いざ、真夜中の出陣
その後、お夕飯は自室で葵さんと二人で食べて──香苗さんは一族の宴に出席、エリスさんは護衛として同伴だ──お風呂も大きくて豪華な檜風呂をいただき、俺は早めに寝ることにした。
なんせ明日はなんやかやで深夜起きだ。ぶっちゃけ徹夜でも問題はないんだけど、何しろ成長期なお年頃ですから?
できる限り身長の伸びに期待したい山形くんとしては、たっぷり栄養を取ったらぐっすり眠りたいところだったりするのだ。
「というわけでまだ19時前ですけど寝まーす。おやすみなさーい」
「うーん、寝る子が育つ。夜更けまでネット小説読み漁ってるどこぞの師匠にも爪の垢を煎じて飲ませたいですねー」
ポロポロ漏れるエリスさんのプライベート。あの人、基本夜型っぽいとは思ってたけどそんなことしてるんだね、日頃。
お布団敷いて、さあもう寝るぞと意気込む俺ちゃん。さすがに同衾なんてもっての外なので護衛の葵さんも退室するわけで、去り際にしれっと師匠の日常を暴露していった。
なんていうか、多面的な関係性の師弟だなあって思う。
師弟であるのはもちろんのこと、友人のようであったり、姉妹のようであったり……親子のようであったり祖母と孫のようであったり。
あるいは、支え合うパートナー同士であったり。
エリスさんが不老体質という、ソフィアさんとヴァールを除いては世界でたった一人きりだろう特殊な存在であることも関係している感じはするよね。
葵さん、エリスさんを寂しがらせないようにあえて明るく振る舞ってるところかあるっぽいし。長年ともに過ごしてきたからか師匠の強さも弱さも理解して、それを自分が支えようとしているように俺には見えていた。
「香苗さんと青樹さんも……明日、互いを理解し合って仲直りできれば、いいんだけれど」
独り言つ。もっぱら気になるのはやはり、明日決着がつくだろう一組の師弟についてだ。
どうあれ青樹さんは捕まえるし、司法の下に裁きを受けて罪を償ってもらわないといけないけれど……それはそれとして、香苗さんとの拗れた関係については、なるべくお互いにダメージが少ない形で、穏便な形でまとまってほしいと願う俺だ。
そもそも青樹さんには未だ、不明瞭な点が数多い。
どうして真人類優生思想に陥ったのか。なぜバグスキルを保持することとなったのか。どういった成り行きでいつから、倶楽部の幹部なんてものになってしまったのか。
そのあたり、幹部達の中でも一番謎の多い人物のように俺には思える。
「明日……には、倶楽部の正体もある程度、明らかにはなるかな」
たぶんだけど、青樹さんのそうした秘密は倶楽部という組織の中核的な部分と直結している。そんな予感がする。
ある種、分かりやすい動機や役割で幹部をしていた翠川とはわけが違うのだ。彼女はどうにも、何者かの思惑が背後に見え隠れしている。
香苗さんから見ても意味不明な思想の変化だとか、神社で遭遇した時の情緒不安定な様子だとか。一人で勝手にそうなった、というのでは納得しづらい状態になっているのだ。
おそらくはあの、火野老人も一枚噛んでいるとは思うんだけど。
仮にそうやって誰かに、何かをされた末にああなってしまったのだとすれば。
意図的に心を歪めさせられ、本来あるべき姿でいられなくなってしまったとするのならば。
「……すべては明日に分かることか。寝よ、寝よ」
一人であれこれと思い巡らすのもよくはない。ヒートアップしかけた心を、瞑想とともに鎮める。
もしも、青樹さんを貶める何者かがいたとして。その者が明日、姿を表したのならば……それはその時だ。俺のやることは変わらない。
とにかく、香苗さんにとっていい結果に終わってくれればそれが一番だ。
そう願いつつ、俺は微睡みの中に落ちていった。
────そして夜が明け、てはいない真夏の深夜。
俺は自然と目を覚まし、起き上がる。
スマホで時計を確認する。1時49分。予定よりかはちょっと早いな、寝坊しなくてよかった。
背筋を伸ばして身体を解し、まずはトイレに。用を済ませてから洗面台で手を洗い、顔を洗い、歯を磨く。よーしスッキリバッチリ! すっかり眠気が吹っ飛んだ。
えっちらおっちら服を着替える。もちろん神魔終焉結界を着込んでことに臨むわけだけど、何かの拍子に解除した瞬間、往来でパジャマ姿を披露しちゃった……なんてことになるのは避けたいからね。
服を着て、スマホやら財布やら貴重品をポケットに入れて、と。
よし、じゃあ行こうか。
朝ごはんは現地で、全探組スタッフの方々が用意してくれているらしい。警察やらWSOのエージェント、探査者達も総出で陣を敷くんだとか。大作戦だね。
部屋を後にし、門前へ向かう。気配の上ではみなさんもう、ひとしきりお揃いのようだ。どうにか遅刻にはならなさそうでよかった。
「…………うん? え、みなさん?」
「やあ。早くからお疲れ様だね、山形くん」
玄関に到達すると、そこには御堂本家の人達がいた。
博さん、栄子さん、そして才蔵さん。なんなら執事のじいやさんもいらっしゃる。
これは、見送り?
博さんが穏やかな笑みとともに、俺の肩に手を置いて告げた。
「戦に出向かれる探査者を、当家としてもせめて見送りたい……ご武運を。どうか娘をよろしく頼みます」
「ご武運を。そしてどうか、みなさん無事の帰還を」
「悪漢どもに目にもの見せてやってくだされよ、山形殿!」
次々、かけられるエール。じいやさんは火打ち石をこう、2つカッカッと打ち鳴らして魔除けをしてくれている。
なんか……雰囲気あるなあ。決戦前って感じ。テンション上がってきたよ。
彼らに応じ、俺も力強く答える。
「行ってきます。必ず、なすべきことを成し遂げてみんな無事での帰還を果たします」
仕事をこなすのは当たり前。だけどそこから先、みんなで無事に帰還するところまでが……きっと、プロフェッショナルなんだ。
そして本家の皆さんに見送られ、俺は玄関から外、みんながいる門前へと向かうのだった。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー




