魔法少年?いいえ山形です
門前にはすでに車が1台、停まっていた。
大型ワゴンだ。サイズから見ても10人は乗れる、ちょっとしたバスみたいな大きい車だな。
ドアは開かれていて、中にはすでにマリーさんやベナウィさん、サウダーデさんの姿も見える。というか、運転手の人は見知らぬおじさんだ。
たぶんWSOか全探組のスタッフさんだろうな。
「公平くん、おはようございます」
「や、どーも公平さん。悪いねこんな深夜に」
「おはようございます香苗さん、エリスさん」
律儀に外で出迎えてくれていた香苗さん、エリスさんと挨拶を交わして、そしてさっそく車に乗り込んだ。
葵さんも中にいて、助手席から運転手の人とあれこれ打ち合わせをしている。4時に始まる倶楽部制圧作戦に向け、確認することがいろいろあるんだろう。
そんな彼女も含め、車内にいるみなさんとも挨拶を交わす。
「おはようございます。お疲れ様です、みなさん」
「おはよう公平ちゃん。日本の夏は夜も暑いねえ」
「ミスター・公平、どうも。よく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで。深夜でも気温高いの、困りますよねー」
受け答えしつつ席に座る。香苗さんとエリスさんに挟まれる形で、後部座席に3人での着席だ。
さてこれで全員揃ったようで、葵さんが添乗員よろしくアナウンスをしてきた。
「はーい。みなさんお揃いですねー? そろそろ出発しますけど、忘れ物とかお花摘みとかは大丈夫ですかー」
「えーこの度みなさんを現場へお連れいたします、田中です。お手洗いは現地にもありますので、そちらのほうをご利用いただいても大丈夫です。都合、車で一時間程度の道のりになりますのでそのつもりでお願いいたします」
運転手の田中さんも合わせて注意事項を述べてくる。なんか遠足みたいだけど、実のところ今から能力犯罪者組織をボコボコにしに行くんだよね〜。
ことここに至り、まだやることがあった! なんて人もまあおらず。そうして車はゆっくりと、丁寧にしかし少しずつ速度を上げて走り始めた。
「深夜でこう、みんなで集まって移動するのってなんかテンション上がるよね、公平さん」
「あー分かります。なんか特別なイベントごとって感じありますよね。まあ、今回は普通にお仕事ですけど」
「遠足とかならよかったんだけどねえ……まったく火野だの青樹だの、ろくなことをしようとしないからこうなっちゃうんだよ」
ちょっとした非日常感にウキウキするも束の間、すぐに今回の目的が別に遊びとかでないことに触れてスン……となるエリスさん。
すっごい分かる。はしゃぎたいけどはしゃぐのも不謹慎だし、たとえばこれが遠くにある遊園地に行くための早出とかならひたすら騒げたんだけどね。
二人、肩を落としていると前の席、サウダーデさんが話しかけてきた。
昨日と同じ厳しい顔つきに、しかし穏やかな笑みを浮かべてダンディな面持ちで語る。
「この調子で行けば現地には3時過ぎには到着する。そうしたら少しばかり朝食を摂り、そこから行動開始となる……決戦前の飯はいつも美味いと相場が決まっている。はしゃぐのはなんだが、そこは期待していいでしょう、お二方」
「そうですね……せっかくのご飯ですし、作戦は作戦としてそれは楽しみたいです」
「うむ、山形殿。経験上、大事なのは自然体だ。場にそぐわぬ騒ぎ方をするのは無論よくないが、さりとて場を意識しすぎて身を強張らせ、実力を発揮できないのもそれはよくない。程々が一番だと、俺は思うのだ」
含蓄のあるお言葉だ。百戦錬磨のS級探査者であるサウダーデさんの教えは、俺にとっても非常に勉強になる。
自然体、それが一番難しくて一番大切なんだ。それを考えるとこの場にいるみなさん、揃って自然体なのはさすがだと思う。
世界でも屈指の実力者が集う、またとない機会。
俺としてもまだまだ、探査者歴半年未満のぺーペーなんだから、彼ら彼女ら偉大な先輩方のお姿からいろんなものを学び、吸収させてもらうとしよう。
と、そこでエリスさんがふと気づいたように俺に尋ねた。
「そういえば、ダンジョン探査の時のあの蒼いロングコートじゃないんだね、公平さん。私服なんだ」
「え。あー……そっか、葵さんにはこないだ見せましたけど、エリスさんはご存知ないですもんね、まだ」
キョトンと首を傾げる彼女に、そういえば翠川がやらかした際、葵さんの目の前では結界を発現したけどエリスさんにはまだ、見せてなかったなと思い至る。
というかこのメンツだとマリーさん、サウダーデさんもまだだったはずだ。まあこの際だし、まとめて"これはこういうものですよ"とアピールしておこうか。
座ったまま、俺は結界を起動した。
「神魔終焉結界、起動」
「!? …………これはまた、驚いた」
呼びかけとともに俺の衣服が変わる。神魔終焉結界。
コマンドプロンプトとしての権能を駆使して編み上げた、天地開闢結界にも対抗し得る俺の最強の矛であり盾。いつものように蒼いロングコートを身に纏い、いよいよこれで準備万端だ。
時間にして数瞬すらかけていない。瞬きするより早い着替え。
先程までの私服から蒼いロングコートへと衣服の変わった俺に、エリスさんもサウダーデさんも、ちょっとこっちを見てたマリーさんも唖然としていた。
「変身した、のか……まったく山形殿はたやすくこちらの想像の上をいってくれるな」
「こりゃすごいねえ……装備に関しちゃ準備いらずかえ」
「ハッハッハー、魔法少年?」
「一般探査者です」
隣に魔法少女ゲフンゲフンがいるんだからそういうの止めて! なんか今、無言のままドヤ顔で自慢気にしてるけれども!
エリスさんに訂正を入れつつも、とにかくこれで戦闘準備を整えるのだった。
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