サウダーデ・バトルファイト!!
「……表がハリボテかどうか、中に非探査者がいるかどうか。そこはひとまず置いておく。仮にいたとしてこの数だ、一班あてがえば確保なり保護なりは容易に適う」
ヴァールの判断はつまるところ、無視だった。地上を放棄したとも言える地下への潜伏の違和感は、たしかにこの局面に至っては大して関係ない。
あとはもう、地下に潜ってスレイブモンスターを殲滅して幹部を捕らえるばかりなのだ。であるならばそこにこそ注力すべきだと、彼女は考えていた。
「それより少しだけ段取りを変える。幹部と思しきオペレータが二人、スレイブモンスターのいる地点より下層にあるというのであれば先に、モンスター討伐隊を突入させて道を開ける──サウダーデ、ベナウィ。やれるか」
「無論。ベナウィ、やつらを視認でき次第お前が一矢を入れろ。追撃で俺が先陣を切る」
本来の段取りであれば本隊もモンスター討伐隊も同時突入し、それぞれ目的を果たすべく行動する段取りだったけど……予想に反して幹部らしき気配はモンスター達よりもはるか下層にいるのだ。討伐隊が先行し、本隊への道を開けるほうがよりスマートではあるんだろう。
サウダーデさんが提案を受け、力強く答えた。ベナウィさんに指示を出し、身体中に力を込めて施設を睨みつける。
「最初に広範囲大火力で数を削り、残る敵を各個対応ですね。私の運用としてはセオリーと言えましょう」
「くれぐれも地下そのものを潰すなよ……分かっているとは思うが」
「もちろん気をつけますとも……私がうっかりすれば、犯罪者を逃すことになってしまう。犯罪の片棒を担ぐことは、愛する家族に誓ってするわけにはいきません」
師の忠告に、こちらも気合十分に応じるベナウィさん。
さすがにマジモードって感じで、真剣な眼差しで戦闘準備を整えている。
そうだ、ここからは少しのミスでやつらを逃してしまうことに繋がる。奴らが逃げればその分、悲劇が連鎖していくかもしれないんだ。
何があってもミスは許されない。俺達は今、これから先に出るかもしれない被害者達の命をも背負っているんだ!
「ならばよし、だ──各員へ通達! 進撃を開始する、作戦決行だ!! まずは拠点のある平野の手前まで進め!」
「了解! 通達、通達!」
「山形公平! 頼む!」
ヴァールの言が飛ぶ……倶楽部制圧作戦、開始!!
彼女の指示を受け俺も即座に、権能を駆使した!
「《この一帯の次元において、バグスキルは封印されているからバグスキルは使用できない》!! ──封じた! 地下にいる連中に至るまで、バグスキルの一切は使えない!」
「よし! 本隊も急ぐぞ、進め!」
問題なくバグスキルの封印を成功させ、俺達も前進する。ここまで来たらステルスなど関係なし、全速力で拠点へと向かう。
木々を各自、走り抜けるなり飛び移るなりしてわずか数分で一気に拠点の間近へと距離を詰めた。各地点に配置された探査者達も次々、施設を囲う形で近場まで到達した。
「各班到達! 待機します!」
「よし! サウダーデ、ベナウィ、ワタシとともに続け!」
もはや目と鼻の先にまで迫った敵のアジト。そしてヴァールは宣言した──まずは自身とS級探査者二人で突入すると!
WSOの統括理事と大探査者の3人で先陣を切るのだ。サウダーデさんとベナウィさんも強く返事して答えた。
「よし……やるぞベナウィ! 今こそ悪を滅する時!!」
「ええ、やりましょう。ミスター・公平達のために道を開きます」
「突入後、スレイブモンスターどもと遭遇した時点でベナウィ、お前は《極限極光魔法》を二発放て……初撃はモンスターを蹴散らすために。二撃目は真上、地下から地上にかけての直通通路を作るためにだ。そしてそれをもって狼煙とし、討伐隊は突入しろ」
「《極限極光魔法》の威力なら、地下から地上まで余裕でぶち抜けるか……!」
先導役でもある3人の段取りの中でも、ベナウィさんの役割は特に大きい。初手で敵を大きく減らし、そして後続に対して通路を作るのだ。
プレッシャーのかかりそうな立場にもベナウィさんは不敵に笑う。さすがはS級探査者、このくらいのミッションは朝飯前ってことだろう。
そして────ヴァール、サウダーデさん、ベナウィさんの三人は一気に駆け出した。拠点に向け、突撃していったのだ!
先頭を進むサウダーデさんが、突然雄叫びをあげた!
「サウダァァァァァァデッ!! バトォォォル・ファイッ!!」
「!?」
「え!?」
「な!?」
「トアァァァーッ!! サァァァァァァウッダァァァァァァデェェェッ!!」
早朝も近い山中に、響き渡る大声。なんだいきなり、なんで叫びだした!?
唖然とする俺達に、オブザーバーとして同行しているマリーさんがファファファと笑った。次いで説明してくる。
「サウダーデ・風間という芸名の由来さね──あいつは戦う時、やたらめったらやかましいんだ。"サウダーデ"というキーワードをあいつなりの、手向けの言葉にしとるみたいでね」
「た、手向け……?」
「"郷愁とともに葬ってやる"ってね。若い頃……母親含めた故郷の皆が、モンスターハザードの犠牲になったことが切欠だそうだよ。異国の地で死んだ母を想い、憎しみでなく慈しみと郷愁とともに敵を黄泉へ送りたいんだってさ」
「そ……それは……」
「び、微妙に反応に困るね……気の毒ではあるんだけど、独特と言わざるを得ないし……」
ご家族をモンスターハザードによって亡くされているなんて、ものすごく悲劇的な話なのは間違いない。
間違いないんだけど……だからといって突然自分の芸名の由来にもなった言葉を叫びながら戦闘しだすのは、いささか個性的と言うほかない。
「サウダァァァァァァデ!! 《炎魔導》、サウダァァァァァァッデェェェッ!!」
「えぇ……?」
なおも叫びながら、しれっとスキル《炎魔導》を使用した燃える拳で拠点施設を殴り崩していくサウダーデさん。
なんとも言えない姿に一同、とりあえず口を噤むのであった。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




