権力のお墨付きを得たぞ!皆の者であえであえ!!
そんなこんなで車は現場に到着した。すでに大勢の人達が集まっていて、おまわりさんがKEEP OUTの表示がされたテープで辺り一帯を封鎖している。
俺達の乗った車はそんな封鎖地域の中に通され、簡易ながら大きめのテントが複数、張られた地点の空き地に停まった。
時刻は3時ちょうど、まだまだ空に星の瞬く深夜。山のすぐ近くだからか、空気がなんだか綺麗だ。
「あそこに"本部"って書いてある看板が立ってるテントがあるだろう? あそこで話し合いと簡単な腹拵えをするよ。ヴァールさんもいるはずだ」
「皆さんお疲れさまでした。どうかご武運のあることを祈ります!」
エリスさんに案内され、運転手の方に武運長久を願われつつも車を降りてテントへ向かう。
周囲には探査者の人達大勢集まって各々準備をしていたり、全探組のパーカーを着たスタッフさんが総出で飯炊きからおにぎりを作っていたりする。おいしそう。
WSOのエージェントだろう、黒服の人達はじっと山を監視してるし、おまわりさん達はあちこち行ったり来たりと大忙しだ。
総じてお祭り騒ぎである。いやまあ、これから始まるのはけっしてそんな、いいものじゃないんだけども。
まさしく戦端が開かれる前のピリピリムードを肌で感じながらも、俺達はテントの中へと入った。
「ちわ~、エリス屋で〜す。倶楽部ぬっころし隊お連れしやした〜」
「あら? 来たのね、エリスちゃん。それに皆様方も」
雰囲気を混ぜ返すような、いつものかる~いノリのエリスさんに、中にいた女性がフワフワした感じの緩さでもって返した。
ヴァール、じゃない。彼女と肉体を共有しているもう一つの人格、ソフィア・チェーホワさんだな。
テーブルにパイプ椅子が複数置いてあるテントの中には彼女と、WSO日本支部の烏丸さん、日本全探組の新川さん、そして警察の郷田さんとダンジョン聖教の神谷さんが揃って座っていた。
挨拶もそこそこに俺達もパイプ椅子に座る。マリーさんがソフィアさんに向け、口火を切った。この場にいる面々にはソフィアさんとヴァールについて知らない人もいるため、微妙にぼかして話す。
「さっそくですが、話を始めたいんですがねえ……その前にソフィアさん、あー、"あなた"はどうされるんです?」
「ん……現地につくまではこんな調子よ。ひとまずは話し合いだもの、お淑やかにいけるならお淑やかにいきたいものね」
穏やかに笑む彼女。なるほど……ヴァールは実際に作戦が行われる段階で顕現するか。
渉外的なところは本来、ソフィアさんの役割みたいだしな。こないだの警察署での話し合いはヴァール主導で行ったけど、今回は本来の役割分担で行くってことだね。
前もってその辺、情報共有をしていたのだろう。
ソフィアさんは淀みなく司会進行を務め始めた。
「それではみなさん、これより本日4時に行う倶楽部制圧作戦に向けての最終確認を行います。司会進行は私、WSO統括理事ソフィア・チェーホワが行います」
「議事はWSO日本支部局長補、烏丸が行います。よろしくお願いいたします」
烏丸さんが議事を取り、ソフィアさんが会を進める。
一時間後に迫る倶楽部拠点への侵攻、その打ち合わせが今をもって行われようとしていた。
新川さんがテーブルに地図を広げ、郷田さんが赤ペンで今いる地点にペケ印をつけた。
そこから少し離れた山中の一点、一見何もなさそうな地点に丸をつけ、2点を道なりに沿った線で繋げる。
ソフィアさんがそれらを指さし、現状説明を始めた。
「丸印が敵の拠点……目標物です。我々の今いるこの地点からは概ね徒歩15分程度。すでにWSOのエージェントと警察の調査隊員が取り囲み様子を窺っていますが、特に変化はありません」
「もぬけの殻という線は?」
「2日前、近隣住民が山中に青樹らしき人物が入っていくのを見た、と話しているのが報告に上がっています。それ以降監視は行っていますが……今現在に至るまで動きはありませんね」
「たまに外に出ては何やら、煙草を吸うなり体操するなりしているようですから、中にいるのはいると思います」
「息抜きでもしてるのか……?」
微妙に生活感出してきたな、青樹さん……息抜きがてら外に出てストレッチしたり喫煙したりって、仕事合間の会社員さんみたいだ。
ともあれ少なくとも現時点ではまだ、青樹さんは拠点にいるものと考えられるわけか。攻め入ったはいいもののもぬけの殻でした、なんてことにはならなさそうでよかった。
「スレイブモンスターについても動きはないようです。こちらも、仮に事前に何処かへ動かしているとすれば数が数ですからすぐに分かります。現状ひとまず、幹部もモンスターも施設内にいると仮定すべきかと」
「はい。ですのでどうやら、当初の予定通りにことが進められます。エリス・モリガナ、早瀬葵、そして協力者に山形公平氏と御堂香苗氏を加えた4人の幹部捕縛チームによる、青樹佐智をはじめとした幹部および構成員の逮捕」
「ハッハッハー、待ちに待ってた出番が来たねー」
呼ばれて頷く俺、香苗さん、エリスさん、葵さん。
あとからサウダーデさんが加わるかもだけど、ひとまずはこの4人で幹部陣、あるいは他にいるかもしれない構成員と相対するのだ。
「サウダーデ・風間氏、ベナウィ・コーデリア氏、そして私ことソフィア・チェーホワのモンスター討伐チームが、全探組の用意した探査者達とともに施設内に進入。スレイブモンスターの撃破殲滅を試みます」
「倶楽部メンバーの捕縛、およびスレイブモンスターの殲滅を達成して安全が確保された段階で、我々警察庁能力者犯罪捜査局とWSOのエージェントチームによる立ち入り捜査に踏み切ります」
「ダンジョン聖教先々代聖女たる私、神谷美穂とWSO特別理事マリアベール・フランソワの両名が本件のオブザーバーとして参加いたします。皆様、なにとぞよろしくお願いいたします」
「多少やらかしても私らの権限でどうにかするから、ま、ある程度は好きにやるといいさね各員。ファファファ!」
探査者達による拠点制圧と、その後に警察を中心とした捜査チームの強行捜査。
オブザーバー扱いとして権威あるマリーさんと神谷さんがバックにつく形になるようだ。
ある程度やらかしてもどうにかするって地味に怖い発言だ。
権力や権威に守ってもらうにしたって、なるべくならやりすぎる人が出ないのが一番なんだけどね。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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