人類最強クラスの人達
車は市街地を抜け、やがて郊外へと出る。山に沿って走ること数十分、現場にはもうすぐ到着するようだった。
それに伴い車内も、静けさが増していく。否が応でも迫る戦いを前にみな、闘志を燃やしているのだ。
エリスさんが、葵さんに声をかけた。
「葵。今回の敵幹部はおそらくは青樹は確定でいるとして、火野と鬼島もこちらに出張っている可能性もある……そうなれば矢面に立って戦う私らにとっては数的不利の状況になる。やれるかい?」
作戦の段取りについては現地にて、ヴァールも交えて打ち合わせるわけだけど……どうあれこの師弟については確定で幹部達を相手することになっている。
近畿拠点を受け持っている青樹さんに加えて、実質的に倶楽部日本支部における総責任者とも言える火野老人、そしてまだ見ぬ鬼島なる者。仮に幹部がこの地に集結しているとすれば、最悪の場合2対3の構図になってしまうのだ。
その辺について尋ねる師匠に、弟子は常のおちゃらけたムードも抜きにして真面目に答える。
「状況にもよりますが、やれます。ただ、師匠と連携してのコンビ戦なら問題ないですけど、向こうがこちらを分断してくるとなると……仮に幹部それぞれが翠川以上の実力を持つならば、私が受け持てるのは一人までですね」
「ん、上出来だ。翠川の倍くらいの強さだと想定した場合、そうなるかもとは私も思ってるよ。その場合、残る二人は私が相手するから任せておいてくれ」
「3人ひとまとめに来てくれるなら、それに越したことはないんですけどね」
翠川以外の幹部の、実力的な部分が今ひとつ見えてきていないのが不気味だけれど。翠川の倍ほども強いなんてことはおそらくないと思うから、最大限警戒しての想定をお二人がしているのはそこからも伺い知れるね。
葵さんが一人、エリスさんが二人相手取る形になる……か。葵さんの実力であれば翠川以上の相手でも、1対1ならどうとでもやれるだろう。
ただ、エリスさんが残り、いるかもしれない二人の幹部を同時に受け持つってのはちょっとリスキーな気はする。
エリスさんが実際に戦っているところを、そんなには見てないからなんとも言えないんだけど、数的に不利というのはそれだけで大きくアドバンテージを取られているのと同義だからな。
そこは俺と同じ危惧を懐いてか、サウダーデさんが問うた。
「失礼ながら……敵幹部を二人とも、まとめて相手にするというのは危険ではありませんか? エリス殿のお力を疑るわけでは、決してないのですが」
「ハッハッハー、いやいやその疑問は当然ですよサウダーデさん。敵は一人でも油断ならないものを、二人も同時に相手するなんてのは不安視されて然るべきです」
気楽に笑うエリスさん。抱かれた疑問はともすれば、彼女の実力を疑うような失礼さを孕むものではあったんだけど……笑ってそれを受け止めて、それでもと続ける。
「ただまあ、想定が翠川の実力の倍くらいなら、なんとかエリスさんでも二人同時に相手はできますよ。倒せるかどうかは向こう次第ながら、時間稼ぎくらいは間違いなくやってみせましょう」
「その間に私が幹部を一人倒して、エリスさんと合流するってわけですね。サウダーデさん……師匠はこれで相当、お強いんですよ!」
自信満々に語る師弟。最悪でも時間稼ぎはしてみせると豪語するエリスさんと、その間に自分の受け持つ幹部は仕留めてみせると話し、かつ師匠を誇る葵さん。
お互いにお互いを信頼している、師弟としても捜査官としても心通じ合ったコンビだ。過去、幾度となくこうした戦いを二人で切り抜けても来たんだろう、過信や慢心でない自信を感じる。
加えてマリーさんが、ファファファと笑って弟子へと言った。
「この人の実力は本物だよ、クリストフ……昔々の、単純な暴力でなら間違いなく人生最高峰にあった私でも、この人を相手取っていたなら下手すると負けてたかもしれないくらいだ」
「……先生がそこまで仰りますか。そうであればこれ以上は、俺の出過ぎた心配ですね。失礼しました、エリス殿」
「いえいえ。御心配いただいたこと、とても嬉しく思いますよ。あとマリー、さすがに当時の君には勝てないだろうからそういう恐ろしい想定止めて?」
怖ぁ……単純暴力で最高峰っていう、65年前の狂犬だったらしいマリーさんもそうだけど、そんな人を相手に一歩も譲らないらしいエリスさんも相当だよ。
師匠の太鼓判まで押されては、サウダーデさんとしてもひとまず納得するしかない。引き下がる彼は、けれど、と念を押すように言った。
「くれぐれもご無理はなされないようにお願いいたします、エリス殿、葵殿……俺も昔とった杵柄ながら、捜査官のライセンスは保持している。ひとまずスレイブモンスター殲滅チームとして動きはしますが、一段落したらそちらへ駆けつけますゆえ」
「頼みます、サウダーデさん。いっそあなたにも最初から、幹部ボコスカチームにご同行いただいてもとは思ったんですがね……連中が手分けして、こちらとそちらの両チームを同時に責めてこないともかぎりませんし」
「ヴァールさんだけに幹部を任せるのは、それはそれでリスクありますからねえ」
やはり能力者犯罪捜査官ライセンスを持っているらしいサウダーデさんも、状況を見てこちらチームに加勢してくれるみたいだ。
まあ、最悪あとで怒られるのを覚悟で俺も割って入るつもりではいるんだけど、サウダーデさんが来てくださるなら心強い話だね。
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