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葵さんが青樹さんと戦い始めるに際して、咄嗟に俺はスキルを使った。
鑑定スキル《よみがえる風と大地の上で》……倶楽部幹部達のステータスを看破し、能力者犯罪捜査官達に情報を伝えるのだ。
対象は青樹佐智と火野源一。
二人を対象にして俺は、高らかに叫んだ。
「《よみがえる風と大地の上で》!」
「っ!?」
「これは……鑑定スキルか!」
鑑定スキル特有の視線を感じたのだろう。幹部達がにわかに俺を見、警戒の色を強めた。
オペレータ同士の戦いのノウハウなんて知らないし知りたくもないけど、どうあれ自分達の情報を一方的に暴露されるのは痛いだろう。
火野老人が、しわくちゃの顔をさらにしかめっ面にして叫んだ。
「小僧めが! 先達に対してなんたる不敬、勝手にステータスを覗くなどとは!!」
「甘ったれたこと言ってんじゃないよ、火野源一!」
「ぬう!?」
意外と老翁のほうが反応してきた。青樹さんは見れば、それどころでないとばかりに葵さんとナイフと槍の応酬をしている。
ステータスを覗かれることに抵抗があるらしい火野のほうもしかし、俺にキレている場合でもない。エリスさんが即座に距離を詰め、飛び蹴りをその顔面に食らわせていた。
顔に突き刺さる足が、火野を遠くへ吹き飛ばしていく。そこまで早くはないが代わりに、重い蹴りだ──星界拳とはまた、異なるタイプの足技。
エリスさんはそのまま吹き飛んでいく敵へと飛んだ。身軽に華麗に、空を舞うようにして天高くを跳ねたのだ。
この動きは……《念動力》を自分にかけているな、あの人。
意識の上でどうしてもかけざるを得ないリミッターを間接的に外すのに用いつつも、どんな状況でも理想の動きができるように半ば、第三者視点から自分の体を動かしているんだ。
自分で自分を操作している感覚に近い、かなりの高等テクニックだった。
「78年ぶりに半殺しだ、火野……! 老人だからと加減してもらえるなんて夢にも思うな!」
「も、り、が、な……! クカカカカモリガナァァァアッ!!」
実に第二次モンスターハザード以来となるらしい、因縁の対決。飛びかかるエリスさんに、先の蹴りをも堪えない様子で火野老人が迎え撃つ。
決戦だ……! 俺は急ぎ、幹部二人のステータスを見た。
名前 青樹佐智 レベル385
称号 null
スキル
名称 暗殺術
名称 気配感知
名称 気配遮断
名称 環境適応
名称 次元転移
称号 null
効果 null
スキル
名称 次元転移
効果 次元を現世を基点に一つだけ上昇、下降できる
名前 火野源一 レベル772
称号 格闘家
スキル
名称 剣術
名称 気配感知
名称 気配遮断
名称 肉体強化
名称 玄武結界
スキル
名称 肉体強化
効果 一時的に全身を肥大化させる
名称 玄武結界
効果 任意の対象に一定時間、無敵状態を付与する結界を展開する
「──火野源一は《肉体強化》を持っています! 一時的に筋肉を肥大化させる特殊スキル、つまり今の姿から変身します! 称号は《格闘家》、つまり素手での肉弾戦にも心得があります!!」
「分かった! ……やはり剣から宗旨変えしていたかッ! でぇぇぇいっ!」
咄嗟に火野老人のステータスから読み取れるスタイルを告げると、エリスさんは裂帛の気合とともに火野の肩口にチョップを入れた。
空中からのいわゆるフライングチョップだ、破壊力は高い……が。やはり使ってきたか《肉体強化》、老翁の肉体が盛り上がり、身体そのものを膨れ上がらせていく!
「カカカカッ……かくいうモリガナよ、お主も78年前にも増して暴れよるではないか。《念動力》で己を動かすとはまた、お転婆な聖女もいたものじゃ!」
元の、俺と同じくらいの身長をベナウィさんと同じ2m近くにまで増幅させて。筋肉の塊と化した火野老人は、チョップをまるでものともせずに笑った。
《念動力》で自身を操作している、エリスさんのからくりは即座に見抜いてくるか。
直接的に肉体を強化した火野と、間接的に肉体を操作するエリスさん。
ある意味対象的な二人が、殺意全開で互いを呼んだ。
「おかげであの頃よりもずっと強い……お前の78年を、遥かに凌駕する程度にはな!」
「それでこそエリス・モリガナ! わしが愛して止まぬ宿敵、わしはお前とこうする日を、待ちに待って望んでおったのよぉおおおおおっ!!」
叫びながらも仕掛けてくる火野老人。剛腕にて振るわれるパンチを、華麗に避けて蹴りを放つエリスさん。
肉弾戦の応酬。華奢な少女と老人の見せるまさかのインファイトを横目に、俺は今度は葵さんへと叫んだ。
「葵さん! 青樹さんは実質《暗殺術》による奇襲がメイン戦法です! すり抜けは今は使えませんが、自身の気配を断ち切ることで視界に入ってもなお気づかせない業を持っています! 気をつけてください!!」
「はいっ! ……奇襲なんてね、範囲攻撃の前には意味もないでしょう! サンダースプレッダ・ブレイカー!!」
「ぐうっ!?」
こちらもこちらで至近距離でやり合っていたわけだが、俺の言葉を受けて葵さんが動いた。《雷魔導》による範囲攻撃を放ち、青樹さんに距離を置かせたのだ。
暗殺術も、ご自慢のすり抜けバグスキル《次元転移》がない今、自前の技術でどうにか奇襲できなければ無価値に等しい。香苗さんにも受け継がれている無想無念法こそ厄介だけど……こうして中遠距離から仕掛ければ、それとて脅威にはなり得ない。
「無想無念法……発動しているのでしょうが、練度が落ちている。おそらくすり抜けスキルに頼り切っていたせいで、錆びつかせてしまったのですね。青樹さん……」
香苗さんの、痛切なつぶやきが心に痛い。
俺からはまるで分からないけど、どうやら青樹さんはすでに無想無念法を使っているみたいだ。本来ならばその時点で誰にも気づかせない動きができているはずなのに、まるで問題なく俺にも葵さんにも視認できている。
《次元転移》という技法いらずのチートスキルに頼りっぱなしだったんだろう。アレがある以上、無想無念法とて劣化品に過ぎないのは間違いない。
だが、練度は保っておくべきだったんだ。こうしてバグスキルを封印された時点で、青樹さんの手札はほとんどなくなってしまったのだから。
そもそもからして実力そのものが葵さんのほうが上だし、何より相性差が抜群だ。範囲攻撃ができる彼女に、接近しないと攻撃できない青樹さんでは分が悪い。
顔をしかめる青樹さん。そんな彼女に俺は、次いで質問を投げかけた。
「そして、青樹さん……! あなたは一体、何者です!?」
「何を、貴様……!?」
「公平くん? それは、一体」
唐突な誰何に青樹さん本人はおろか、香苗さんまでもが困惑している。まあ、何者とかこの期に及んで言われたらそりゃね。
だが俺としては……コマンドプロンプトとしては、極めて重大な質問だ。あってはならないことが、青樹さんのステータスには起きていたのだから。
「あなたは……あなたは正規の能力者じゃないでしょう! どうやってステータスを得たんですか、青樹佐智!!」
そう、この女はオペレータではない。
普通の人間がどうやったのか、人工的にステータスを獲得した存在なのだ。
ガッ
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