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救世主を信じろ。救世主を信じる伝道師を信じろ!

 血を吐くような罪の告白。

 香苗さんはここに至り、弟子としてすべきだったことの一切を放棄してただ、青樹さんを見限ってしまったことを自身の過失であると認めた。

 視野が狭すぎた……抱える事情ゆえに自身のこと以外、何も見えなくなってしまっていたのだ、と。

 

「止めることさえしなかった。間違っているとだけ一方的に告げて、自分勝手に彼女を突き放して一人、すべてから逃げ出した……最低でした。私は、弟子以前に人間としてやってはいけないことをしたのです」

「香苗さん。それは……ちょっと違うと俺は思います」

 

 すべてに向き合った末、自己否定に走りかけている香苗さんを俺は止めた。こちらに視線を向ける彼女の瞳は、暗い。

 

 たしかに香苗さんも青樹さんに対し、あまりにも冷淡だったようには思える。青樹さんが認め難い思想に染まったからといって、それだけで見放すというのはさすがに極端すぎただろう。

 だけどそれをもって香苗さんが、自身のことをそこまで卑下する必要だってどこにもないのだ。友人として、後輩として、そして彼女にとっての救世主として俺は、思うところを語る。

 

「香苗さんのほうにも問題はあったのかも、とは思います。かつての師匠を、話し合いさえ放棄して見限るってのは、その場に俺がいたらもしかしたら止めていたかもしれません」

「そう、ですね。あなたならきっと、いえ間違いなくそうしてくれます」

「だけど。そもそも発端は青樹さんが真人類優生思想に染まったことでしょう……そこは香苗さんは何も関係ない。青樹さん自身の問題であり責任です」

 

 根本原因は間違いなくそこなのだ。青樹さんがそもそもそんな思想に染まらなければ、香苗さんも師匠を見限るなんてことは、少なくともこのような形ではしなかったように思う。

 

 もちろん、どんな思想に至ろうとそこは青樹さんの自由だ。真人類優生思想も俺的には否定せざるを得ないけど、だからといって存在そのものを許さない、とまでは言うつもりはない。

 だけど。自分の思想や主義が、他人から見てどう思われるのか。どういう反応をされるのかについては……そこもまた、各個人の自由であり責任なのだ。

 

「青樹さんは青樹さんの都合で真人類優生思想に染まった。香苗さんは香苗さんの都合でそれを否定し、彼女と喧嘩別れした。冷たい言い方になりますが……それだけのことなんですよ。お互いの都合が噛み合わなかった、という話でしかないわけですから、どちらがいい悪いって話じゃないんです」

「ですが、私は……」

「香苗さんとしては、やっぱり過去に青樹さんを見捨てた自分自身が許せない、ですよね?」

 

 尋ねると無言のまま、こくりと香苗さんは頷いた。

 だったら話は早い。俺は彼女の目を見て、笑いかけた。

 

「だったら今度こそ、彼女と話し合って止めればいい。明日、おそらく対面するだろう倶楽部の拠点で」

「公平くん……」

「お互い生きている。だったら止められる。過去に起きたことは変えられなくても、そこから学んだことで未来はきっと変えられる。香苗さん……数年越しです、青樹さんと師弟として向き合いましょうよ」

 

 話し合うべきと思い、話し合える場があるならば話し合えばいい。何度でも、いつでもどこででも。

 俺は青樹さんにもそう提案していた。香苗さんにだってそうだ。前は香苗さんが乗り気じゃなかったけど、今は違う。

 青樹さんだって、香苗さんを前にすればどう出るか分からないし……話し合いの余地は十分にある。お互い、大事に思い合っているのは間違いないんだから。

 

「きっと、倶楽部の幹部としての青樹佐智に正しく引導を渡してあげられるのは香苗さん。弟子であったあなたしかいません」

「正しく、引導を渡すですか?」

「力づくで事態をどうにかしたって、禍根は必ず残りますから。言葉と心で、彼女を止められることができるのなら……それこそが犯罪能力者・青樹佐智の最期であり、そして」

「私の師匠。探査者・青樹佐智の復活……ですね」

「まあ、罪償いをしてからにはなるでしょうけどね」

 

 肩をすくめておちゃらけた感じに笑う。シリアスな空気だからね、ここらで弛緩してほしいよね。

 ま、つまりはそういうことなのだ。この師弟にはまだ、話し合いで解決する余地がある。だったらまずはそれに向けて進むことが、青樹さんにとっても香苗さんにとってもいい形になると信じたい。

 

「すべては明日、作戦の中で決まります……香苗さん。希望を捨てちゃいけません。青樹さんとはきっと、仲直りできます」

「できる……でしょうか、私に。一度見捨てた、この私が」

「俺は信じます。俺を救世主だと信じてくれているあなたを、俺だって信じてます」

 

 救世主がどーのこーの、いつも句読点を飛ばしてくるこの人だけど。そこまでして俺のことを信じてくれているのは間違いないわけで。

 だから俺もこの人を信じているのだ。俺の想いや考え方を理解しようとしてくれているこの人なら、きっと、青樹さんにだって言葉を尽くして心に呼びかけることができると。

 

「いつもと同じです、香苗さん。伝道するんですよ青樹さんに……俺の素晴らしさとやらじゃなく、あなたの想いと心を、ね」

「当然救世主様についても伝道はしますが……分かりました。この伝道師御堂香苗、我がかつての師にも見事、使命を果たしてご覧に入れましょう!!」

 

 なんでだよ。いらないよこの際救世主については。

 元気を取り戻してくれたのはよかったものの、これまた青樹さん拗れない? と、なんだか不安になる俺ちゃんでした。

ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど青樹ちゃんの依存先が真人類優生思想から救世主になるんですね怖ぁ…!
[一言] 伝道しちゃうのか…変に伝道しちゃうとひときわヤバイのが爆誕しそうw
[一言] つまり 新たな伝道者が誕生する とw
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