を揺らした。地響きがなり、その姿がさらに変貌していく。
肉からまるで蔦のように、人間の手足をツギハギしたモノが飛び出て、一斉に俺とサウダーデさんを狙ってきたのだ! こちらを敵と認識して、攻撃に打って出たか!
「《鎖法》! ギルティチェイン・インピーチメント!!」
「《念動力》! 無駄な抵抗はやめて、いいから救われるんだよ青樹佐智!!」
「ヴァール! エリスさん!!」
無数に迫る悍ましい何かをしかし、防いだのは後方から支援に走る二人だった。
ヴァールが《鎖法》で顕現させた両腕の鎖を、無数に散らばらせて手足を貫く。取りこぼしたいくつかのモノも、都度エリスさんが《念動力》で操作し、同士討ちさせている。
問題なしだ。永きに亘り大ダンジョン時代を戦い抜いてきた二人の完全なるフォローに、サウダーデさんもまた、猛り吼えることで応えた。
「行くぞ青樹佐智! モンスターでなく人として貴様を裁くため、今は貴様を救ってみせよう!」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアア──!?』
「奥義ッ! サウダァァァァァァデッ・ファイナルボンバァァァァァァッ!!」
焔そのものと化したサウダーデさんが、雄たけびとともに怒涛の連続攻撃に打って出た。パンチ、キック、チョップを残像が出る程のスピードで繰り出し、すさまじい勢いでバグモンスターを掘削していく。
殴り抜けた後に燃え盛る火炎が、肉を焼き続けるから再生能力も発動していない……一撃単位で特大スリップダメージを持つ、超破壊連打法!
とんでもない威力だ。これならあっという間に、青樹さんの元まで辿り着ける。
これが肉弾戦最強クラスの探査者、サウダーデ・風間の奥義か! 驚愕とともに肉の中、できたトンネルを俺と彼は駆けていく。
「青樹さんはもうすぐです! あと3m、2m──あと一撃ッ!!」
「承知した、サァァァウッ! ダァァァァァァデェェェッ!!」
猛烈にもほどがある勢いで、青樹さん本体までを阻む肉をすべて、抉りとばすサウダーデさん。そして。
「────」
「見えた……青樹さんの本体だ」
全身が肉に埋まり、顔だけが浮かんでいる。モンスターへと変異した彼女の、最後にして唯一の人間部分というわけか。
意識はないらしい。ひたすら静かに目を瞑る彼女を見て、燃え盛るままのサウダーデさんが俺に言葉を投げかけた。
「これは……こんなことが。どうするのだ公平殿。ここから、何ができる。こんなモノに成り果てていては、もう……」
困惑、というよりただただ絶句した様子のサウダーデさん。もはや完全に人間でなくなってしまっている彼女の姿に、彼もどうしようもないらしい。
だが、まだ俺には打てる手がある。
人間でなくなったモンスター、モンスターになってしまった人間。
本来あるべき因果を、完全に歪められてしまった魂を救うための力は、とっくの昔に俺の中にあったんだ。
「これは、魂を救うための戦いである」
コマンドプロンプトへと接続し、パスワードを入力。特定スキルの発動を承認する。
ロールバック期間はざっと1日。因果を絶たれた存在でも、そこに至るまでに遡行すれば対処は可能なはずだ。そこに賭ける。
俺は、意識のないままの青樹さんに触れた。
どんな理由があっても罪は罪だ。けれど……それでも、こんな風にされていい命なんてどこにもありはしない。
『アアアアアアアア、アア、ア──?』
「歪められたる魂よ。今ここに、あるべき因果を取り戻すがいい────」
人として罰を受け、人として贖い、そして人としてやり直すために。青樹さん、どうか人に戻ってください。
願いを込めて俺は、アドミニストレータ用スキルを発動した。
「────《風浄祓魔/邪業断滅》」
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




